第1420話 強信仰者アリエル
オルゲート迷宮に詳しいアリエルさんに話を聞くべく、ギルドの酒場でテーブルを囲んだ。
「本当に聖女さまとご一緒できるなんて夢のようで、今日が人生で一番嬉しい日です」
はあ、そうですか。
「あ、トーラ、こっちだ、聖女さまがオルゲート迷宮についてご質問だ、謹んで答えよ」
トーラと呼ばれたハーフリングの娘がテーブルに駆けよってきた。
「おお、マジに聖女さまか、王都の年末で見た顔で本物だぜ」
「あたりまえだ、失礼な奴め、ぶん殴るぞ。聖女さま、こいつは私のパーティの盗賊のトーラといいます。無信仰で失礼な俗物ですが腕は確かなので、ゆるしてやってください」
「よろしくね、トーラさん」
「えへへ、かしこまられると照れちゃうな。なんでも聞いておくれよ」
よしよし、色々聞いて計画を立てるか。
「日帰りで行ける所の素材は十号ぐらいって聞くけど、数はどうなの?」
「わりかし出るね、日帰りだと、そうだなあ、五個ぐらいかな」
「私にお任せください、三日で十五号の素材を百個揃えますよ」
「アリエル、無理な事を安請け合いすんな。お前は聖女さま愛で徹夜して頑張れるが、他のメンバーはそうじゃねえよ」
「聖女さまへの愛は全てを凌駕するのだっ」
「いくらなんでも百個はいらないわ、二十人ぐらいしかいないから、人数分あればいいわ。それで、できれば自分で掘りたいわね」
「そうすると四日間ぐらいだあね。聖女さんたちは夏休みで来てるんだろうけど、あと何日かい?」
「二週間ほどあるから問題無いわよ」
「私が案内します、この私がっ」
「パーティ丸ごと雇って一緒に行ってもらえるかしら」
「ああ、そっちの方が助かりまさあ、アリエルが抜けると私らは休業になっちまうので」
カーチス兄ちゃんはうんうんとうなずいた。
「では、今日、日帰りで入って感じを掴もう。それでいいなマコト」
「そうだね、冒険班が十人ほどだね。そっちは何人なの?」
「六人パーティでさあ。総勢十六人ですな」
「あまり沢山の人数で行くと通路が詰まってしまわない?」
「深部とか行かなきゃ、けっこうメイン通路は広うございますぜ、聖女さま」
よし、アリエルさんと知り合ったお陰で、冒険計画がサクサク進むな。
地元のベテランパーティに混ざれば危険も少ないだろうし、良いんじゃ無いかな。
「迷宮に入るにあたって注意する点とかはないか?」
「オルゲート迷宮は樹木モンスターと虫モンスターの迷宮でしてな、剣よりは斧が良いですな。レイピアとかはちょっとつらぬけねえです」
まあ、装備についてはなあ、問題はぜんぜん無いな。
『ふふふ、オルゲートか久しぶりだな、案内は任せておけ聖女よ』
トーラさんとアリエルさんがホウズが喋ったのを聞いて目を見開いた。
「「聖剣!!」」
「聖剣ホウズだ、凄いだろう」
「ふふふ、私はエッケザックスを持って来た」
「竜殺し、エッケザックス!!」
「ちょ、ちょ、なんで、日帰り冒険に国宝物の剣を持ってきてんすかっ!!」
「いや、大神殿に転がってたから」
ちなみに私の得物は普段使いの聖剣フロッティだ。
一所に聖剣四本とは豪毅だよなあ。
われわれは魔王でも退治にいくのかな。
「あ、騎獣とか従魔は入れるかな?」
「あ、入れますよ、わりと通路が広いので」
「人食い樹の迷宮だから、上も横も広いんですよ」
あ、なるほど、樹木系魔物は結構縦横でかいからね。
カロルがギルドのカウンターに行って、職員さんと相談しながら契約書を書いてきた。
わたしらのパーティ名は『聖女さまご一行』だそうだ。
ちなみにアリエルさんの所属するパーティの名前は『約束の大地へ』であった。
聖典にそういうタイトルの章があるので、誰がパーティの名前を付けたのか一目でわかるね。
「アリエルさんがリーダーのパーティなんですね」
「そうです、私の燃えるような信仰心に感化された熱い信者たちの集まりなのです」
「ちげー、教会のパイプがでかくて金の調達が良いからアリエルがトップなだけで、他は普通の奴だよ」
「まったく、お前達は凡俗でいけない。せっかく聖女さまと知り合えたという望外の幸福をありがたがらんかっ」
「ありがたいが、それとこれとは話が別だ」
なんだかんだ言って仲が良いパーティみたいね。
「では、ちょっと待っておくんなさい、今日は休業日だったから、パーティメンバーが散らばっちまってますんで呼んできます」
「ありがとうね、トーラさん。あと、オルゲートの街で美味しいランチが食べられるお料理屋さんは無いですか?」
「あるにはあるんですが、私らの行くような店はきたねえですよ?」
「問題無いわよ」
「それでは『開陳亭』に行きますか、聖女さま」
「おまっ、庶民的で良いといわれた初っぱなに開陳亭はねえだろう、開陳亭は」
「別にランチで開陳してるわけじゃないから大丈夫だ、わっはっは」
「ど、どんな飯屋だ」
「いやあ、酒が入ってテンションが上がってくると、こう、全てを開陳してですな、豪傑踊りを踊る大将がやっている飲み屋なんすが、あはは」
それはまた酷い飲み屋だなあ。
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