第1458話 ペネデス市着陸
エルマーがペネデス市の広場に蒼穹の覇者号を着陸させた。
ペネデス市民が蜘蛛の子を散らすように逃げて行くね。
あんまり飛空艇が着陸しない土地なのだろうか。
目の前の大きい建物から偉い感じの太っちょさんが駆け出てきたよ。
私とカロルがタラップを下りて対応する。
「いいいい、いらっしゃいませーっ!! ど、どちらの所属の飛空艇でございますかーっ」
「アップルトン大神殿所属の蒼穹の覇者号です。私はマコト・キンボール、当代の聖女と呼ばれています。お見知りおきくださいませ」
「は、ははああっ!! これは聖女さま、ペネデス市にようこそっ!! 当市は諸手を挙げて聖女様を歓迎いたしますぞっ!! 私は市長のルイ・エレディアと申します、お見知りおきくださいませーっ!」
市長さんはルイさんというのか、なかなか暑苦しい感じだけど正直そうで好感が持てるな。
「さっそくですが聖女さま、突然のご訪問の目的はなんでしょうか」
ルイさんの秘書っぽい、インテリメガネの人が冷静に聞いてきた。
「私どもは王立魔法学園の聖女派閥の有志でリシュエール諸島でバカンスをしていたのですが、高名なワインの産地であるカタロニア王国のワインシャトーの見学をしたいとの声があがりまして、ペネデス市さまに見学できるシャトーを紹介して頂けないかと来た次第です」
「「ああ、なるほど」」
ルネ市長とインテリさんが、あそこが良いのでは無いかとか、あっちは少し遠いとか、シャトーの格がとか喧々諤々の討論をしていた。
「それでは少し遠いですが、ワインシャトー、レオンに参りましょうぞ」
「どれくらいかかりますか」
「馬車で半日ほどですが、ペネデス市を代表するシャトーでございます」
「まあ、カヴァを作られたシャトーですわね、すばらしいわ」
「おお、詳しいですねお嬢さん、そうです、カタロニア王国で初めてのカヴァを生産したシャトーでございます」
「申し遅れました、カタロニア王国にワインの視察に行きたいとおねだりしたのは私でございます。アンドレア家のメリッサと申します」
「おおおお! アップルトンの高名なワイン産地のアンドレア家のお嬢さんでしたか、ようこそようこそ」
カヴァってなんです、とヒルダさんが小声で聞いて来た。
知らん。
「スパークリングワインの一種よ。アップルトンのシャンパーニュの街の物が有名なんだけれども、カタロニア王国でも生産を始めたらしいのよ」
おお、カロルはよく知っているなあ。
「そのカヴァの機密を盗み出せば良いのですね」
「「ちがいます」」
暗闘の家は物騒でいけないな。
ヒルダさんは納得いかんという顔で肩に乗ったピーちゃんの喉を指先で撫でていた。
市長さんが案内してくれるというので、秘書さん共々蒼穹の覇者号に乗せてレオンシャトーへと向かった。
というか、なんでワインセラーはお城とか修道院で作られているのだろうか。
ワイン製造の技術は一度、修道院が独占して世に伝えてきて、だんだんと市井に伝播したらしい。
なので、修道院と同じような建物の構造を取るので、お城っぽくなるらしいね。
シャトーレオンも内陸の小高い山の上のシャトーであった。
まあ、前世日本人の私からすると、山の上のお城はエッチなホテルな感じがしてならんのだけどね。
行った事無いけど。
レオンシャトーの中庭に蒼穹の覇者号を駐めて、市長さんを下ろして交渉してもらう。
只の一般人が飛び込みで見学とか言ったら、ふざけんなという所だろうけど、なにしろ聖女さまだからな。
融通は効くようであるよ。
私たちが下りると、人の良さそうなおじさんがにこやかに挨拶をしてきた。
「こんにちは、聖女さん、アンドレアのお嬢さん、レオンシャトーにようこそ」
「いきなり来て無理を言って申し訳ありません」
「歴史有るシャトーを見学できて光栄ですわ」
「アンドレア家のお嬢さんを無下にしてはカタロニアのワインセラーの名折れですからな。どうぞどうぞ、シャトーの中を案内いたしましょう。市長さんもどうぞ」
「こりゃあ、すまんな、無理を言ったよ」
「いいって事ですよ」
市長さんと生産者の関係も良い感じのようね。
レオンシャトーは古い砦みたいな建物であった。
建屋に入るとヒンヤリして、すこし饐えたワインの匂いがするね。
シャトーのご主人がワイン造りの工程を踏んで説明してくれる。
おー、メリッサさんの実家でも見たけど、結構大変な事業なんだよなあ。
大きなタンクで醸造して木の樽に入れて何年も寝かせるらしい。
「実はカヴァを作る時に、アップルトンのシャトーさんたちには大変お世話になりましてね」
「カヴァは手間が掛かるから大変ですわよね」
「はい、でも良い物ができはじめていて嬉しいのです」
「解りますわ」
メリッサさんは専門家だから、質問も堂に入ってるなあ。
なんでも一芸に秀でているのは偉い事だね。
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