第1467話 ピリンチさんを疑いながら迷宮に入る
ガフサリアピラミッドは五階層だが、内部は複雑な迷宮になっていて、ボス部屋は最上階だ。
「いっくぜーっ!!」
「おうっ、スガク!」
「後ろは任せろっ!」
光の使者パーティは、スガクさんが前衛の中心、リザードマン兄弟のドンとガンが後ろに控え、僧侶のカバ獣人ラインさんと、呪術師のパキラさんが後衛だな。
最後尾にラットの獣人盗賊ミニーちゃんが控える。
スガクさんが光の槍を使って、ミイラ男やゾンビなどを破壊しながら進む。
ああ、やっぱり光武器はアンデッド特効なので強いな。
聖女パーティは、カーチス兄ちゃんとカトレアさん、コイシちゃん、エルザさんが前衛、中衛にオスカーとライアンが入り、後衛がエルマーとカロルと私だな。
前衛が超厚いぞ。
あと、ドラゴンの二人は適当に散らばって適当に暴れている。
アダベルの聖氷ブレスはアンデッドを凍らせて破壊する特効があるっぽいな。
つまり、強い。
ピラミッドの中は整然と石が積まれていてヒンヤリとして暗い。
そしてかび臭い。
本来のボスはワニの魔物なんだけど、いつの間にかアヌビスの悪霊がボス部屋に入って一般冒険者に被害があったので、大公からスガクさんたちが呼ばれたらしい。
アンデッドを蹴散らして、光の使者は進む。
聖女派閥の迷宮部は後に付いていくのだ。
「宝は出ないのか~?」
「迷宮と言っても墳墓なので、一度宝は取られると復活しないんすよ」
「一回だけかあ、それはつまらんなあ」
「それでも魔石やドロップ品は出ますから、ガフサの街は潤っておりますぞっ!」
ピリンチ氏はクネクネ怪しい動きをしながらそう言った。
うーむ怪しい。
「呪術とはなんだ……」
エルマーが呪術師のパキラさんに聞いた。
彼女は時々髑髏のついた杖を掲げて怪しい呪文を唱えてアンデッドの動きを鈍くしたりしてるね。
「魔法ほど高度なもんじゃあなくて、魔力をわりと生っぽくつかう技術さね。基本的に呪って体調を悪くしたり、動きを遅くしたりしてんな。大呪術師になると、家から出ないで敵を呪い殺すっていうけど、私はまだまだなあ」
「ふむ、興味深い……、僕も習えるか?」
「ああ、魔法か呪術か、どっちかだってさ、昔大陸から偉い教授が来て呪術を覚えたら魔法を全部忘れて青くなってたさ」
「それは、残念……」
どっちかなのか。
というか、光魔法はどうなのかな。
スガクさんの使える魔法は『ヒール』『障壁』とわりと勇者セットなんだが。
光呪術ってのも変だしな。
なんだか、中ボスっぽい蜘蛛のアンデッドが出て来て、糸を吐いてスガクさんたちを絡め取ろうとした。
「気を付けろ、ドン、ガン」
「おおっ、うわっ」
「くそ、粘着糸か!」
おっと、ピンチだな。
光の槍で糸を切れるのだが、縦横無尽に糸を吐いてくるので厄介だな。
手伝おう。
大蜘蛛の近くに障壁で出来た六面体を発生させて奴を中に入れる。
こうすると糸は障壁からは出てこない。
「うお、助かる、聖女」
「はははー、まかせろー」
んで、そのままその六面体をぎゅっと潰して大蜘蛛を動けなくした。
「通過許可、光武器!」
「え?」
「光属性の武器は障壁を通れる、って事だ!」
カーチス兄ちゃんがホウズに光の刃を生やして障壁越しに大蜘蛛を叩き切った。
「おおう」
スガクさんはうなずいて光の槍を投げつけた。
蜘蛛の頭が砕かれて動きが止まった。
「おおう、障壁にこんな使い方が……」
「慣れると便利よ」
「俺も今度やってみるぜ、ありがとう聖女」
「なんのなんの」
でもスガクさんはそれほど魔力量が多そうじゃないから、あまり沢山障壁を張ると魔力切れを起こすかもな。
「光属性が二人いると戦力が倍な感じでいいねえ」
「聖女さんの障壁使いがすげえな」
さて、中ボスを倒して、階段を上がって行くと、大ボスの部屋の前っぽい場所に出た。
「敵は?」
「アヌビスの悪霊だな、霊体で、魔法攻撃、物理攻撃無効だ」
「悪霊系はライトボールぶつけると嫌がるけどね」
「まあ、そのための聖槍だぜ」
盗賊のミニーちゃんが扉の鍵をちゃっちゃと開けた。
このピラミッドは大分前に攻略されたので、それぞれの鍵の開け方は盗賊ギルドに伝わっているらしい。
重厚な扉がゴゴゴと開いた。
真っ黒な瘴気が中から漏れ出してくる。
巨大なワニ獣人のミイラが玉座に座っているが動く様子がない。
本来はこのミイラがラスボスなのだが、三ヶ月前からアヌビスの悪霊がこのボスの間を乗っ取ったらしい。
『わーはーはー、よくやった我が僕たるピリンチよ、光の使者を我が前に連れて来てくれた、褒めて……』
「あ、その、ですね、なんだか、別の光の聖女が大陸からやってきて、その、来ちゃいましたけど、大丈夫ですよね、アヌビスさま」
ピリンチさんが気さくに大悪霊アヌビスの前に平伏してそんな事を言った。
「ピ、ピリンチ、きさま、裏切ったのか!!」
「まさか、そんな、市役所で一番律儀で真面目なあんたがっ!」
「やっぱり」
「やっぱり」
「やっぱり」
「なんだよ、外国人、なんで疑っているんだよっ!」
「怪しいから」
大悪霊アヌビスは私たちをゆっくりと見渡した。
『くくく、想定外だが、まあよい、光の存在を喰えば喰うほど我が力は増大する、大陸の聖女も我が……』
「障壁」
『や、ややや、なんだなんだ、この障壁は!!』
私は大悪霊アヌビスの周りに障壁を張った。
「通過許可、光武器!」
カトレアさんが私に向けてエッケザックスを放った。
私は空中でエッケをキャッチして魔力を込める。
『ちょ、ちょとまてちょとまて、なんだこの障壁は』
その障壁はなあ、物理の力じゃないと割れないんだよなあ。
ガチャンとエッケザックスの刀身が二つに割れてキイイイイインと光魔力が収束する音がした。
「えい!」
バシュウウウウッ!!
『ぎゃあああああああっ』
大悪霊アヌビスはエッケビームを頭に受けて消滅した。
「ヨシッ!」
「ヨシじゃねえっ」
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