第146話 朝の日常は何も無く過ぎていくんだぜ
ベットの上で小さいライト球を出して本を読んでいたら、カーテンがほとほと鳴ってビクッとした。
「ただいま帰りました」
ダルシーであったよ。
カーテンを細く開けるとしっとり濡れたダルシーがいた。
「わ、大変だったね、早くお風呂に入りなさい」
「はい、教皇様からのお返事です」
「はい」
私もダルシーも、ささやくような小声だ。
もう、みんな寝てるからね
「宝物庫への入場は問題が無いそうです、リンダさまが付いて来てくれるそうです」
「ふむ、なにより」
「聖女派閥のみなさまの来訪も、大神殿をあげて歓迎いたします、との事です」
「うむむ、歓迎しなくても良いのだけど、まあいいわ、ありがとうダルシー」
私は濡れたダルシーの頭を撫でた。
水を含んだ彼女の髪はもしゃもしゃしていた。
「さあ、お風呂に入ってきなさい」
「はい、マコト様、おやすみなさい」
ダルシーは音も無くはしごを下りていった。
私はベットに横たわり、ライトの魔法を解除した。
おやすみなさい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
メイドさんたちがお着替えをしている音で目を覚ました。
カーテンを開けて窓を見ると、外は曇りであるな。
幸い雨は止んでるようだ。
「おはよー」
「おはようマコト」
「おはよ~、ふぁー眠い」
カリーナさんも、マルゴットさんもいつもの調子だなあ。
メイドさんがばたばたと出勤していくと、コリンナちゃんがベットから出てきて、んーと伸びをした。
「おはよ、マコト」
「おはよう、コリンナちゃん、雨は上がったね」
「なによりだ」
彼女がからりと窓を開けると、湿った風が吹き込んできた。
ちょっと肌寒い感じ。
「お茶を……」
と、言った所で、ケトルを下げたダルシーが入ってきた。
君は、私が、お茶と言うまで外で待機していたのか?
「あ、ありがとう」
「いえいえ」
「いつもすまないね、ダルシーさん」
「とんでもございません、コリンナさま」
ダルシーがお茶を入れてくれる。
うむ。
味は、まあまあ。
ああ、でも、暖かい紅茶は目が覚めるね。
ふうふうと息をかけて紅茶を飲む。
いつの間にやらダルシーは居なくなっていた。
諜報メイドは便利よのう。
歯を磨いたり、用をたしたり、着換えたりして、鞄を持って部屋を出て施錠である。
「さて、朝ご飯に行こう」
「うむ」
コリンナちゃんと競うように階段を降りると、待ち構えるように、メリッサさん、マリリン、ジュリエット嬢、コイシちゃん、カトレアさんが居た。
せっかくだから、カロルも来れば良いのにと思っていたら、エレベーターからカロルが降りてきた。
「おっはよー、みんな、待ってたの」
「みんなでご飯を食べたいですからね」
「一人で食べるよりおいしいみょん」
「うむうむ」
みんなでぞろぞろと食堂に入る。
結構混んでるねー。
「あ、金的さん、わたしたち、そろそろ上がるから、ここ来たら」
「わあ、ありがとう。というか金的はやめろい」
朝ご飯で時々隣になる一年生グループが、私を見つけて声を掛けてくれた。
「じゃあ、マコトはテーブルを取っていろ、今日は甘いポリッジか?」
「ありがとうコリンナちゃん、甘いのね~」
お言葉に甘えて、彼女らと入れ替わりにテーブルに座る。
みんながトレイを持ってやってくる。
「ほい、マコトの分」
「ありがとう、コリンナちゃん」
コリンナちゃんが、私の前に、ポリッジの鉢を置いてくれた。
サンキューサンキュー。
みんなでわいわいと喋りながら朝食であるよ。
たのしいたのしい。
やっぱりねえ、ご飯が美味しいのはいいな。
一日の始まりがシャキっとしますな。
完食して、空容器を返却口に返して食堂を出る。
「みんな鞄を持ち込んでいるのか、しまったなあ」
「乙女の常識みょん」
鞄を持ってきてない人は部屋に戻るので、お別れである。
鞄持ちだけで、女子寮を出る。
空は相変わらず曇ってるけど、雨の気配はないね。
「めずらしくカロルと一緒に登校だ」
「そういえば初めてね」
親友と並んで歩く。
なかなか楽しい。
にまにま。
校舎の入り口をくぐる。
今日も壁新聞は更新されていないようだな。
二年生がいないからかもね。
みんなでぞろぞろと階段を上がる。
派閥行進であるよ。
悪役令嬢のとりまきってこういう感じに出来ていたのだなあ。
派閥につきものなんだろうね。
派閥構成員はつるんで行動したがるから、だんだんと群れをなす感じになって、移動のさいはぞろぞろとみんなで動くようになるのだな。
B組の前で、コリンナちゃんと、マリリン、ジュリエット嬢とわかれる。
残りのみんなでA組に到着。
寮生活は登校が楽で良いよね。
「おはよう……、みんな」
「おっはよー、エルマー」
「おはようございます、エルマー卿」
「おはようございますぴょん」
というか、なんで剣術女子組はA組なんだろうか。
コイシちゃんもカトレア嬢も、意外に文武両道よね。
机について、今日の教科書を出す。
今日の授業は、数学、地理、国語、魔術理論であるね。
よし、今日もがんばろうっ。
 




