第1370話 ハゲも騎士学校も来る
山頂の観客席もだんだんと埋まってきた。
障壁内は雨も通さず、風も十分の一なので快適だけど、一歩外に出ると人を吹っ飛ばしかねない轟風と叩きつける雨で凄い事になっていた。
その中でも工兵隊の皆さんはずぶ濡れになって働いて偉いな。
「しかし、観客席からだとレース見えないけど、どうするのかな」
「普段のレースだと、山頂から各ポイントが見えるから、柵に乗り出すようにして観戦するんだけど、今日はなあ」
パスカル部長が空を見上げてそう言った。
観客席の中から出れないからなあ。
下手をするとお客さんが吹っ飛ばされて山の崖を滑落しかねない。
【お任せください。レースの進行は小型ドローンによって映像を撮り、観客席のステージに動画を投影いたします】
「うおお、そんな事が」
前世のラリーレース並の手厚さだなあ。
蒼穹の覇者号内でも動画が見えるから、船の中でも良いだろうなあ。
「それは凄いな、さすがは蒼穹の覇者号だ」
「なんか一隻だけ、魔導の水準が違うよなあ。太古の船かよ」
太古の船じゃあないんだけど、魔導頭脳とかは太古かも。
あとエンジンも。
ファンファンと音を立てて、蒼穹の覇者号が三回目の山頂への着陸をした。
嵐の中なのに、カロルの操縦は安定してるなあ。
ハッチからは元気に飛空艇令嬢のメリンダさんが飛びだしてきた。
障壁の通路を作って観客席に誘導する。
「聖女さん、蒼穹の覇者号は凄いですねっ」
メリンダさんは観客席を通りすぎ、騎獣待機所に駆け込んで来た。
「あはは、気に入ってくれた?」
「レースが終わったら個人的に乗りたいですっ」
「表彰式は王城らしいから、一緒に乗って行きなさいな」
「わあ、嬉しいですよっ」
ああ、メリンダさんは飛空艇が好きなんだなあ。
「今日は荒れ模様だけど、頑張ってくださいね」
「任せてっ、優勝を狙うよっ」
「わあっ、凄いっ」
メリンダさんと喋っていたら、不機嫌な表情でハゲ、フランソワ団長が蒼穹の覇者号から降りて来た。
さっそく王様を見つけると何やら訴えていた。
王様は浮かない表情で顔を横に振った。
またハゲが勝手な事を言ってるんだろうなあ。
まあ、触らぬハゲに祟り無しだ。
後部ハッチから騎士学校騎乗部の連中が出て来た。
まあ、一応待機所までの障壁通路を張ろう。
吹きさらしを歩け、という気分だが、仕方が無い。
「おいっ、魔法学園っ!! どういうつもりだっ! なんでお前達は雨具とかがっちり固めてるんだっ!!」
「え、俺が嵐来るかもって一昨日伝えたけどよ」
騎乗部のぽっちゃり君がそう言った。
「あんな伝え方があるかっ!! ふざけるなっ!!」
「うるせえ、真面目に取らなかったおまえらが悪いだろ、合羽とか持って無いのか?」
「嵐なんて想定外だっ!! おいっ、パン屋の娘っ!! 貴様が何かしたなっ!!」
「してねえ、ぶっとばすぞてめえっ」
「なんだとーっ」
《ぶっころす?》
目をギラギラさせたヒューイが、私と騎士学校騎乗部部長の間に割り込んで来た。
小型だけどドラゴンだから貫禄があるな。
「ああ、必要ないよ、ヒューイ、ありがとう」
あ、王様とハゲがやってきおった。
「ですから、この気象状態では部員が危険なので是非レースを延期を」
「フランソワ、馬鹿を言うで無い、お前は戦争で敵国に天気が悪いから攻撃を延期してくれと頼むとでも言うのか?」
「で、ですが、我が騎士学校騎乗部のペガサスではあまりに不利で……」
王様はハゲの方を向いた。
「このレースは騎士がどんな状況でも雄々しく任務を遂行できるのを示す演習の面もある。騎獣を全てペガサスにしてしまったのは騎士学校騎乗部の選択で多少不利だからと言って文句を言うではないわっ」
「うぐぐぐっ」
王様は私たちを見た。
「これで、魔法学園、騎士学校、神学校のチームが揃ったか、あとは農学校と師範学校だな」
王様は空を見上げた。
黒い雲が凄い早さで木々の間を横切っていく。
「コンディションはよろしくないな、だが、まあ、戦場では良くあることだ。大嵐の中、諸君の健闘を見せてもらおうではないか」
「がんばりますっ!」
「やりますっ!」
パスカル部長と神学校の部長が雄々しく宣言した。
騎士学校の部長は苦虫を噛んだような顔で黙った。
しかし、ペガサスは大丈夫だろうか。
人死にや怪我があるとそれはそれで厭だな。
まあ、治癒魔法も有るし、カロルのポーションもあるからなんとかはなるだろうけどね。
王様は満足そうにうなずくと観客席の方に歩いていった。
ハゲはへこへこしながら王様を追った。
気が付くとメリンダさんがヒューイの羽を持って遊んでいた。
「凄い騎獣ね、素敵」
《てれるぜっ》
「てれるぜ、だって」
「わ、騎獣と話せるの? 良いわね」
「古式テイムだからね」
「わあ、隷属の首輪とは違うのね、すごーい」
そして、メリンダさんは驢馬にのったマヌエルを見つけた。
「あら、マヌエル卿、こんな所にいたの」
「悪いかよ」
「ううん、なんか憑きものが落ちたような良い顔してるね」
「ちえ、言ってろ」
おお、二人は知り合いなのか。
【また行ってくるよ】
胸のブローチからカロルの声がした。
「行ってらっしゃい、師範学校と農学校のチームを探してね」
【わかったわ】
蒼穹の覇者号はヒュンヒュンと音を立てて空に飛び上がった。
さあ、もうすぐレース開始だね。
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