第1518話 変身が終わったので巡礼団結成式に出る
「では次はヒューイだ」
《まかせろ、おれはうま、おれはうま》
リンダさんがヒューイの首に鏡をかけると、ぼわんと白煙があがりヒューイは大柄な白馬となった。
《おお、おれはうまだ》
「おお、羽とかは、有るけど見えないね」
羽の位置をさぐってみると、しっかりと手触りがあるのだけど、透明で見えない。
凄いね秘宝。
姿もまったくの白馬である。
「格好いいね、お馬さんのヒューイ」
《おれはかっこいい、うま》
さて、私も変身しよう。
鏡を首に掛けるとボワンと煙が上がった。
「おお、これはこれで」
「赤毛でソバカスでも、マコト様の愛らしさは変わりませんね」
ダルシーの掲げる普通の鏡には、赤毛でソバカスのおきゃんな感じの娘さんが映っていた。
「私は農民上がりのマリー、よろしくねえ」
「これでマコトさまとは見やぶられないでしょう」
「鏡はずっと付けてないとだめなの?」
「いえ、近くに置いておけば問題ないですよ、距離が離れると魔法がとけますので、荷物の片隅にでも入れておいてください」
収納袋に入れてみた。
うん、変身は解けないから亜空間でも近所なら良いみたいね。
ダルシーの鏡とヒューイの鏡も収納袋に入れた。
「変身を解きたい時は、鏡を見ながら『戻れ』で元の姿にもどれます」
「結構凄い変身グッズね」
「聖心教諜報部の秘蔵の宝物です」
ここまでの変身ができる魔道具はそんなには無いね。
教会の諜報部は便利に使っていたのであろう。
「それでは、宿坊の食堂で巡礼姉妹団の結成式がありますので参加なさってください」
「私は地方の豪農の娘達で、一族の功徳を高めるために入信、本物の尼僧を目指して修行中ね」
「私は尼僧の資格はもう持ってますが」
「変装の一部だから、あまり専門家みたいな事を言ってはだめよ」
「わかりました」
「ちがうね。そんなんじゃ駄目だよ、ドリアおねえちゃんっ」
「はうあっ」
ダルシーは胸を押さえてかがみ込んだ。
効果は抜群だ。
じゃねえよ、いちいち妹に萌えてるんじゃあ無いですよ。
「な、慣れますから、そんなさげすんだ目で見ないでください」
「がんばってね、おねえちゃん」
ダルシーは黙って悶絶しておった。
この女はあ。
「私を連れて行くべきでは」
「やだ」
「ぐぬぬ」
リンダさんは、隙あらば付いてこようとするなあ。
「それじゃ、行ってくるねリンダさん」
「行ってらっしゃいませ、聖女さま」
「さあ、いきましょう、マコトさま」
「おねえちゃんで言って」
「い、いくよ、マリー」
「うんうん、行こう行こう」
ダルシーの後に付いて、ヒューイの手綱を引いて大聖堂内を移動していく。
ゴブ蔵とカマ吉とすれ違った。
「おや、マコト様、どうしました、姿がちがいますぞ」
「わかる?」
「ジッジッ」
あ、そうか魔力のラインがあるから従魔たちにはバレバレか。
「巡礼隊に紛れ込むから変装したのよ」
「それはそれは、いってらっしゃいませ」
「ジッジッ」
《行ってくる、ゴブ蔵、カマ吉》
ゴブ蔵とカマ吉に手を振って、私たちは食堂の前に来た。
「あ、きたきた、あんたたちが、東方の豪農の娘、ドリアとマリーだね。わ、立派な馬つれて来たね、荷物が沢山積めてたすかるよ」
書類ばさみを持った若い尼さんが私たちに声をかけてきた。
「はい、よろしくお願いします、私がドリア、これが妹のマリーです」
「私は今回の巡礼団の副団長、バルバラよ、よろしくね、で、こっちこっち」
ヒューイを馬繋ぎ柵に繋ぎ、バルバラさんに付いていくと、奧のテーブルにふくよかな中年の尼僧がいた。
「こちらが今回の巡礼団の団長のヴィヴィアンヌさまだよ」
「こんにちは、ドリアです」
「こんにちは、マリーです」
「ワンワン」
マメちゃんを見て、バルバラさんとヴィヴィアンヌさまの表情がほころんだ。
「まあ、可愛いワンちゃんね、お名前は?」
「マメちゃんです」
「かわいいかわいい、マリーさんのペットなのね」
「はい」
「ペットをはぐれさせてはいけませんよ、逃げて行ったからといって巡礼隊を止めて探すことはできませんので」
「はい、大丈夫です、マメちゃんはお利口なので」
「ワンワン」
任せろという感じにマメちゃんは鳴いた。
「さあ、テーブルに付いて、あと一人、マリーさんと同年代の子が来たら、今回の巡礼団のメンバーが揃います」
「ランチを食べてから、巡礼の旅に出ますよ」
今日は昼に出て、夕方に宿を取るのか。
オルブライト領まで、どのコースで行くのかな。
ダルシーと並んでテーブルに付いた。
隣の若い尼さんが微笑んでお辞儀をしてきた。
やあやあ、よろしくね。
わりと年配の人から、若い尼さんまで、十人ぐらいの尼僧巡礼団だね。
年齢層の幅が広いな。
私が最年少な感じだな。
「あ、きたきた、って、連行だわね」
なんだか目に険がある尼僧……。
つうか、お前、アントニアじゃねえか。
「ヴィヴィアンヌさま、よろしくお願いしますね、もううちの教会では手に負えなくて」
「そうですか、この子は何をしましたの?」
「麻薬を売って聖女さまに成敗されたんですよ」
「あいつのせいでパターソン家は没落して、父も母も兄もバラバラになったわ、聖女マコトのせいでっ」
「あらあら、大変な子ね」
「聖女さまを恨んで、自分が何人も麻薬で破滅させた罪を認めないんですよ」
「わ、私は悪く無いわ、あんな非道な薬だって解らなかったし、騙されてたのよ、私こそ被害者なのよっ!」
「解りました、お預かりします、巡礼の旅で、自分を見つめ直して立派な信仰者となることでしょう」
「お願いします、ヴィヴィアンヌさま」
「はい、おまかせくださいね、シスター」
アントニアは学園にいた頃より痩せていた。
なんとなく煤けた感じになってるな。
パターソン家が一家離散して教会あずかりになったけど、尼さんの手に負えなかったようだなあ。
彼女はダルシーの隣に座った。
「私はドリア、よろしくね」
「……」
アントニアはダルシーの挨拶に黙ってそっぽを向いた。
なんだなあ、感じ悪いなあ。
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