第1418話 オルゲート迷宮へと飛ぶ
オルゲート迷宮はアップルトンの東側、偽スイスとの国境沿いにある。
リシュエール諸島からは蒼穹の覇者号で、一時間半という感じかな。
本日のパイロットはカロルである。
きりっとした表情で副艇長席で操舵輪を握って船を離陸させた。
ポロンと音がしてディスプレイに航路図が表示された。
「一度高空まで登って行く感じね」
「甲板は立ち入り禁止ね」
【高空では外部ドアをロックします】
やっぱりエイダさんは良く出来るなあ。
蒼穹の覇者号は斜めになってグングン高度を上げていく。
雲を突き抜けて雲海の上に出て巡行飛行に入った。
「いつ見ても綺麗ね」
「天国みたいな景色だよね」
ヒカソラ世界は宗教の焦点が空にあるので、雲海の上はなんだか天上の世界感が強いのだ。
魂は成層圏にまで上り、衛星軌道上で数十年規模で虫干しされて清浄となり、また地上に落ちて生命を得るのだ。
聖心教の教典の、どこまでが本当の事かは解らないけど、まあ、空の上の魂を知覚できるので、おおむね事実なのであろう。
あと、女神様もいるので、神さまは実在するのであろう。
とはいえ、全能の神が居る世界ではないようだ。
神の目は隅々までは届かず、人はあっけなく堕落して不義理をなすのだ。
まあ、人間だから間違えるのはしょうが無いな。
【水平飛行に入りました。自動操縦モードに入ります】
「ふう」
操縦していたカロルが大きく息を吐いた。
アンヌさんがお茶を持って来て、カロルと私の袖机に置いた。
ふう、お茶が美味いね。
自動操縦になったら、あとは楽にしていて大丈夫、お茶を飲んだり、おトイレにいったりしてのんびりと飛行するのだ。
今頃釣り天狗たちはヨット教室で楽しんでいるんだろうなあ。
私たちはまだ道中だが。
マメちゃんが影から出て来て、ライ一郎に突進して遊んでいた。
「お昼はみんなで、オルゲートの門前町の料理屋で食べましょうか」
「そうね、美味しい物とかあるかな?」
「収納袋の街だから、商人も良く来るので美味しいお店あるかもね」
「地元の名店が好きだなあ」
アップルトンの色々な都市のお店にも行ってみたいね。
のんびりした飛行時間を経て、眼下にオルゲートの街がみえてきた。
山にへばりついてる感じの街だね。
広さはガドラガの半分ぐらいかな。
オルゲートは大陸四大迷宮には入ってないけど、それに次ぐぐらいの大きい迷宮なのだ。
現代の商売に欠かせない収納袋の一大生産地であるんだな。
『こちらはコールサイン116254、オルゲート管制塔。上空の飛空艇聞こえますか』
「こちらはコールサイン547498、聖心教所属、蒼穹の覇者号です。着陸許可をおねがいします」
『蒼穹の覇者号、オルゲートの街にようこそ、西の街外れに飛空艇駐機場があるので、そちらに着陸してください」』
「了解、オルゲート管制塔、許可を感謝します」
街の西側に飛空艇駐機場があるようだ。
カロルが旋回気味に駐機所に近づき、ふわりと着陸した。
今日は蒼穹の覇者号以外の飛空艇は来ていないようだ。
私は船内伝令管の蓋をパカリと開けた。
「こちらは艇長のマコト・キンボールです、本船は目的地オルゲートの街に到着いたしました。みなさま押し合わないように下船をおねがいします」
ディスプレイに、下船しようと廊下を行く皆の姿が映った。
皆が下船したのを確かめてから、カロルと一緒に地上に下りた。
わりと山の方なので空気がヒンヤリした感じね。
ヤクシム島が結構暑かったので快適であるな。
「迷宮見学に行く奴らはこっちだ」
「街を観光する人は僕たちに付いてきてね」
カーチス兄ちゃんとケビン王子が班をまとめているな。
ありがたい。
「じゃあ、ジェラルド、街の観光組の管理をお願いするよ」
「なんで、私だ?」
「ケビン王子は旗印で管理はあんただからだ」
「それもそうだな」
「小さい女の子もいるから、コリンナちゃんもお願いね」
「わかったよ、マコト」
コリンナちゃんに頼んでおけば手堅いな。
まず間違いは無いだろう。
私たちは二班に分かれてオルゲートの街に入った。
意外に活気があって良い街みたいだね。
「収納袋収納袋、安いよ安いよ」
「四十号の中型袋が驚きの三割引だ、いらはいいらはい」
さすがはオルゲート迷宮の名物だけあって、軒先で収納袋が売ってたりするね。
収納袋というのは、魔物の胃袋を素材に、亜空間の魔法が掛かった財布や鞄の総称だね。
他の街だと、お店屋さんの奥深くに仕舞われているお宝だ。
収納袋の大きさは号数で、一号がポーチ程度の大きさの財布で、百号の大型ズタ袋は四畳半程度の空間がある。
まあ、百号とかはちょっと手が出ない値段なんだけどね。
私の持ってるお古の収納袋が二十号、カロルの持っている収納袋が百十号だ。
「五号の収納お財布ですって、二万ドランクですかあ」
「お財布だと、中の空間の大きさは鞄程度かしら、難しいわねえ」
お値段も二万ドランクから天井知らずの天文学的値段まで、色々だな。
観光組は街の中心部にむけて歩いて行った。
私たち迷宮組は、まずどうしようかな?
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