第1360話 コウラルエイダの夢を見る
夢を見ている。
高空をパジャマで飛んでいてビュウビュウ音がする。
でも寒くは無いから霊体なのかもしれない。
山岳の向こうから、とんでもなく巨大なテーブル珊瑚みたいな魔導空母が現れた。
【コウラルエイダ】だな。
そうすると、これは過去の光景かあ。
へー、過去視ってこんな風に見えるのかあ。
【あら、マスターマコト、奇遇ですね、コウラルエイダ形態のエイダです】
「あんた喋れるの? 自我は現在のエイダさんなの?」
【……、そういえば変ですね、マスターマコトが見ている過去視ですから未来の私の自我も混ざるのかもしれませんね】
「明日、エイダさんに聞いたら覚えているかな」
【覚えていないと思いますよ】
便宜上の自我みたいな感じかあ。
私はコウラルエイダのブリッジの上に腰掛けた。
中では爬虫人類みたいな感じの人達が右往左往していた。
「この爬虫類さんたちは何?」
【『結社』の最大の構成民族ですね】
そうか、先史魔導文明時代は爬虫人類に地球は支配されていたのか。
ゲッターだな。
私は霊体のようで、中の爬虫人類さんたちには見えないようだ。
『コウラルエイダ』の左舷のテーブルからガチャンガチャンと魔導駆逐戦艦が切り離され、地表に向けて落下していく。
『それでは行ってきます、エイダねえさん』
『武運を、ジャックポッド』
『はい、必ずや姉さんに勝利を』
なんだかこの時代のジャックポッドはイケボで理性的だな。
さらに『コウラルエイダ』は右舷からも魔導駆逐戦艦を切り離し、落とした。
「戦線は真下ぐらいかな」
【そんな感じですね。我々の敵は連邦、人間主体の連合国です】
『コウラルエイダ』の端まで行って、下をのぞき込むと雲の下で盛んに光の球が生まれたり消滅したりしていた。
さぞや激戦が行われているのだろうなあ。
おろ。
ちょっと遠い山脈に見慣れた形を見つけた。
突剣山脈のとんがりだ。
そこから目をずらすと、ホルボス山の特徴的な頂上が見えた。
そうか、山々は一万年ぐらいではそんなに形は変わらないか。
そうすると、ここらへんはアップルトン郊外ぐらいか。
過去の地形を見るのも楽しいなあ。
雲をつんざいて三角形な感じの高速船が浮上してきた。
舳先に剣を持った女の子が立ってるぞ。
もの凄い高速だ。
「おい、霊体、なにしてんだ?」
「は? 見えんの?」
「聖女さまだからな、私は聖女ポーリン、鉄剣ポーリンとは私の事だ!」
「さようで、五、六千年後の未来から来た、聖女マコトです」
「ビアンカじゃないのか」
「ビアンカさまをご存じで」
「たまに来るからな」
あー過去視ってこういう感じなのかあ。
「で、日本のどこから来た?」
「は?」
「え、前世は日本だろ、台湾とかじゃあ無いだろ」
「どどど、どういうことですか?」
「聖女も勇者も、前世は日本人だから、五千年後でも一緒だろ、あの女神の馬鹿がそう決めたし」
「はあああ??」
い、いや、そういえば、マリアさまも、ビアンカさまも、なんとなく日本人ではないかなあ、そうかもしれないなあという感じはしていたのだけれども、過去視の聖女さんからそんな事をバラされるととても動揺してしまいますよ。
「しらなかったか、あはは。まあ、気にすんな、魔王も日本人だ」
「はあ? というか、この戦争で魔界を呼んで、それで魔物が出来て、魔王も出来たのではないのですか?」
「違うよ」
「えーーー」
女神さま、話が違いますよ!
どうなってるんですかっ!!
「あ、あんまり言うといけないのか、うん、ここらへんで」
「えーーーー」
「ちなみに私の乗ってる『虚空三角』のエンジンがお前の時代の光魔導エンジンになるぞ、じゃあなっ」
「ちょっとちょっと!!」
ポーリンさんは現れた時のように唐突に去って行った。
なんだか、蒼穹の覇者号よりも遙かに運動性が良い感じでしたが。
「ああいう規格外の人が暴れて、『結社』の艦隊を落として行ったんだろうね」
【そのようです、先ほどポーリン師に、魔導駆逐戦艦が二隻落とされました】
「すげえね、ピッカリンのご先祖かもね」
【そうかもしれませんね】
しかし、夢の中なのに、どっと疲れたな。
『コウラルエイダ』が高度を下げていく。
雲を割って地表あたりにいくと、大戦争の最中であった。
『コウラルエイダ』は格納庫から魔導戦車を無数に地面に下ろした。
「どっちが勝っているのかね?」
【連邦軍ですね。『結社』はわりとじり貧です】
空には飛空艇が飛び交い、魔導戦車が砲撃を繰り返しているが、騎士もいるし、歩兵もいるし、ゴーレムが出たりで、わりとごちゃついた戦場であるね。
戦場の片隅でポーリンさんが兵隊に治癒魔法を掛けていた。
「手伝おうか」
「霊体は手をだすな、因果律がなんか変になるっていうぞ」
「そうなんだ、横浜」
「え、ああ、そうか、そうか、私は静岡だ、何年頃?」
「二千十年ぐらい?」
「私は八十年台だよ、やっぱ後の時代ほど時間が経つなあ」
そう言ってポーリンさんはにっこり笑った。
存外人の良さそうな笑顔だった。
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