第145話 女子寮食堂でまた命令さんが絡んでくる
ジュリエット嬢が居るので、みんなでエレベーターに乗って五階へ。
チン。
五階の廊下をぞろぞろと歩く。
錬金カウンターにはアンヌさんが居て、こちらを見ると笑顔を浮かべた。
「晩餐のお誘いですか?」
「はい、カロルは錬金中かな?」
「もう、終わる頃ですね、お知らせしてきます」
アンヌさんが立ち上がり、奥に消えた。
ドアの方に歩くと、ガチャリと音がして、カロルが顔を出した。
「あら、マコト、コリンナ、ジュリエット様、いらっしゃい」
カロルが私たちを錬金室に招き入れてくれた。
「不思議な匂いがしますのね~、なんとも落ち着く感じですわ~」
「生薬の匂いね、鎮静効果のある薬草が多いからよ」
ああ、そうか、薬草の匂いって、だから落ち着くのね。
ソファに座って、カロルの錬金が終わるまで、お茶を飲みながら待つ。
「あら、おいしい、カモミールでこんな美味しいお茶は初めてのみましたわ~」
「ありがとうございます」
アンヌさんが笑いながら錬金販売所に戻った。
「一番ポーションを使う二年生がいないから、いつもの半分ぐらいの量なんだけどね。よし」
ぼわんと煙が立ち上り、ポーションが完成したみたいだ。
「アンヌ、瓶詰めをおねがいね」
「かしこまりました」
「さ、晩餐に行きましょう」
私たちは立ち上がり、錬金室を出た。
廊下に出ると、雨が窓ガラスを叩いていた。
ダルシー大丈夫かな。
風邪とか引かないといいけど。
エレベーターで一階まで降りる。
狭いエレベーターが聖女派閥でぎゅうぎゅうであるよ。
チーン。
エレベーターホールに、メリッサさんと、マリリン、コイシちゃんと、カトレアさんがいた。
「あ、来た来た、晩餐ご一緒しましょう、マコトさま」
「待っててくれたの? ありがとう、一緒に食べましょう」
みんなと一緒だと楽しいからね。
隣のカロルもうきうき顔であるよ。
みんなでカウンターに並んで下級貴族食を取る。
今日のメニューはと、メインはチキンカツ、コールスローサラダ、コーンポタージュスープに黒パンだね。
チキンカツはけっこう大きくて食べ応えがありそうだ。
お茶をコップについで、テーブルにつく。
みんなも座っていく。
「今日のチキンカツは暖かいね、美味しそうだ」
「一週間前の食事にくらべると天国と地獄みょん」
コイシちゃんが塩瓶を取りながらそんな事を言う。
この子は何にでもお塩を大量にかけるからなあ。
「いただきます」
「「「「女神に日々の糧の感謝を」」」」
やめろ、おまえらっ、拝むなっというに。
ドミグラス系のソースがかかったチキンカツを口に運ぶ。
サクリ。
ほわーっ、暖かいカツから鳥のうまみが~。
これは美味い。
深みのあるソースも良い感じであるなあ。
あー、美味しい。
「おいしいね、マコト!」
「うん、良く揚げてあるね、ジューシーで美味しい」
うんうん、カロルの隣でご飯を食べるのは楽しい嬉しい。
肩が触れあうのも、ちょっとわくわくする。
「コイシー、塩をかけ過ぎだ」
「うちの方はこれが普通みょん」
「コイシさまの郷里はどこですの?」
「北方みょんよー、寒いんだみょん」
「冬は大変そうですわねえ」
「雪が一クレイドも積もるみょんよー、雪かきが大変みょん」
「一クレイドは凄いですわねっ」
一クレイドはだいたい一メートル弱ぐらいだな。
北方は、ずいぶん雪が降るんだなあ。
ぱくぱく食べていると、命令さんが私たちのテーブルの横に立った。
「ふん、下賎な者ばかりが集まって楽しそうね」
「……楽しいですよ、ケリー先輩」
「いい気にならない事ね、もう、ヒルダ・マーラーは迷宮なのだから」
「そういや、ケリー先輩は迷宮いかないんですか?」
「いかないわよ、あんな野蛮な場所! わたしは高貴な生まれなのだからね、あなたたちの仲間の男子には、侯爵令息や、辺境伯令息がいらっしゃるけど、あなたたち聖女派閥の女子の身分は低いのだから、わたくしにかしづきなさいっ、ほらっ」
命令さんは、鬱憤をはらすようにどや顔で私たちを見まわし、スープを飲むジュリエット嬢の所で目をとめた。
「ケリー? ええと、ホレスト伯爵家のケリーさまかしら、この前のお茶会でご挨拶いたしましたわね」
「は、はひっ、キャンベルさまっ」
「さきほど、かしづけとお聞きしましたけど、聞き間違いかしら~。第二王子のロイド様の婚約者である、このわたくしに、あなたに、かしづけとおっしゃられたのですか~」
やれやれ、命令さんは運が無いなあ。
彼女は、直立不動でジュリエット嬢にぺこぺこ頭を下げていた。
まあ、侯爵令嬢がこんな場所で下級貴族食を食べているとは思わないよなあ。
「そそそ、それは、その、言葉の綾のような物でして、決してキャンベルさまにかしづけなどと申した訳ではありませんのでっ」
「そう、よかった~~。じゃあ、あなたがそこでかしづきなさい、わたくしに」
冷たい声でジュリエット嬢は言った。
彼女は、いつもほえほえしていて中二病だけど、こういう所はちゃんと高位の貴族の令嬢だなあ。
「も、もうしわけありませんでした、キャンベルさまっ」
命令さんはくやしさをにじませながら、頭を下げた。
あたりから含み笑いが聞こえる。
「聖女派閥のみなさまは、わたくしの大事な友達ですからね、軽く扱う事は、わたくしがゆるしません、いいですね」
「わ、わかりました、もうしわけございません」
「行ってよろしくってよ」
「ありがとうございますっ」
命令さんは肩をふるわせながら食堂を出ていった。
「ジュリちゃん、ありがとう」
「どういたしましてですわ。でもなんなのあの方」
「まあ、いろいろある人」
あれ、しかし、命令さんとカロルは伯爵令嬢で同格だよなあ。
カロルでも追っ払う事ができたのかな。
そう思ってカロルを見ていると、彼女は微笑んだ。
「ジュリエット様の方が目上だから簡単よ」
「なんで考えを読むのだ」
「マコトはわかりやすいから」
そう言って、カロルは花のように笑った。




