第1419話 オルゲートの冒険者ギルドへ
というわけで、新しい迷宮に行ったら、一番最初に訪れるのは冒険者ギルドって決まっているよな。
冒険組はすたすたと街の一等地にある大きな冒険者ギルドへと入った。
若い私らが入ると、一瞬酒場がしんとした。
まあ、サマードレスとか、アロハシャツの若い者がやってきたら場違いで目立つよなあ。
海から直接来たからしょうが無いけどね。
学生服とどっちが目立つだろうか。
「若え、学生か?」
「というか、なんだ海に行くような格好しやがって」
「つうか、なんだあのライオン?」
あ、コリンヌさんがライ一郎を普通に連れて来ているな。
とりあえず、依頼票のボードを見てみるか。
なになに、『三十号の素材を希望、納期は三日後』かあ。
早いのか遅いのか解らんなあ。
三十号といったら結構な大きさの収納袋だな。
「おや、オルブライトのお嬢さん、ご無沙汰しております」
「あら、ハリスさん、オルゲート迷宮に異動されてましたか」
「はい、錬金の本場のファルンガルドギルドでの経験を買われてこちらへと移動しましたよ」
カロルの知り合いのギルド職員のようだ。
ハリスさんは、小太り眼鏡の錬金オタクっぽい感じの人だね。
「本日は収納袋素材の買い付けですか?」
「いえ、ちょっと素材を採って自作できないかと調べに来ましたよ」
「そうですか、それはよろしゅうございますね」
「日帰り出来るぐらいの階層だと、何号ぐらいになりますか」
「日帰りですと、十号から十五号ぐらいでしょうか」
ふーむ、十号というと小ぶりのリュック、十五号だと中型リュックぐらいかな。
私のサーヴィス先生のお古の収納袋が二十号だから、アップデートにはならないけど、他の派閥員の初めて持つ収納袋だと良い号数かもしれないね。
「本当は三十号ぐらいのが欲しいんだけどねえ」
「一泊なされるならば、可能ですが」
「迷宮に一泊は辛いかなあ」
とはいえ、カーチス兄ちゃんたちなら泊まりがけも有りなのか?
カーチス兄ちゃんの方を見た。
「夏休みだから、三日ぐらい潜っても良いんだが、マコトが要るな」
「迷宮に三日とかふざけんな」
「だよな~」
日帰りぐらいなら良いけど、三日ぐらいになると回復役が絶対必要なんだよね。
だが、薄暗い迷宮にお風呂もなく、貧しい携帯食で三日間とか、何の地獄か。
絶対に厭だな。
「だけど、大きい収納袋の素材がゲットできるぜ」
「私だけ三十号より、派閥のみんなが十五号の方が良いと思うな。というか、来年のガドラガ行きまでにリュック程度の大きさの収納袋が欲しいね」
「十五号って、幾らぐらいですかあ?」
「百万ドランクぐらいよ、コリンヌさん」
「うぐぐ」
「王都だと、二百万よ」
カロルがにっこり笑って言った。
「うへえ、高いわ」
「まあ、プロの冒険者なら、借金してでも買えというけどな」
「冒険者にお金を貸す人はおりませんので、貯金を推奨ですね」
ハリスさんが突っ込んだ。
まあ、そうだね。
「でも、素材さえ手に入れられれば、私が収納袋に加工するわよ」
「ハリスさん、素材で魔物の胃袋を買うと幾らぐらいかな?」
「十五号で五十万ドランクぐらいですか」
「お、素材で買うとなんとかなるかもな」
「カーチスの家ならね、でもコリンナちゃんの家は出せないわよ」
「そうか、貧富の差があるから、なるべく無料で出来るようにするか」
「それが一番だよ」
ガラの悪い冒険者のおっちゃんが寄ってきた。
「おい、ガキども、オルゲートに入りてえなら案内してやっても良いぜえ、もちろん有料だがよお」
派閥員全員がおっちゃんを見た。
「ああ、絡むのはやめたまえよ、このお方はオルブライトのお嬢さんだ」
「う、製薬の……、伯爵令嬢、さま……」
「もっと上の人もいるけど」
コリンヌさんがぼそりと言った。
「へ?」
おっちゃんが鳩が豆鉄砲をくったような顔をした。
なんか天丼が来る厭な予感がする。
「あああああああああっ!!」
絶叫を上げながら近づくのは、聖騎士かと、思ったら、フレイルを持った尼僧であった。
「貴様あっ!! 聖女さまになんという口の聞きようかっ!!」
ドカビシガシッ!!
「ぎゃああああっ!!」
おっちゃんは、尼僧のフレイルでぼこぼこに殴られた。
尼僧はそのまま床に土下座をかました。
「聖女さまっ!! このような場末のギルドでお目に掛かる事ができて、このアリエル、望外の喜びに満ちあふれておりますっ!!」
「あ、ど、どうも、武装尼僧さん?」
「はい、そうでございます、女神の恩寵を迷宮で体現しておりますです」
「オルゲートに詳しいのかな?」
「ははぁ、教会で使われる収納袋は、だいたい私がこの手で叩き出しておりますですっ!」
「そうですか、偉いですね」
「ありがたきしあわせっ!!」
そう言って、アリエルさんは号泣した。
うーん、こういう信仰心が厚すぎる人は厭なんだけどなあ。
「私たちは収納袋の素材が……」
「お任せくださいっ、十五号ぐらいなら三日で百を集めてさしあげますっ」
「おお、すげえな、それは」
「なんだー、貴様ーっ!!」
「あ、私の友だちのブロウライト卿」
「失礼いたしましたーっ!!」
何と言うか、こういう人は、扱いやすいけど、扱いにくいなあ。
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