第1363話 プートリー山山頂施設を補強する
ランチを済ませて学園に戻り、地下道から格納庫に入る。
メイン操縦室の艇長席でちょと待つ。
「今日は僕が操縦……」
「よろしくね、エルマー」
「まかせて……」
しばらく待っていると、コリンヌさんとライ一郎、ヤギ次郎がやってきた。
厩舎から出してきたんだよね。
ヘビ三郎はヒューイの首に巻き付いている。
ヒューイは勝手に飛んでビアンカ邸基地の発着台にいるようだ。
「おまたせー」
ライ一郎とヤギ次郎を連れてコリンヌさんがメイン操縦室に入ってきた。
「じゃ、行きましょうか、エルマーおねがいね」
「了解……」
エルマーは出力レバーを上げて船体を浮遊させて、通路トンネルを微速前進させていく。
発着台に居たヒューイが甲板に飛び乗って来た。
発着台から垂直に高度を上げて、操舵輪をくるくる回してエルマーは船首をプートリー山に向けた。
ふわっと船は加速していく。
うーん、エルマーの操縦も機械みたいに正確で上手いね。
あっという間にプートリー山山頂である。
王軍の施設設置部隊の人達がこちらに向けて帽を脱ぎ振った。
資材を避けるようにして、山頂に着陸した。
さてさて、行こうか。
私たちが船を下りると、工兵隊隊長がやってきた。
「うはー、聖女さんだ、何か御用ですかい?」
「明日は大嵐になるから設備の補強にきたのよ」
「大嵐?」
隊長さんは天を見上げた。
曇り空だが、あまり嵐の徴候は無い。
「ご冗談を」
「明日大嵐になっても良いように補強します」
「……、確信があるようですね、どれくらいの嵐ですか?」
「さあ? 集まってくるワイバーンの数次第ですね」
「亜竜の気象変動ですか? マジに?」
「うちの知り合いの守護竜が知らせてくれたの」
「アダベル様が……、それはやばげですね」
「規模によっては騎乗レースは中止になるでしょうけど、在る程度の嵐なら、やるでしょう、騎士のレースなんですから」
「そうですね、ああ、そうですね、大嵐はペガサスに大層不利ですね、それは良い」
「軍馬有利です、神学校はスレイプニルを導入してます。なかなか面白いレースになると思いませんか?」
「良いですねえ、是非とも見てみたいですなあ」
工兵隊隊長はにんまり笑った。
やっぱハゲは全方位から嫌われてるなあ。
わっはっは。
隊長さんに案内されて施設を見せてもらう。
木造の観客席、貴賓席は大体できあがっている。
が、吹き抜け部分が大きいな。
大風が吹いたり雨が降り込んだら観戦どころじゃなくなるね。
「補強とは何でやるつもりなんですか、聖女さん」
「障壁で」
「おお、というか、敵の攻撃を防ぐ魔法じゃないんですかい?」
「硬化ガラス並の硬度を誇る建材で、厚みは無いけど雨風を選択的に通すか遮断するか選べます」
「マジ?」
私は観客席の一階ブロックに障壁を掛けた。
5%で光を遮ると、大体ガラスぐらいの透明度になる。
まったく透明にすると取り回し難いからね。
四面を障壁で囲み、大気の通過を1/10、水を遮断、そして、地面の中へ五クレイドほど障壁を食い込ませる。
「うっは、凄いもんですね。かなり堅い、ですが出入り口が」
「人は通過します」
隊長は目を丸くして障壁を通りぬけた。
「風は遮断ですか?」
「遮断すると窒息しますので、1/10だけ通します。大風でも1/10なら大丈夫でしょう」
「雨は?」
「雨は通しません、エルマー、水魔法で水をぶっかけてみて」
「解った……」
エルマーは水流を魔法で呼び出して障壁に掛けた。
もちろん中には一滴も入らない。
「すげえ、全然通って無い。ガドラ、風魔法をぶっ放してくれ」
「了解っす」
兵隊さんが風魔法を障壁にぶつけた。
エアーボールかな。
「おお、そよ風程度になった、これは凄い。硬度は硬化ガラスですか」
「そう、思い切りハンマーで叩くと壊れるわよ」
「そりゃあ凄い、ハンマーで叩かないと壊れないんですか」
「地下五クレイドまで障壁を伸ばしているから風で吹き飛ぶ事は無いと思いますよ」
……、そういや、止めるのは水と風を1/10だから、ハンマーや剣も通過しちゃうな。
事実上、破壊不可能か。
隊長さんは計算尺を使って強度計算を始めた。
「うん、地中に三クレイドもあれば、熱帯のタイフーンでも大丈夫ですな」
「何かリクエストは?」
「出入り口には『通れます』って書けますか」
「あ、そうね」
私は障壁を書き換えた。
……。
ううむ、子供の字みたいになったぞ。
障壁で字を書く練習はしてないからなあ。
「あはは、良いですね、アクセントとしてとても可愛いですな。これで、階段や屋上、あと、貴賓席などを囲いましょう。これは良いですねえ。また何かの行事にご協力をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「まあ、学生なんでほどほどなら」
「エキサイティング! さあ、ガンガン障壁で補強していきましょう」
私は工兵隊長の指示通りに観客席や貴賓席、スタッフルーム、選手控え室などに障壁を張っていった。
とりあえず、半円チューブ型の通路も作って各施設を繋いで行く。
しかし一日しか使わないのに、豪華な施設を持って来たなあ。
観客席の後ろには食事が売っている屋台のスペースがあり、救護室やトイレ、色々な施設がならんでいる。
スタートゲートとゴールゲートも障壁で補強していく。
「コース上のチェックポイントと、選手の控え室も補強していただけますかな」
「いいですよ、行きましょう」
ヒューイがトコトコと前に出て来た。
私が跨がると、工兵隊長は満面の笑みを浮かべた。
「素晴らしい騎獣ですね、伝説の竜馬だ。さすがは聖女さまだ」
私はカロルを引っ張り上げた。
「さあ、行きましょうか」
頭上をゴウンゴウンと白銀の城号が通過して高度を下げていった。
王家主従が到着したか。
「マコト、王子とジェラルドを迎えにいってくる……」
「え、良いのエルマー」
「マコトは施設に障壁を張りに行くべき……」
「解った、お願いね」
「任せろ……」
エルマーは蒼穹の覇者号へ向けて駆け出して行った。
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