第140話 放課後は髑髏団の治療に回る
アンソニー先生のホームルームが終わった。
うむうむ、放課後だあ。
「カロル、エクスポーションの購入希望をしてきた生徒の名前とクラスは解る?」
「わかるわよ、アンヌ」
アンヌさんが現れた。
「二年のB組、グレン・クイグリー伯爵令息と、三年A組のバルトロメイ・ミシュコフスキー子爵令息ですね」
「三年生?」
「ですね、名前からするとドワーフ王国からの留学生ではないかと」
「そういう人がいるんだ」
「亜人種の王国から留学生は良く来てるようよ」
うおー、亜人の人とか学園に来てるのかー。
でも、この人、髑髏団じゃないよね。
まあ、いいか、エクスポーション高いし、あとで回ろう。
「じゃあ、ちゃっちゃと治しに行こうっ」
「でも、良いの? マコト」
「問題無いって、向こうもその方が良いでしょ」
「そうね」
カロルと一緒にA組を後にする。
アンヌさんは、また消えた。
二年の教室は三階の奥だね。
階段を上がって、不味い下級貴族食堂の前を通り過ぎる。
ここらへんは初めて来るな。
迷宮実習に二年生が行ってるので、あまり生徒がいない。
二年のA組のドアを開けると、まだ生徒たちは少数残っていた。
お、ライアン君、発見。
「ライアンくん」
「あ、聖女さま、どうしました?」
「クイグリーさまはいらっしゃる?」
「ええと」
ライアンくんは教室を見回して、窓際で机に座っている男子生徒に目をとめた。
あれがグレンさんか。
私とカロルが近づいていくと、グレンさんが気がついて眉を上げた。
「お、おまえっ、偽聖女、な、何の用だよっ!」
「こんにちわ、クイグリーさま、マコト・キンボールともうします」
「こんにちわ、カロリーヌ・オルブライトです」
グレンさんは顔を赤くして憤怒の表情を浮かべた。
「そうかっ、貴様っ!! 俺がポッティンジャー公爵派と知って、エクスポーションを売らないっていうんだなっ!!」
「いや、そんな事はしないよ、グレンさん」
「じゃあ何の用だっ!! エクスポーションを置いて、今すぐ帰れっ!!」
「エクスポーションは作成を止めてもらったよ」
「貴様っ!! 貴様っ!! 必要なんだっ!! エクスポーションがっ!! このままでは、俺の騎士としての将来がっ!! き、汚いぞっ!! 俺に何をさせるつもりだっ!!」
「いや別に何も」
私はグレンさんの包帯に包まれた右手に手を当てた。
『エクストラヒール』
青白い光が彼の右手を包んだと思うと、包帯の中から指が生えてきた。
いつもながら、なんだかキモイ魔法だな。
グレンさんは目を見開いて、生えた指を握ったり伸ばしたりした。
「ど、どうしてだ? どうして……」
「ふん、学生の喧嘩で指を落としたら可哀想だろ」
グレンさんは生えた指を包むようにして握り込み、祈るように額を付けた。
「か、金は? 用意はしてあるぞ」
「いらねーよ。どうしてもというなら、大神殿に少し寄進しろい。あと、指を落とされた奴は? 男爵家以下だとエクスポーションの金なんか用意できないだろう」
「た、ただで治すと言うのか、なぜだ、俺たちとお前は敵対派閥だろっ」
「学生の喧嘩に剣を持ち出すお前たちは馬鹿だし、返り討ちにあって指まで落とされるお前たちはもっと大馬鹿だっ! でも、兵士じゃない、学生だろ、学生には色々と特典があるんだよ」
「あ、ありがとう……、感謝する……。あと三人居る、B組に一人、C組に二人だ」
「さっさと案内しろ」
私が椅子を蹴飛ばすと、グレンさんはゆっくり立ち上がった。
なにげにイケメンだな、こいつ。
「お前は……、本物の聖女なのだな」
「あたりまえだ、デボラさんが適当な事を言ってただけだ」
「そうか、そうだな。他の奴も、お前に治してもらったと聞いた。それは嘘で、オルブライトのエクスポーションで治したのだとばっかり思ったのだが」
「いくらオルブライト家でも、そんなにエクスポーションを大盤振る舞いできませんよ」
「それもそうだな。市価で一千万ドランクもする薬品を指程度に使うのは、確かにおかしい」
グレンさんの先導で私は指を落とされた生徒を回って、エクストラヒールを掛けていく。
なぜだかライアンくんも付いてきていた。
みな、涙ながらに感謝してくれた。
まあ、そうだよな。
治癒する方法があるとはいえ、値段がお高いしさ。
「これで終わりか、グレンさん」
「ああ、指を落とされたのはこれだけだ、他に傷の奴はいるが、そっちはポーションでなんとかなる」
「よし、じゃあね」
「キンボール嬢、あー、何か要求とかはないのか?」
「ないぞ」
グレンさんは苦笑した。
「なにか無いのか、さすがにここまでしてくれて、何も無しだと俺たちも心苦しい」
「あー、じゃあ、二年になったらまた戦闘があるかもしれないから、その時は非戦闘員を狙わないでくれると嬉しい」
「そんな事でいいのか」
「ああいいよ、私とかを狙われるのは良いんだけどさ、戦えない派閥の子を狙われたりすると困るから、それはお願いしたい」
「……、ふう、なんというか、器の大きさが違うな。わかった、マイケルと相談して、現場で非道な手段は止めるようにする。ありがとう、キンボール嬢、助かった」
グレンさんは深く深く頭を下げた。
ふむ、伯爵位の髑髏団ということは、派閥の幹部なのかね。
わりと、グレンさんは質の良い感じの人だな。
私は頭を下げて、二年C組を後にする。
さて、次だ次、ドワーフさんに会いにいくぜ。




