第147話 また、ひよこ堂でパンを買って自然公園へいく
午前の学科を修了したぞよ。
あー、前世よりも記憶力が高いから勉強がラクチンで助かる。
基礎スペックは大事。
四時限目の終業の鐘がなり、アンソニー先生がやってきて、ホームルーム。
二年生の居ない週末ですから、街ではめをはずさないように、だそうな。
明日の日曜日はどうしようかな、寮でごろごろしてるのも何だしなあ。
どこか遊びに出かけたいのだが、うーむ。
カロルとお芝居でも見に行くかな。
この世界では、前世の映画にあたるのが演劇なんだよね。
小さい小屋芝居から、大きな大劇場での芝居まで、沢山あるんだな。
「カロルはお芝居とか見るほう?」
私の親友は天井を見上げ、うーんとうなった。
「見たことないわ」
「お芝居見ないの?」
「領地では小さい小屋しか無かったし、見に行く暇もなかったしね」
カロルは領地でも今の調子で働いていたのだろうなあ。
勤勉だなあ。
「に、日曜日、その、よ、よかったら一緒にお芝居を見に行かない?」
「そうねー」
カロルは考え込んだ。
どきどき。
「お芝居行きたいの、連れて行ってあげるよ、うん、オルブライトさんも一緒に、いま、国立劇場で良いお芝居がやっていてね、王家の席が空いているよ、ほら、壁の上の方からみる感じの貴賓室でさ」
ローイードーッ。
私がロイドちゃんにアイアンクローを掛けようとしたら、先にゆりゆり先輩がロイドちゃんに梅干しをくらわしていた。
「ロイド、ちょっと来なさい、世の中には百合の間に挟まる男は死刑という法律があってね」
「いたいっ、いたいよっ、ゆりねえっ!! 梅干しとか、子供の頃くらったっきりで地味にいたいっ!」
ゆりゆり先輩が梅干しをかけたまま、ロイドちゃんを部屋の隅に引っ張っていき、お説教を始めた。
もー、ロイドちゃんはなあ。
返事は、とカロルの方を見ると、
「かんがえておくわ」
と、言って、彼女はふんわりと笑った。
うーむ、これはどうなんだろうね。
でもまあ、なんのお芝居がやっているのか、席は取れるのか調べないとな。
ダルシーとかに聞ける物なのか?
上手くすれば、カロルとデートだデート、二週連続デートですよ。
うっしっし。
「終わったか? で、今日の昼飯はどうする?」
いつの間にか、B組衆も集まっていた。
え、昼飯、そんな事より明日のデートですが。
まあ、仕方が無いよな。
「また、ひよこ堂でパンを買って、公園で食べようか」
「そうだな、その後に大神殿か」
「カーチスは来るの?」
「行くに決まってるだろ、大神殿の宝物庫で聖剣が見られるなんて機会は滅多にないしさ」
「ふむ……、大神殿か……、行ってみよう……」
エルマーもかよ。
まあ、仲間はずれにしても可哀想だしね。
「僕も子供の頃に一度、おばあさまと一緒に見に行ったきりだね、聖剣は」
おい、なにちゃっかり会話に混ざってやがる、ケビン王子は。
友達居なくて寂しいのか?
「それは遠回しに誘えって言ってるの?」
「キンボール、一国の王子にそんな嫌な顔をしない」
「ははは、僕も見てみたいんだ。キンボールさん、一緒に行ってはいけないかい?」
「まあ、好きにしなさいよ、あんたも来るの? ジェラルド」
「当然だ、ケビン王子の行く所、私はついて行く」
まったくもう、王家の忠犬め。
聖女派閥の人たちがおおむね集まったので、ぞろぞろと歩いていく。
校舎の出入り口前で、鍛冶部の四人と合流する。
「もう、大神殿に行くのか?」
「パン屋でお昼を買って、公園で食べてから行くよ、バルトロ部長」
「お昼だとー、そんなもの良いからよう」
「お昼は大事だよっ」
「ぐぬぬ」
まったく、鍛冶馬鹿ドワーフはしょうがないね。
みんなでひよこ堂に行き、パンを買い、自然公園へ行く。
曇ってるけど、雨は無いからいいよね。
ちょっと芝生が湿ってるけど、下敷きの布は水を通さないっぽい。
蝋引きの布かな。
「おっ、畜生、なんだこの美味えパンはっ、学園で二年も居たのにしらなかったぜっ」
バルトロ部長が悪態をつきながら、ばくばくパンを食べておる。
静かに食えよなあ。
「ジェラルドはまた、オニオンベーコンか、美味しい?」
「ふむ、ケビン王子、言ってみれば、これは真理ですな」
「……馬鹿な、……戯れ言を……、真理はマヨコーン」
「なにいっ、エルマー卿、そんなに美味いのか?」
「少し……、分けよう……、ジェラルド卿」
「ふむ、では、僕のオニオンベーコンも食べたまえ」
エルマーとジェラルドが贔屓のパンをちぎって交換しておる。
あの二人では、どっちが攻めで、どっちが受けかねえ。
ジェラルド総受けだと、私は予想するのだが、どっちも頭脳系だしな。
「ふむ、不思議な味わい、確かに美味いが、僕の好みはやはりオニオンベーコンだな」
「そうか……、だが……、オニオンベーコンも悪くはない……」
「そうだろうそうだろう」
「僕は、ホットドックが良いね。ソーセージが美味しいよ」
「王子は素朴な物が好きですな」
「ホットドックは……、王道」
「では、やはり僕にふさわしいねっ」
ケビン王子はほがらかな笑顔を浮かべた。
なんだな、高等一年の子供らしい姿であるな。
国内最大の国王派閥と言っても、今のところつるんでいるのは、ケビン王子と、ジェラルドと、ロイドちゃんだけだし。
などと、カロルにもたれかかりながら聖女パンをかじりながら考えた。
ちょっと肌寒いから、肩が接触している所が暖かくて気持ちがいいね。