第149話 大神殿に来たら、教皇様にご挨拶をするんだぜ
お祈りを済ませたので、みなでぞろぞろと教皇さまのお部屋へ。
「教皇様へ挨拶してくるから、ちょっと待っててね」
「私たちも一緒に挨拶に行っても良いだろうか」
ええ、めんどくせえなあ。
「まあ、良いでは無いか。一国の王子といえど教皇さまにはなかなか会えないのでな」
「まあ、いいや、他の人は近くでうろうろしててね」
「わかりましたわ~、ロイドさま、ステンドグラスを見に行きましょうよう」
「あ、ああ、というか、僕は王子だから、教皇様へご挨拶だよ、メリッサくんといきたまえ」
「きゃ、ロイド王子さまが私の名前を、うれしいですっ」
「た、たのんだよ、メリッサくん」
「はいっ、ジュリエットさま、こちらですわよ」
「ああ、おまちになって~」
メリッサさんとマリリンがジュリエット嬢を連れてステンドグラスの方へ行ってしまった。
ゆりゆり先輩も付いていったな。
「あ、待ってくれ、ステンドグラスなら俺らも見たい」
「ですな、部長」
バルトロ部長以下、鍛冶部組もお洒落組の後を追って行ってしまった。
「カロルは教皇様に挨拶しにいく?」
「そうね、ポーション類を沢山買って頂いてるし」
あとは剣術組か。
「東側のテラスから聖騎士団の訓練を見る事ができますよ」
「お、それはいいな。あとで時間があればリンダさんと手合わせもしたいんだが」
「解りました、ブロウライト卿、私で良ければお相手しますよ」
「こいつは楽しみだ、よろしくな」
カーチスは剣術組を率いて東側へと向かった。
「お手柔らかにね、リンダさん」
リンダさんは黙ってサメのような表情で笑った。
うむむ、カーチスの冥福を祈ろう。
さて、王子二人とジェラルドとカロルを引き連れて教皇室へ入る。
教皇様は私を見ると椅子から立ち上がって満面の笑みで握手を求めてくる。
私が片手をさし出すと、教皇様はがっしりと両手で握り振った。
「やあ、一週間ぶりだね、聖女マコト、今日は学園のお友達を連れてきたのかい?」
「はい、学園の鍛冶部の人が聖剣を見たいと言うので連れてきました。派閥の皆も大神殿に来たいというので連れてきました」
「聖女派閥、ああ、なんという甘美な響きだろうね。僕が四十若くて、学園に居たら派閥に入って一緒に大暴れできたのになあ。残念でならないよ」
若教皇なんか、いらねえよ。
リンダさん並みに凄いトラブルをまき散らしそうだ。
「あと、王子さんたちも聖剣を見たいそうで、連れてきました」
「ああそう」
教皇さまは王子二人とジェラルドをジャガイモを見るような目で見た。
「よくいらっしゃいましたね、ケビン王子、ロイド王子、お久しぶりです」
「ご無沙汰しております、教皇猊下、本日は聖剣を見たく、お伺いしました」
「王家の方が聖剣を見るのも良い功徳となりましょう。聖女マコトとリンダに付いて宝物庫へいらっしゃいまし」
「ありがとうございます。幼い頃に見たきりですので楽しみです」
ケビン王子は教皇さまに頭を下げた。
教皇さまはうむうむとうなずき、彼の片手を握って、肩をぽんぽんと叩いた。
「それと、教皇様、私の親友の、カロリーヌ・オルブライトを紹介いたします」
「おお、オルブライト伯爵家の」
「ご紹介にあずかりました、オルブライト伯爵家のカロリーヌと申します」
カロルが可愛くカーテシーを決めた。
教皇様もにこやかにお笑いになられた。
「これはこれは、オルブライト家には、各種ポーションをいつも融通して貰って助かっているよ。なにせ、教会の治癒力だけでは、どうしても手が足りない所があってね」
「お役に立てて嬉しゅうございます」
「なんのなんの、こちらこそだよ。またポーションの納品量を上げたいと思うから宜しくね」
「はい、こちらこそ宜しくおねがいします」
オルブライト領では、特産のポーションを教育機関と宗教施設に格安で卸しているのだな。
薄利だけど、量がでるので、美味しい仕事らしい。
ポッティンジャー公爵領でもポーションを生産しているが、大口の販路がオルブライト領に押さえられてるので、厳しいらしい。
ビビアン嬢がカロルを目の敵にするのはそのせいもあるんじゃないかなと疑っているな。
世の中の大抵のトラブルは、お金がらみと決まっておるのじゃ。
教皇様とかるく雑談をして、執務室からおいとまする。
お忙しい方なのに、気さくで良い方だよねえ。
「では、宝物庫に案内してください、リンダさん」
「かしこまりました」
「あっと、その前に、ダルシー」
「はい、何でしょうか」
「東側のテラスに行って、カーチスを呼んで来て」
「かしこまりました」
ダルシーはダッと駆けだした。
もの凄く早いなあ。
重拳で体重を軽くしてんのかな。
「アンヌは西側へステンドグラス近くに居るメリッサさま達を呼んで来て」
「承知いたしました」
カロルがアンヌさんに命令すると、彼女は西側へ駆けていった。
そんなに早くはないな。
「諜報メイドは便利でいいなあ」
「ロイド王子にはリックさんがいるじゃない」
「リックは別にお茶は入れてくれないし」
「はっはっは、お茶は入れませんなあ」
ケビン王子の後ろにも、ガタイの良い護衛さんが付いている。
視線を感じた彼はニコリと笑った。
リックさんよりも細くて精悍な感じね。
「ジャックだよ、クラウザー子爵家」
「クラウザー家、武家の名門ね」
「よろしくお願いします、聖女候補さま」
そう言ってにこやかにジャックさんは頭を下げた。
王立近衛騎士団の二番手かな。
凄く強そうだ。
まあ、王子の護衛が弱くては話にならないけどね。
「ジェラルドは、諜報メイドとか、諜報執事とか雇ってないの?」
「うちは代々政治の家だ、諜報系は抱えていない」
「不便じゃ無い?」
「いらない、政治の家が諜報に凝り出すと碌な事にならない。目の前の情報に目をくらまされて大局を見誤る」
「そうねえ、歴史上、そういう人はいっぱいいるわね」
「ふん、キンボールのくせに言うではないか。さすがはクラーク教授と言わざるをえないな」
「うるせえ、ほっとけ」
まったく、お前はイヤミを付けないでしゃべれないのかよっ。




