第1439話 魔導大学でカフェランチをいただく
魔導大学を見学していたらお昼になったので、デボラさんとヴァネッサさんを誘って大学のカフェテラスに行ってランチを食べようという事になった。
「魔導都市で一番美味しいのは、魔導大学のカフェテラスって言われているの」
「それくらい魔法使いは食に興味が無いわ」
「それは酷い」
都市で一番の飲食店が大学の学食なのか。
まあ、魔法研究者はあまりグルメが居そうに無いからいいのか。
大学生なら、まだ食欲があるからなあ。
魔導大学だけはあって、かなり広いカフェテラスであった。
ランチプレートは二つ、鳥のローストか、牛タンシチューかであった。
「Bランチください」
「あいよう、学校見学かい、偉いねえ」
「ええ、まあ」
大嵐避けの観光ですとは言えないなあ。
おばちゃんからトレイを貰って、お料理を乗せて行く。
まあ、どこのカフェテラスも一緒だよなあ。
お料理を持ってテーブルに着く。
わりと愛想が無い系のシンプルなテーブルだね。
「いただきます」
「「「「「日々の粮を女神に感謝します」」」」」
パクリ。
んー、無難シチューだ-。
「鳥はどう、カロル」
「無難かな、シチューは」
「無難よ」
「まあ、こういう所は、無難だよね」
広い場所でみんなで一斉にランチが食べられる、のが唯一の長所か。
「魔導都市には美味しいレストラン無いの?」
「無いわよ」
「ここが一番なのよ、恐ろしい事に」
偉い人が会食をする高級店も無いのか。
というか、会食は山岳国の首都とか行くのか。
ここは学生と研究の街、魔導都市だからなあ。
「アップルトンの王都って、なにげに食のレベル高かったのか」
「そうよ、王都を出て初めて解るありがたさよね」
「食の国アップルトンだからねえ」
外国で生活をすると母国のありがたさが分かるのか。
私なんかは前世も食の国に居たから、あまり実感が無いのだよなあ。
「魔導都市のお土産物を教えろ」
「お土産ねえ」
「アダベルちゃんが好きそうなお土産は無いかなあ。専門書とか、魔導素材の宝石とかかなあ」
「それはつまらないなあ、お菓子は無いのか」
「「ない」」
デボラさんとヴァネッサさんが声を揃えた。
「山の上なのだから、クッキーとかケーキとかを用意しておくべきであろう」
「山岳都市の首都ならお菓子とかあるよー、魔導都市には無いのよ」
まあ、魔導都市でお菓子をお土産にする観光客はいないだろうからねえ。
皆が食べおわったので、カフェテラスを後にする。
「わりと魔導都市、つまんないな」
「アダちゃんは魔法使いじゃないからよ、きっと」
「魔法使いなら……、わりと楽しい……」
「どこらへんが楽しいのだ、エルマー」
エルマーはアダベルの問いかけに魔導材料のお店を指さした。
「王都よりも安い……、材料……」
「そうかそうか」
まあ、私にも魅力が分からないからアダベルにはもっと分からないだろうなあ。
エルマーとカロルは楽しそうだね。
お洒落組もアクセサリーの宝石ではないので、素材には興味がなさそうである。
偽スペインでワインの試飲の方がメリッサさん的には良かったかもね。
「デボラ! ヴァネッサ!! 見つけたぞてめえらっ、今日が年貢の納め時だ!」
大陸語には年貢は無いので、租税の支払日みたいなニュアンスの慣用句であった。
「げげっ、ギジェルモだ」
「あんたら今お客さん連れて案内中だから、別の日にしてよ」
ギジェルモと呼ばれた男は大柄で馬鹿そうな金髪褐色の大男であった。
「うるせえっ、この前は、よくも公衆の面前で恥をかかせてくれたなっ、おまえら二人を拉致して思う存分楽しませて貰うぜっ、ああん?」
私はデボラさんに向き直った。
「魔導都市なのに、馬鹿な底辺冒険者みたいのも居るの?」
「カタロニアの侯爵令息よ、馬鹿息子、勉強も出来ないのに威張り散らしてさあ」
「ダンスパーティでコナ掛けてきたから手ひどく振ったら逆恨みよ」
ギジェルモはチラリと私を見た。
「アップルトンの女学生かよ、ガキはすっこんでろ、ああ?」
「なんだこいつ?」
「ああ? 竜人の子供と、貧乏そうなガキと……、な、なんだお前……」
「甲蟲騎士だ、死ぬか」
アイラさんが背を丸めて凄んだ。
彼女はバイザーを下ろすと特撮怪人風味が出て怖いのよね。
「お、おいっ、カルロス、ナサリオ、この変な奴を叩っ切れ」
「へへ、謝るなら今のうち……」
ダン! と石畳を踏み割る勢いでアイラさんが前進して、パンチを放った。
カルロスはぐるんと回って路上に転がった。
そのまま、黙ってさらに、ダン! と一歩前進、ナサリオにアイラさんは肉薄した。
「ち、ちがっ、お、俺は、そのっ」
くるりと背中を丸めて回転し、ナサリオの顎に蹴りを叩き込んで、また路上に転がした。
「ま、まって、まって!!」
ギジェルモはイヤイヤをするように手を前に出して怯えた。
「アイラさん、ストップ」
私が一声掛けるとアイラさんは止まった。
「殺しましょう、こんなやつ」
「まあまあ、魔導都市ですしね」
ギジェルモはこちらを見て恐怖の表情を浮かべていた。
というかー、たぶんアイラさんはうちらの中でも温厚な方だと思うぞ。
ヒルダさんもアップしていたからなあ。
あと、ダルシーも。
役人が押っ取り刀で駆けつけて来た。
ギジェルモは元気を取り戻した。
「カタロニア侯爵令息である俺に、なんだか訳のわからない難癖を付けて、俺の護衛に暴力を振るった。こいつらを捕まえてくれ」
「聖心教司祭、マコト・キンボールです。聖女である私の友だちのデボラさん、ヴァネッサさんに遺恨があるらしく、二人のごろつきをちらつかせて恫喝してきましたので、甲蟲騎士アイラさんが実力で排除しました」
「げえっ、聖女だとお!!」
「これはこれは聖女さま」
「アップルトン王国第一王子のケビンです、非公式の訪問で魔導都市の観光をしていたところ、わが国民のデボラさん、ヴァネッサさんに、このゴロツキが難癖を付けてきましたと、証言いたします」
「げえっ、アップルトン王子!!」
「これはこれは、ケビン王子さま、魔導都市にようこそ」
「「やっぱり王子さまだったじゃん」」
いかん、ケビン王子のでっち上げが、デボラさんとヴァネッサさんにばれた。
「アップルトン王都守護竜のアダベルである、とにかく、こいつが悪い」
「げえっ、守護竜!」
「これはこれは、魔導都市をお楽しみ下さいね、アダベル閣下」
「うむ」
なんだか最後に割り込んで来てアダベルが得意げに威張った。
とりあえず、ギジェルモと子分二人は役人に捕まって連行されて行った。
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