第1516話 鍛冶祭が終わって家に帰る
というか、この祝賀会はいつまでやってるんだ?
ドワーフどもがへべれけになって酔っ払い無双だぞ。
「さて、宴たけなわではございますが、これにて作刀コンテストを終了いたします。また来年、皆様の力のこもった作刀を審査いたしたくスタッフ一同願っております」
わああっと会場が沸いた。
ふう良かった徹夜で飲み騒ぐのかと思ったよ。
「おう、聖女さんたち、二次会すんだが、こねえか」
顔を真っ赤にしたラーベの親方がたわけた事を言ってきた。
バルトロ部長も、おうおうと酒瓶を片手にうなずいていた。
「いかねえよ、学生を飲み会に誘うな」
「まあ、良いじゃねえか年に一度の大祭だから堅いことを言うなよ」
『ヒール』
「ああああっ、酔いが、酔いがふっとんだ」
「んで、なんですか」
「いえ、なんでもありません、失礼しました」
酔っ払うと気が大きくなるからね。
「学生はよっぴて呑んだりしないんですよ」
「まったくヒューマンは軟弱だなあ、ドワーフは十五の頃から酒浸りだぞ」
「体に悪いよ」
「なーにドワーフの肝臓は鉄で出来てるからよう」
「ちげえねえちげえねえ。カトレアとオスカーは二次会にこねえか?」
「また今度なあ、殿を連れてくるよ」
「俺もやめときますよ、まだ学生ですから」
「おう、それじゃあ、解散だ、ありがとうな、聖女さん、あんたのお陰でとんでもない作品が出来たぜ」
「部長には世話になってるからね、あと、冬頃、もっと世話になるかもしれないし」
「お、なんか大型鍛冶物件があるのか?」
「まあ、話が決まったら誘うよ」
夕焼けの疾風号レストアにもバルトロ部長たちを呼んでやろう。
学者さんのコネのドワーフだけじゃなくて、聖女派閥に近いドワーフも参加させないとね。
こうして造船の現場で派閥争いが始まって大変になる感じだが、まあ、知らん!
ドワーフさん達に別れを告げて、鍛冶工業会館の建物から外に出ると、もう真っ暗であった。
ヒューイが乗れ乗れという感じに寄ってきたので跨がった。
コリンナちゃんが乗せて乗せて光線を発してきたので、手をとって引っ張り上げた。
「さあ、帰ろう」
みな、歩き始めた。
王都の塀の中は頑張れば端から端まで歩ける程度の広さだから良いよね。
オスカーの腰には『風の纏い手』があって、なんだか嬉しそうだ。
カロルも見て喜ぶ事だろう。
「良いなあ、僕も聖女派閥謹製の剣が欲しいなあ」
「ライアンさんはなあ」
「腕前がなあ、みょんなあ」
「うう、駄目かあ。派閥のみんなが聖剣とか魔剣とか持っているからうらやましくって」
「ライアンは、そんなに剣客じゃないでしょ」
「下手だよ」
「下手だみょんな、基本的に練習量が足りないみょんな」
「とほほ、剣客女子コンビに否定されると悲しいね」
「ライアンは何が得意なの?」
「あんまりない」
「わりと事務が得意だよ、数字じゃなくて、書類の方」
「それはなかなか、得がたい」
得がたいか? わりと居そうな気もするが、聖女派閥ではめずらしいか。
ブリス先輩系の内政人材か。
目立たないけど、地の塩みたいに居ないと困る系の人だね。
「まあ、将来困ったらマーラー家に来なさい、王国全土で仕事があるから、書類屋は居れば居るほど助かるわ」
「それは良いですねえ。実家は兄が継ぎますし、マーラー領かあ、繊維貿易、うん、楽しいかも」
「では、ライアンは卒業後、マーラー領で事務方ね」
「まあ、就職先がなかったら、ですけどね」
「それはそう」
というか、事務方なら、今流行の百貨店とかの大量販売ストアの事務でも良いんじゃ無いかな。
アライドの百貨店に負けるな、という感じで、アップルトン王都は空前の百貨店ブームなのだ。
オルブライトのドラッグ百貨店とか作らないかな。
大祭の夜は蒸し暑くて、みんな夜っぴて飲み歩いて騒いでいるので、雰囲気が熱帯な感じの浮つきぷりになるのだな。
「よお、学生の姉ちゃん、一緒にどこかにいかねえか、がはは」
「おー、お前たち、木っ端貴族だな、百万長者にしてやり手のビジネスマン、チャールズ・クロウ子爵さまだぞ、ご機嫌をとっておけよ、ぎゃはは」
「お前達みたいな貧相な女学生は……」
そこまで言って、誰に声をかけたか、チャールズと馬鹿メイド二人は気がついたようだ。
「は、ひっ、ひっ、ひーー!」
ラマーズ法か、チャールズ。
「斬り殺しますか、領袖」
「というか、お前達はメイド丸絡みの犯罪で捕まったんじゃないのか? なんでシャバにいるんだ」
「い、いやその、ええと、なんとか逃げ延びまして」
「ご主人様はすげえんだ、鼻薬を効かせる役人をたんと知ってるからねっ」
「今回も致命傷だけど、なんとかお目こぼしで死にはしなかったんだよ、どうだっ」
「きみたち、そんなに褒めるなよう、えへへ」
とんでもない馬鹿たれどもだな。
ジェラルドにメイド丸テロの主犯が逃げていたぞとチクってやろう。
賄賂に弱い役人の捜査も始まるし、悪いことじゃあないな。
「というか、失せろ、子爵より偉い人が沢山いるんだから」
「ははっ、パン屋の娘の聖女の友達になりたい貴族~~?」
「そんな奴はいませ~ん、そのメガネは下水道局の娘だし~~~、うぐぐっ!!」
「始末してもいいですか領袖」
「だめだよ」
「ちっ」
馬鹿メイドにイラッとしたヒルダさんが糸によって、三人をボンレスハムみたいに拘束していたのだ。
「次に見かけたら、ヒルダ・マーラーがお前達を殺す」
「「「ひ、ひいいいいっ!! ど、毒蜘蛛令嬢~~~!!」」」
馬鹿三人は悲鳴を上げて王都の夜へと逃げて行った。
やれやれだぜ。
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