第1496話 派閥員の実家に行ってお土産を渡す
私、コリンナちゃん、コリンヌさん、マリリンの四人で女子寮から出た。
《いこういこう》
呼んでもいないのにヒューイが玄関にいて、乗るようにせかしてきた。
しょうがないなあと彼の背に乗った。
「私も私も」
「ほい」
コリンナちゃんに手を出して引っ張り上げた。
「えー、私もー」
「だめでーす、満員でーす」
「ライ一郎とかは一緒に行かないの」
「お父さん、ライ一郎苦手で」
「そうだったのか」
可哀想にライ一郎。
四人で夏の王都を歩く。
結構暑いが、まあ、前世日本ほどではないかな。
湿度が低いから割と楽である。
ヒューイをスタスタ歩かせてひよこ堂へ。
今日もクリフ兄ちゃんがお店にいるな。
「兄ちゃん、帰ってきたよ」
「おお、みんな真っ黒に焼けたなあ、ヒューイも楽しかったか?」
《楽しかった》
まあ、ヒューイの念話はクリフ兄ちゃんには通じてないのだが、なんとなく解ってる感じで面白いね。
父ちゃんと母ちゃんも出てきて、焼けたねえとか言ってくれた。
今日は学園が夏休みなので、わりと暇っぽいね。
お母ちゃんにマリーテで買って来たイチゴを渡した。
「おお、新鮮だね、採りたてみたいだよ」
「三日前に買ったのだけど、最近収納袋に時間停止機能が付いたので」
「おおおお、それはそれは、こんど買い出しを手伝いなさいよ」
「やだよ、めんどくさい」
ひよこ堂では、早朝から王都市場に行ってパンの材料を仕入れに行くのだが、面倒臭いのだ。
イチゴに大喜びしてくれた実家家族に別れを告げて、次はコリンヌさんのマール家だな。
わりと近所なのだ。
マール家に行くと、庭にいたお父さんに見つかって、やあやあ、よく来たよく来たと歓迎された。
「わあ、皆さん焼けましたね、バカンスはどうだったね、コリンヌ?」
「すごく楽しかったよ、これお土産」
コリンヌさんはマリーテの街で買った膝掛けをお父さんとお母さんに渡した。
「夏はつかえないけど、秋とか冬とかあたたかく過ごして、ずっと元気でいてね」
「「コリンヌ」」
両親は感激で涙目だ、つられてマリリンも涙目に。
コリンナちゃんは冷徹だ。
お茶でもというご両親に、これからみんなの家に行きますので、と、コリンヌさんだけが残るように言った。
「え、ご主人様と一緒にいるんだい」
「なんという我が儘者か」
「うるさい『ナ』」
しょうがないなあ。
コリンヌさんのご両親に挨拶をして、私たちはマール家を後にした。
「次はキンボール家か?」
「いや、みんなの実家に行ってから、最後にキンボール家に行こう」
「そうか、だとしたら近いのはうちか」
ケーベロス家に行くのは初めてだな。
家庭訪問みたいで楽しみである。
マール家からしばらく北に行くと集合住宅があって、法衣貴族の宿舎だった。
ほうほう、役人さんのアパートメントなのか。
「狭くて汚いけど、まあ、上がれ、いや狭いからヒューイは無理だ」
《残念》
ヒューイは宿舎の馬繋ぎ柵につないでおいた。
大人しくしてなさいね。
《わかった》
四人で階段を上がって、三階のケーベロス家の部屋の前に行った。
コリンナちゃんがドアベルをリンゴンリンゴンと荒っぽく鳴らすとドアが開いて美人のお姉さんが顔を出した。
「帰ったぞー」
「あはは、おかえりコリンナ、みんなも焼けたねえ、海は楽しかった?」
「信じられないほど楽しかったよ」
お姉さんは振り返り、ご両親を呼んだ。
お二人はおやおやと言いながら玄関に顔を出した。
「あらあら、聖女様、コリンナを連れて行ってくれてありがとうございますね。この子は出不精だからほっとくと寮で勉強三昧の夏を過ごす所でしたよ」
「いやさすがにそれはしない」
「そんな事は無いね、コリンナは勉強好きだから」
「う、うるさいなあ、はい、これ、お土産」
コリンナちゃんはご両親に干物を沢山渡した。
「まあ、美味しそうね」
「マリーテ港で買ったんだ、多分美味しい」
「ありがとうよ、コリンナ、大祭の間だけでもここに帰ってこんかね」
「え、狭いからやだ。姉ちゃんも嫌がるだろうし」
「嫌じゃ嫌じゃ、コリンナは寮に行け」
ははは、下町の家族は遠慮が無いよな。
ケーベロス家の皆さんに別れを告げて、私たちは階段を降りた。
「役人さんはこんな場所に住んでいるのか、いいなあ」
「いいなあというより、薄給だから、ここ以外は住めないと言っていい。下っ端役人は辛いんだよ」
マール家は貴族の執事メイドの家系だから、役人よりも裕福なのかもしれないね。
「さて、最後にマリリンの実家に行こう」
「私の家族は、みんな無骨者で恥ずかしいですわ」
マリリンが頬を染めた。
ゴーゴリー家と言えば、アップルトンの中でも豪の者として知られる家系だ、どんな家かな。
私はヒューイに跨がり、コリンナちゃんを引っ張り上げた。
マリリンの家は役人宿舎から東に少し行った所にあった。
一軒家で、キンボール家と同じぐらいの大きさの家だな。
庭でマッチョ達が三人、鍛錬をしていて、マリリンを見つけて歓声を上げて走ってきた。
「マリリン!! 帰ってきたのかっ!! おお、聖女さまとお友達の皆さんですか、初めまして、マリリンがいつもお世話になっています。ゴーゴリー家の家長、ゴンサロと申します、よろしくよろしく!」
あれだ、リックさん並のマッチョが三人いて、とても暑苦しいな。
「長男のマカリオですっ」
「次男のビダルですっ」
いやあ、よろしくよろしく。
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