第1493話 女子寮に帰り、ひとっ風呂あびる
二週間ずっと派閥の仲間達と一緒に遊び歩いていたから、半分ぐらいになったコクピットが寂しいね。
「夏が終わっちゃうねえ、アダちゃん」
「まだまだ、これからだっ、あと来年も海に行く、行ってスイカを必ず割る」
「スイカがそんなに心残りなんだ」
「小玉スイカしか割れなかったから寂しい」
まあなんだかんだで夏後半であるよ。
あーでも、カロルが居ないと大祭も楽しく無いなあ。
派閥員とワイワイと行くかな。
《俺が行くぜ》
そうだね、ヒューイも一緒にお祭りを楽しもう。
ライ一郎とヤギ次郎がすり寄ってきたので蹴っ飛ばした。
お前達は厩舎にいなさいっ。
「ひどいっ」
なぜかコリンヌさんがヨヨヨと泣いた。
「というか、コリンヌさんはベロナパーティで迷宮アタックに行くのでは?」
「行きたく無いんですよねえ。二週間とか馬車旅なんですが、行きたく無いんですよねえ」
「二度言うな」
「あと、バカンスで私も十五号の収納袋も貰ったんですけど、みんな、うらやましがってオルゲートに変更しそう」
「あらあら」
「ああ、行きたくない、ご主人様の元でのたのたしていたいっ」
「頑張ってきなさい」
「うううう」
とはいえ、コリンヌカルテットでの参加になるから、ベロナパーティの戦力は大幅アップだね。
ライ一郎が普通に強いし、ヤギ次郎は雷魔法つかえるし、ヘビ三郎は溶解液を出すし、そのうえコリンヌさんは僧侶寄りの水魔法使いで、大変有能であるよな。
「収納袋あると秋からのガドラガも楽になるから頑張って狩ってらっしゃいな」
「はい……」
コリンヌさんがシュンとしてしまった。
カルテットの従魔たちも連動するから面白いね。
われわれは夕方前の王都に戻って来た。
大神殿の練兵場にエルマーはすたりと蒼穹の覇者号を着陸させた。
上手いねえ。
孤児達とアダベルがどやどやと下りていった。
「あんたもここなの」
「まだ帰るには早いから孤児院で遊ぶ、ゴブ蔵とカマ吉とオガ太郎にお土産をやるのだ」
「おお、偉いね」
「お魚の干物だ、焼いてみんなで食べる」
まあ、楽しそうかな。
私の従魔もかまってあげれなくてごめんだなあ。
子供達が下りていくと、魔導学園生だけになって、蒼穹の覇者号はひっそりとした感じになったね。
エルマーは無言で離陸して、ビアンカ邸基地の格納庫に蒼穹の覇者号をきっちり駐めた。
上手い。
カーチス兄ちゃんが居ないが、派閥の男衆は、エルマーだけではなく、オスカーとライアン、あとブリス先輩がいるな。
ブリス先輩は勘当の身であるから、帰省は出来ないのだ。
「大祭が終わったら、ホルボス村と地獄谷に詰めて仕事をしますよ」
「いやあ、ありがとうね、ブリス先輩」
「いえいえ、ホルボス山は好きな場所ですしね、なんでもありませんよ」
ブリス先輩は笑った。
やっぱり偉い人だぜ。
男衆は武道場倉庫口から地上に上がって行った。
女子組は地下通路を歩いて女子寮に向かう。
「ああ、なんだか、帰って来たって感じですわ」
「我が家が一番、我が家じゃないけど」
「やっぱり寮はいいわよね」
階段を上がり、女子寮の地下階へと出る。
時間もあるし、ひとっ風呂浴びていきましょうかね。
私が大浴場に行くと収納袋持ちの子は付いて来た。
収納袋がまだな子は荷物があるので、先に部屋に置きに行った。
私も、収納袋の中に、実家とキンボール家の家族にあててお土産を買ってきて入れてある。
明日にでも渡そうかな。
さすがに夏休みなので、先に入っている人は居なくて、派閥員で貸し切りのお風呂であった。
「ああ、やっぱり女子寮のお風呂は広くていいね」
「そうですわね、だけど、ガドラガ基地の温泉、良かったですわねえ」
「わりと特殊な湯で、ヌルヌルしてて、指がしわしわになるのよね。ホルボス系とは違った泉質よね」
「あ、秋のガドラガ行きで、ガドラガ基地は使えますか」
コリンヌさんが聞いて来た。
「動力が無いので駄目でーす」
「ああ、高級ホテルみたいで快適そうだったのに」
「黄金の暁号で不便に暮らしてください」
「ああ、やんぬるかな」
やんぬるかなというのは、あれだ、もうだめだ、という感じの言葉だ。
アップルトン語の慣用句を日本語風に翻訳するとこうなる。
「やんぬるやんぬる」
「黄金の暁号はそんなに狭いんですの?」
「貴族用はまあまあ広いというか、蒼穹の覇者号の三等船室ぐらいの広さだけどね、下級貴族用の部屋は三段ベッド二つで六人部屋でぎゅうぎゅうなのよ」
「ひい」
「そしてご飯が、そんなに美味しく無い、でも不味くもないという不毛食事。お風呂は片舷ごとに一日置き。で、狭ーいお風呂でちゃちゃっと入ってシャワーを浴びるのよ」
なんという地獄なのか。
ガドラガ基地の誘惑が凄いよなあ。
ぐぬぬ。
いや駄目だ、学校の教育の一環なのだから、飛空艇でのせませま生活なのだ。
ああ、蒼穹の覇者号で行っちゃだめかなあ、駄目だろうなあ。
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