第1371話 王様が開会の挨拶をする
蒼穹の覇者号がまた山頂に着陸した。
後部ハッチから師範学校の騎乗部員、甲板からマジックハンドで農学校の軍馬たちが下ろされた。
おお、参加チームが揃ったね。
障壁の回廊を作って各チームを待機場所に誘導した。
「わあ、聖女さん、ありがとう、濡れないですんだよ」
「これから濡れるけどね、でもありがとう、聖女さん」
師範学校と農学校の騎乗部部長にお礼を言われてちょっと嬉しいね。
とりあえず、騎獣に鞍をつけたりして参加チームの準備は進む。
蒼穹の覇者号に麓から運ばれる貴族さんたちはもう居ないようで、船はどっしりと山頂に停泊した。
「カロルお疲れ様」
【大した事はないわよ】
私はブローチに声をかけて、カロルをねぎらった。
ケビン王子とジェラルド、王城のメイドさんや執事たちが駆け回って、観客席を整えて行った。
子供とアダベル、ペペロンとグレーテ王女とナージャは蒼穹の覇者号へと入って行った。
奴らはメイン操縦室で観戦する感じかな。
ライ一郎、ヤギ次郎、ヘビ三郎は観客席にいて、お客さんへ癒やしを提供しているようだ。
コリンヌさんも王城メイドと一緒に働いているね。
雨の中だったので、乾いたタオルを渡したり、パンフレットを配ったりと、色々と仕事があるようだ。
観客席がほぼ満席になり、会場の雰囲気が穏やかになっていく。
まあ、観客席の外は相変わらずの暴風雨なんだけどね。
たまにざあっと障壁に雨が掛かり流れてゆく。
風には山の木々の匂いがわずかにのって走っていくね。
ステージ上に王様が出て来た。
『いやいや諸君、とんだ大嵐となったな。初夏の突発的大嵐じゃ。さすがに軍馬が吹っ飛ぶような轟風ならレースも中止だが、今回ぐらいの嵐の場合は強行するぞ、なにしろこれは騎士のレースだからのう、雨でも嵐でも騎士の進軍を止める事は出来ないのじゃ』
ステージ上で王様は拡声魔導具を使って開催の挨拶をはじめた。
なかなかの演説っぷりだね。
さすがは王様。
『この大嵐の中でも、儂らは安全で快適な観客席で楽しくレースを観戦できるわけだ。どれもこれも聖女候補マコト・キンボール嬢のお陰なのじゃな。レースの展開も飛空艇蒼穹の覇者号からの映像ドローンを通じて、大型モニターに映しだせる、というわけじゃ』
そう言うと、背後の大型モニターが点灯して挨拶をする王様の映像が映し出された。
観客はおおっと歓声を上げた。
動画用ドローンは嵐の中、すいすいと動いているね。
『王都の各校の騎乗部の者にとっては大嵐の試練ではあるが頑張って欲しい。コンディションが悪ければ悪いほど、日々の鍛錬が問われるわけじゃ。いや、ワクワクするのう』
王様はにっこり笑った。
『では、第三十四回王都学校対抗騎乗レースを開催するっ!』
王様の宣言と共に、観客席がどよめき、拍手が巻き起こった。
さて、レースの開催だ。
私は雨具のボタンを上まで閉めた。
主催の貴族の偉い人がやってきた。
「あー、すまないが、聖女マコト様、各チェックポイントに選手を運ぶので障壁で手伝ってはくれまいか?」
私は辺りを見まわした。
そうかー、チェックポイントに行くまでに事故が起こるかもかあ。
レース中ならまだしも準備中に事故はやばいのだろうなあ。
「了解です。とりあえず第三チェックポイントまで障壁で道を作り、そこを行きましょうか」
「そうしてくれるか、すまないね、なんでもかんでもお願いして」
「いえいえ、じゃあ、各校の第一チェックポイント、第二チェックポイント、第三チェックポイントの選手は付いて来て」
「第四と第五はどうすんだ?」
「先に半分送ってから、また戻ってきて、逆に送るよ」
「大変ですね、聖女さま」
「なんのなんの、障壁は消費魔力少ないからね」
私はヒューイに乗って、選手達を連れてチェックポイントに向けて障壁を作りながら歩く。
「いっそ、この障壁の中でレースしようぜっ」
騎士学校の選手がそんな事を言う。
「レースにならないでしょ」
「こんな嵐の中、ペガサスなんて正気じゃねえよ、風に弱いんだ」
「有利な事があれば不利な事もあるじゃんよ、とりあえず軍馬みたいに走らせればいいでしょ」
「……地上はなあ、走る練習してねえんだよ……、俺が怪我するのは良いけど……、こいつがさ……」
「ポーションは完備してるし、死んで無きゃ私が治すよ、安心して競技しなよ」
「ああ、競技なんだよな、しょうがねえか……」
わりと物わかりの良い騎士学校の生徒もいるんだな。
全員ハゲみたいな奴かと思ってた。
「がんばれ、ペガサスもきっと応えてくれるよ」
「そうだそうだ、聖女さんの言う通りだよ」
「嵐を克服するために頑張ればいいんだよ、勝ち負けはまあ、後だよ」
「ああ……」
ため息をついて、第一チェックポイントの走者の彼は待機所に入って行った。
というか、障壁の外はガチで凄い風だなあ。
レースは過酷でも良いけど、怪我や事故は困るな。
安全第一だよ。
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