第142話 ドワーフ先輩とお茶を飲みながら話し込む
バルトロ部長に案内されて隣の鍛冶準備教室に避難する。
鍛冶場は人のいられる環境じゃないよ。
ああ涼しい。
マッチョ二人も入ってきて、テーブルにつく。
お茶は出ないのか、と思ったら、ドワーフのメイドさんがやってきてお茶をいれてくれた。
おー、ドワーフ女子初めてみるなあ。
小学生高学年ぐらいな感じで、体はむっちりどっしりしておりますな。
笑顔が可愛いです。
あと、お茶が美味い。
髭はございません、普通の美少女ですな。
「しかし、バルトロ部長、何をして親指を痛めたの?」
「いやあ、それがなあ、俺も今年で卒業だからよ、夏の作剣祭で、グランプリを取る剣をつくらなきゃなと力みすぎた。うっかり向こう槌の前に手を出しちまってなあ、痛かったぜ」
「意外と鍛冶部は怪我が多くて、助かりますよ、聖女さん」
バルトロ部長の言葉をマッチョ一号がつないだ。
マッチョ二号もうむうむとうなずく。
「もの凄い刀も見せて貰ったしよ、夏に向けて頑張って作るぜ」
「頑張ってるんだなあ。作剣祭でグランプリってそんなに凄いの?」
「アップルトン一の剣鍛冶を決めるコンテストだ。優勝すれば国に帰っても自慢ができるぜ」
「ドワーフの国に帰っても自慢できるのは凄いね」
「いや、ドワーフ王国の腕自慢は王都で店出してるからよ。主な敵はドワーフだよ」
ああ、なるほど、ドワーフ鍛冶の武器屋さん王都に多いものね。
相手はプロの鍛冶屋なのか。
「普通の人間の鍛冶屋は駄目なの?」
「駄目ってわけじゃないけどよ、やっぱドワーフが有利だな。でも、人間でも一人すげえ奴がいて、どんなのを出してくるか、作剣祭が楽しみだよ」
ほうほう、人間でドワーフと互角に鍛冶できる奴がいるのか。
それは凄いね。
「王都の博物館に凄い剣がいっぱいあって見に行くと勉強になるんだが、本当に凄い奴は王城の倉庫にあるんだろうなあ」
「聖剣なら、大神殿の宝物庫にあったな」
「なにいっ!!」
バルトロ部長が立ち上がった。
「それは本当かっ!! 伝説の聖剣がっ! 大神殿にっ!!」
「う、うん。たしか三本ぐらいあったよ」
「「「「三本っ!!」」」」
な、なんだよ、マッチョ二人と、メイドさんまで立ち上がったぞ。
「勇者とか、聖女とかのサポートするのは聖心教だからさ、なんか彼らが死んだ後に、武器防具が寄進されるのよ」
「伝説の武器防具は聖心教の総本山にあるのではないのかっ!」
「魔王軍が総本山に攻めてきた時に、大神殿に宝物を避難させたんだってさ。その後、返せって言って来てるんだけど、無視してるっぽい」
「ひ、一目見ることはできまいか、聖女どのっ」
「あ、たぶん大丈夫だよ。私が付いていれば」
鍛冶部の四人が、がばりと床に土下座した。
「「「「おねがいします~」」」」
「い、いや別に土下座しなくても見せるぐらいなら、そんな」
面をあげよ、きみたち。
「聖剣だよ、聖剣、マコトちゃんは解って無いんだ、それがどんなに凄い事か」
「聖剣は見たい、どんな作り方をしているのか、どんな拵えか見たいっ」
「その時代の最高の鍛冶師の仕事を見たいですっ」
「三本もっ、そして聖女さまなら起動させる事もっ」
メイドさんも鍛冶関係者なのかー。
部員なのかな?
「連れて行くから、土下座はやめてよ」
「うおー、いついつ?」
「え、明日の午後に大神殿に行く予定だけど」
「行くっ」
「連れて行って下さい」
「わあ、スケッチの準備とかしなくてはっ」
「凄いです、凄いです、聖剣が見られるなんて、夢みたいっ」
私もカロルも、鍛冶部の熱気にどんびきですよ。
どんだけ、こいつらは聖剣が見たいんだ。
「どんな聖剣だ、略歴を知らねば、制作者とかも知りたい」
「し、知らないよっ」
つかみ掛かる鍛冶部の連中を、急に現れたダルシーが押しとどめた。
「やめなさい、無礼ですよ」
「はっ、あ、すまない、マコトちゃん」
鍛冶部の連中は正気に戻ったようだ。
「大神殿の宝物庫にある聖剣は、勇者イヴォンのホウズ、勇者ステファンのエッケザックス、勇者ラーシュのリジンです」
「「「「おーっ!!!!」」」
ダルシーの答えに、鍛冶部どもが歓声を上げた。
私は、どれがどれやら記憶にも無いが、一本、金ぴかな剣があったのだけは覚えている。
「すげえ、すげえぜ、ホウズは大神殿にあったのかーっ」
「古竜殺しのエッケザックスかよっ、マジかマジかーっ!」
「リジンは被災して紛失したと聞いたが、こんな所に現存してたのかーっ」
「資料資料、ホウズはドワーフ王国産で、部長の先祖の作だわ、たしか」
「うおーっ、先祖すげえっ、絶対見ないとなっ」
鍛冶部の連中のテンションがマックスでうるせえ。
「ねえ、マコト、カーチス卿率いる剣術部の人たちも見たいんじゃないかな」
「あー、カーチスは剣とか好きそうだしなあ。カトレアさんも興味がありそうだね」
明日はいっそ、希望者みんな連れて大神殿に行ってみるか。
孤児院の子供たちも喜ぶだろうしな。
「じゃあ、カロルも来る?」
「そうね、せっかくだから行くわ。大神殿には一度行ってみたかったの。ポーション類を沢山買ってくれるしね」
そうそう、治療魔法の僧侶さんたちだけでは、大神殿の治療院が回らないから、結構、市販のポーションとかも使ってるんだよね。
市販ポーションといえば、オルブライト印でカロルの実家産なんだな。
明日の午後は、大勢で大神殿に行きますか。