第1413話 浜辺でのんびりする
男の子に麻のシャツをあげて、アダベルにサマードレスをあげたら、どえらく喜んでくれた。
なによりである。
さっそく着替えて、皆さっぱりとした感じになった。
しかし、白ドレスのアダベルは異様に可愛いな。
「すずしくていいな、この服!」
「風が通るね。良い感じ」
「夏、海って感じだ」
買い出ししてきたマリーテの卵菓子をおやつにみんなで食べた。
ほっこり甘くて美味しいね。
お茶の後は水着に着替えて、泳いだり、甲羅干しをしたりした。
バカンスだなあ。
日差しが強くて気持ちが良い。
また、カロルと日焼け止めを塗りっこしたりした。
肌がスベスベだよ。
メイドさんたちが厨房テントで何か料理をしていた。
どうやら献立を考えて作ってくれるっぽい。
これはありがたいね。
「晩ご飯作ってくれてるの?」
「はい、男の子たちが魚を沢山釣ってきましたので、ミルクシチューにして皆さんで頂きましょう」
「それは嬉しいね」
まあ、昨日作ったクラムチャウダーにお魚をぶち込んだ感じの物になりそうね。
でも、美味しそうだからいいか。
「アダちゃん、今日はアイス作らないの」
「今日は無し、明日にグレーテとペペロンが帰るから、その前に作るよ」
アダベルは、考え無しの阿呆に見えるが、なにげに考えているな。
偉い。
木陰のデッキチェアに寝転んでダルシーの持って来てくれたココナツジュースなんかを飲みながら、ぼんやりと水平線とか白い波とかを見ていると、なんだか、とてつもなくバカンス気分になって楽しいね。
「海は良いわね、なんだか心がせいせいするわ」
「空が広いからかなあ、海がでかいからかな、なんか雰囲気が違うよね」
「違うわね、うん」
ヒューイがやってきてデッキチェアの横で座り込んだ。
首の下の方を掻いてやると、目を細くして喜んでいるね。
《どこかに飛ぼう》
「飛びたいのかあ、どこに行こうね」
「お、そいつで飛ぶのか?」
シルビアさんが私の声を聞きつけてやってきた。
「本島まで送って行ってくれ、小舟を持って帰って来るからさ」
「いいけど、なんでよ?」
「小舟があると、坊主どもを連れて海釣りポイントに行けるから、持ってこようと思ってたんだよ」
おお、釣り天狗どもの接待用か。
確かに沖合に船で行く釣りも楽しそうだしな。
私はカーディガンを羽織ってヒューイの上に跨がった。
「じゅあ、行きましょう、シルビアさん」
シルビアさんに手を出して鞍の上に引っ張り上げる。
「おう、空を飛ぶのはいいな」
《本島だな、いくぞ》
ヒューイは私たちを乗せて羽ばたき、空へと舞い上がった。
いやあ、海上を飛ぶのは良いなあ。
「というか、本島どっちだ?」
「あっちあっち」
お、確かに遠くに島が見える。
滅茶苦茶遠くという訳では無いのね。
蒼穹の覇者号で飛んでいるとナビ画面を見て飛ぶから、意外に地理を覚えていないみたいだな。
「ヒューイ、あっち」
《わかった》
「わあ、竜馬で飛ぶのは良いなあ、爽快だ」
「でしょでしょ、直に風が来るから、飛んでるって気がするのよね」
ヒューイがバンバンと羽ばたきをして飛んで、本島へと到着した。
「港あたりに着けてくれよ」
「あいよう」
《あいよう》
私はヒューイを港あたりに着陸させた。
シルビアさんは鞍から飛び降りると、港湾の事務所に飛びこんでいった。
「四号艇ですかい、水夫の方は要りますかい、姫さん」
「いらん、一人で島まで動かしていく」
「わかりやした、一週間したら返してくださいね」
「ああ、ちゃんと持ってくるよ」
シルビアさんは港にあったディンギーに飛び乗った。
帆走してヤクシム島まで行くのか。
「マコト、ヒューイ、船に乗ってけ」
「乗るのかあ、まあ、それも面白そうだ」
《小舟、乗れるか?》
ヒューイはけっこうガタイがでかくて重いからなあ。
とりあえず、私が船に飛び乗ると、ヒューイが羽ばたいて、ふわりと乗って来た。
「よし、行くぞ!」
シルビアさんは碇を巻き上げて舫い綱を外し、帆を操作し外洋に向けて走らせた。
おお、船の方向を変えるのは体重移動か。
なんかバイクとか、スケボーみたいな感じだな。
ヒューイも楽しそうに体重移動をしている。
「マコトも、ヒューイも上手いな」
「まかせろ」
《まかせろ》
いやあ、小舟に乗って風にのって移動するのは、これはこれで楽しい。
時々大きな波に向けて移動して飛び上がったりしていた。
やっぱ、シルビアさんは地元だから、操船が上手いな。
「これで釣りをしたら、釣り天狗たちは大喜びだね」
「そうだろうそうだろう」
シルビアさんは上機嫌で帆を動かした。
行きよりはかなり時間が掛かったが、思ったより早くヤクシム島の浜辺にディンギーは到着した。
アダベルと子供達が歓声を上げて、寄ってきた。
私はヒューイを船から下ろして、その背中に乗り、舫い綱を持って浜辺まで移動した。
子供やヒューイが舫い綱を引っ張ってディンギーを陸に揚げた。
「すげえ、ヨットだぜ」
「おまえらに、ヨットの動かし方を教えてやるし、釣りの穴場にも、これで連れて行ってやんよ」
「マジか!」
「帆走帆走、こんなの滅多に出来ないぞ」
「そして覚えてもホルボス山では使い道がないが、でも、覚えたいという知識だ」
「シルビア、ありがとーっ!!」
子供達に口々にお礼を言われて、シルビアさんは照れくさそうに笑った。
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