第1506話 授賞式は進むよ
絵画アカデミーのコンクールは毎年一回、夏の王都大祭の時期に行われる。
みんな大賞を目指して切磋琢磨してるんだよねえ。
一応、佳作、銀賞、金賞、大賞、と、別枠で特別賞がある。
佳作に入ると絵の注文が入ってプロの絵描きとして生活ができるので登竜門みたいな性格もあるんだな。
「佳作、ピエール・モンタギュー、『春の乱舞』」
佳作から発表され、台の上の絵に掛けられたカバーが外されて見えるようになる。
いやあ、なかなか良い感じの絵だなあ。
花の精がダンスをしているような絵だ。
ああ、受賞の盾を貰っているのは、ケバケバけば男であった。
さもありなん。
「今年は当たり年だな。年によってよお、出来が色々なんで不作の年なんかは腕が立たない奴も受かりやすい。逆に今年みたいに豊作だと、そこそこの腕では入賞できねえんだ」
「そうなんだ」
巨匠のお言葉は聞くべき所があるな。
髭先生の絵もそれで落ちたかな。
銀賞、金賞と移っていき、色んなジャンルの凄い絵を沢山見られて良いな。
「特別賞は大賞の前だ、用意しろい」
「はいよ、師匠」
しかし、巨匠のお弟子さんを差し置いて入賞するのはなんか悪いね。
「特選、マコト・キンボール 『大好きな人』」
カバーが外されるとカロルの笑顔がでて、みな、ほほおと感嘆の声を上げた。
私は階段を上がって、盾と賞金を受け取った。
「なんと、当代の聖女さまでしたか、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
皆が盛大に拍手をしてくれた。
うーん、晴れがましい。
「ふ、ふざけるなっ!! なんで俺が落選で、聖女なんかが特選なんだよっ!! コネ入選だ!! 芸術を穢す行為だ!!」
そう言って貧乏そうな中年が階段を駆け壇上に上がってきた。
なんだなんだ?
ワナビの人か。
「俺はお前なんかを認めない! こんな商業主義にまみれた作品はゴミだ!!」
警備の人が走ってくる。
だが、ワナビさんはパレットナイフを振りかざして、私の絵に斬りつけてきた。
ぎゃあ!!
『ライト』
お得意の崩壊フラッシュライトだ。
「ぎゃあ、目が目が!!」
私はドドドと走りより、暴漢の体の中心をドゲシと蹴り上げた。
「一昨日来い、ぼけえ!」
「うごうああ!!」
よし、カロルの絵は守られた。
といっても、絵自体にも障壁が張ってあるから、パレットナイフでは傷つけられないとは思うけどね。
「おお、聖女さまが金的を……」
「金的……、聖女……」
「金的聖女、金的聖女さま!!」
ぎゃあ、既視感のある展開が始まった。
やめろ、お前ら。
金的聖女とかコールすんなっ!
暴漢ワナビは警備の人に捕まって連れ去られた。
「いやあ、あぶなかったねえ、聖女さン」
派手派手はで男が話しかけて来た。
「斬りつけられる前に止められて良かったですよ」
「ああいう、努力もしないで口ばっかりで文句を言う奴は多いから、困っちゃうよねえ」
どうでもいいが派手男はお姉っぽく喋るな。
さすがは芸術家だ。
一時は騒然としたが、授賞式は落ち着きを取り戻して進行していく。
受賞者は自作の絵の隣で待ってる感じだね。
「今年のアカデミー大賞は、グレゴワール・ラポルト、『大嵐』です」
カバーが外れると大きな絵が現れた。
おお、大嵐の中を突き進む帆船の絵だね。
雄大で良い出来だなあ。
グレゴワールさんはロマンスグレーの紳士っぽい人だった。
「おめでとうございます。優勝カップと賞金です」
「ありがとうございます。苦節二十年やっと大賞を取ることができました。これはひとえに皆様の応援のお陰です。絵画ファンの皆様に心からの感謝を捧げます」
わあっと歓声がグレゴワールさんを包んだ。
二十年、頑張ったんだなあ。
凄いなあ。
偉人だ。
「これで、絵画コンテスト授賞式は終わります。別室で、立食式のパーティがございますので、皆様お誘い合わせのうえご参加してください」
わあっと拍手が鳴り響いた。
「聖女さンは受賞パーティにでるのかい?」
「出るよ、ピエールさん」
「それは良かった、絵の事とか話し合おうじゃあないか」
そう言って派手派手男はニッカリ笑った。
笑うとなんか人が良い感じになるね、ピエールさんは。
そうか、受賞者さんたちと懇談できるんだね。
グレゴワールさんのお話とか聞きたいなあ。
壇から降りると、みんなにわっと囲まれた。
「大丈夫、マコトちゃん」
「ええ、大丈夫ですよ、絵の方も大丈夫です」
「マコトの得意技が炸裂したなあ。というか障壁で捕まえたら良かったんじゃね?」
「まあ、そうだが、なんか自然にこの攻撃が出るんだわ」
「さすがは金的令嬢だなあ」
うるさいよ、コリンナちゃん。
マルモッタン師とお弟子さんが寄ってきた。
「さあ、パーティに行こうぜ」
「そうね、みんな行こう」
「「「「はい」」」」
マルモッタン師の先導でパーティ会場までつれて行ってもらう。
「というか、マルモッタン師匠はコンクールに出ないんですか?」
「まあ、工房をもって親方になった奴は参加を自粛する感じになっていてな。そうしねえとベテランばっかりが賞を取って若手が育たないんだぜ」
「お弟子さんは参加してないの?」
「あははは、今年は落ちました」
「それは、残念でしたね」
「聖女さまは本当の才能をお持ちですから、大丈夫ですよ」
「ありがとう」
さて、パーティで色々と食べようではないか。
うん。
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