第1514話 その名は『風の纏い手』
作刀コンテストはどんどん進んでいく。
さすがに『雷神』ほどの剣は出なくて、どの剣もミスリル柱に傷を付けるぐらいで終わった。
「やっぱ『雷神』はスゲえのだなあ」
「カトレアしゃんの腕だと思うみょんよ」
「ええ、そうかなあ、えへへ」
コンテスト唯一の槍が壇上に出て来た。
「これは魔槍ですか?」
「はい、銘は『貫胴』です。重力魔法が掛けてあって、前の方に重心が来るので、突き技の威力が増します。あと【切れ味】も掛けてあります」
鍛冶屋さんは普通の人間でドワーフでは無かった。
彼はガタイの良い武芸者っぽい人に槍を渡した。
やあと気合い一閃、『貫胴』はミスリルの柱を貫通した。
おお、やるねえ。
「とはいえ、刀剣コンテストだから槍は不利なんだよね」
「ああ、そうなんだ」
やっぱり槍は使う人が少ないからだろうね。
強力な兵器ではあるんだけど、戦士のイメージは剣だからなあ。
「あぶねえ、剣であの完成度を出されてたら、『雷神』も、うちもやばかったぜ」
「あいつは人間のくせに上手えよな。槍ばっか作るのが難だけどよ」
「ちげえねえ」
つうか、バルトロ部長とラーベ親方が語り合うと絵面が濃くなっていけないな。
ドワーフはだいたい同じ顔だし。
「さて、次は、王立魔法学園鍛冶部の皆さんです」
「おう、オスカーいくぞ」
「わかった」
「おお、試し切りはオスカーがやるのか」
「順当……」
バルトロ部長はオスカーを連れて壇上にあがった。
鍛冶部が打ったオスカーの剣が飾られているね。
ダマスカス風味の製法で作られたから縞模様が全体に入ってとても美しい。
「これは美しい剣です、特殊な鋼材ですか?」
「いやちげえ、実は廃材で出来てる」
「なんと!」
「鍛冶ってのは厳選されたスゲえ金属素材で作られるもんなんだけどよ、この剣の元は、こいつオスカーの先祖伝来の剣で出来てんのよ」
「ほほう、それは興味深い、特殊な剣でありましたか?」
「いいや、良い腕の鍛冶が打った、良い剣だが、普通の剣だ」
「それがどうしてこのような不思議な縞模様に?」
バルトロ部長は、良いか? と問うようにオスカーの顔を見た。
オスカーは微笑んでうなずいた。
「この春に王都で麻薬騒動があったろう、聖女さんが鎮火させたさわぎだ」
「ああ、ありましたね、すごい騒ぎでした」
「あの騒ぎの時にこいつは巻き込まれてよ、悪漢に捕まってリンチを受けて、先祖伝来の名剣を折られたんだ。酷いリンチでこいつの心も折られた」
「それは、なんという」
「聖女さんがよお、その折れた剣を打ち直してくれないかって、俺に頼んできてな。話を聞いて、俺は打ち直してやろうと思ったんだよ、剣は折れ、悪漢にリンチされて心も折れた、だけどよう、また、まただよ、立ち上がれるんだって、何があっても不屈の気持ちで立ち上がるんだ、騎士ってのはそういうもんだ、って、そういう剣を打ちたいと思ったのよ」
「そんな事が……」
「この縞模様は麻薬騒動で悪漢が使ってた銃って武器を鋳つぶして折り込んだんだ、先祖伝来の剣と、悪党が作った道具、そいつを凄い熱で叩いて叩いて折り込んで、形にしたのが、この縞模様だ」
「おお、それは凄い」
「異なる二つの金属を折り込んで、重ねたお陰で、すごい切れ味になりやがってよ。それで、聖女さんのお友達の錬金令嬢と氷結の貴公子の二人が魔法陣を切って、魔剣化してくれたって、わけだ」
「素晴らしいエピソードですな。それでは銘は」
「オスカー」
「銘は『風の纏い手』です。掛かっている魔法は【自動修復】【鋭利化】【風の纏い】等です」
「おお、【自動修復】まで、【風の纏い】とはどんな効果ですか」
「刀身に風を纏わせて剣速を上げ、さらに切れ味の補正もします」
「素晴らしい、それでは試し切り、お願いしましょう」
「オスカー、頼んだぞ」
「任せてください。領袖やみんな、そして我が君が鍛え直してくれたこの剣、存分に振るいます」
ああ、なんだなあ、オスカーの剣を打ち直す事にして良かったなあ。
とても誇らしい気持ちだね。
オスカーは『風の纏い手』を取った。
ふわりと、緑色の魔力のオーラが纏われた。
「おお、あんなにオスカー先輩は魔力が高かったか?」
「あの剣を握った時だけ……、なんだか気合いが入るからだろう……」
オスカーは剣を構えた。
ああ、なんだか姿が美しいね。
微風が私の頬を撫でて壇上のオスカーの方へと飛んだ。
気合いも無かった。
オスカーは、ただ、ゆるりと移動して、もの凄い速度で『風の纏い手』を振った。
チャリーン。
ミスリルの柱が切断されて舞台へと落ち澄んだ音を立てた。
観客は息をのみ、沈黙が舞台を包み、そして、爆発した。
「すごいよ、オスカー先輩!!」
「格好いいですわ」
「ミスリル柱を切断したみょんなあ」
観客はみな立ち上がって、歓声をあげ、オスカーと『風の纏い手』の偉業を褒め讃えた。
「すごいすごい、オスカーがやったなあ」
「うはー、聖女派閥が本気で物を作るととんでもないな」
「それはそう……」
エルマーも誇らしそうだ。
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