第1347話 ヒルムガルドを後にしてホルボス村へ
ヒューイの背に揺られて丘の上公園に行くと、みんな集まっていた。
アダベルたちも居てニマニマしていた。
手に手にブリキのバケツを持っているな。
「釣れた?」
「結構釣れたよ、邸宅の晩ご飯はマスだー」
「あら、良かったわね」
「意外と良心的な釣り堀だったよ」
楽しければ何よりだね。
バケツの中にマスが二、三匹入って泳いでいた。
エイダさんがハッチを開けてタラップを下ろしてくれた。
子供達が騒ぎながら上っていく。
ヒューイがヘビ三郎を首に巻いて勝手に貨物室に入り込んだ。
手間いらずで助かるなあ。
「ケリーさんは一緒に乗っていかないの?」
「今日は実家に泊まりますわ、また月曜日に」
そうかそうか。
なんだか命令さんはモジモジしてロデムの耳などをいじっていた。
「あ、あの、お礼を、そのガドラガの時にお礼を言っていませんでしたの」
「ああ、良いんだよ、教会の内紛に巻き込まれた形だしね、私の責任でもあるし、巻き込んで怖い思いをさせてしまってこっちこそごめんね」
「そんな事はありませんわっ!! その……、ありませんのよ。あなたとは春に喧嘩をしてましたし、見捨てても良い時に体を張って助けに来てくれて、あの時本当に嬉しかったのですわ」
「あ、あはは、気にしないでよ」
素直な命令さんは珍しいので、ちょっと怖いかな。
「本当にありがとう。ロデムと古式テイムさせてもらったし、本当に感謝してますのよ」
「うん、ありがとう、嬉しいよ」
命令さんは毒気の抜けた感じの良い笑顔を浮かべた。
「それでは、また月曜日にね」
「はい、また学園でお会いしましょうね」
私はタラップを上がってメイン操縦室に入った。
「ケリーのやつ、思ったより付き合いやすいな」
「あはは、違いますよシルビアさま、マコトと知り合ってしまうとなんだか人柄が丸くなるのよ」
「やめてよカロル」
「そうなのか、聖女の力だなあ」
「人柄ですよ」
我が嫁は、私を超かいかぶるので恥ずかしいなあ。
艇長席で照れているとカロルが蒼穹の覇者号を離陸させた。
「次はホルボス山ね」
「うん、トール王子とティルダ王女と村の三馬鹿とガラリアさんを下ろさないと」
「お、おります……」
そりゃ下りるだろうね、ガラリアさん。
ガラリアさんもバケツを持っているので釣りしていたらしい。
「夏のバカンスはこんな感じか」
「そうだそうだ、こんな感じだぞシルビア」
シルビアさんの問いに、カーチス兄ちゃんが答えた。
「なかなか楽しくなりそうだな、その時はよろしくな、みんな」
「おう、まかせとけっ」
アダベルが床に寝転んで返事をした。
シルビアさんはクツクツと喉の奥で笑った。
ホルボス山の特徴的な山頂が見えて来た。
カロルはよどみなく操舵輪を動かして、渓谷の中のホルボス基地入り口に入った。
アダマンタイトの扉が開き、蒼穹の覇者号はゆっくりと入り着陸した。
「カロルお疲れ様」
「なんでも無いわよ」
カロルも操縦が上手くなって艇長である私の立場がないなあ。
トール王子、ティルダ王女と村の三馬鹿、あとガラリアさんが船を下りた。
みなマスが入ったバケツを手に提げているね。
「またなー、みんなっ!」
「へい、おやびん!」
「また、ヒルムガルドの釣り堀に行こうよ」
「そうだなあ、また行こう、あそこ楽しい」
いきなり竜になったアダベルが籠をしょって行ったら、命令父さんが激怒しそうだがなあ。
まあ、子供好きだから歓迎するかもしれないな。
トール王子とティルダ王女、村の三馬鹿と、ガラリアさんは船を下りていった。
「こうやって飛空艇であちこち飛んでいるのか、それは楽しいなあ」
「黄金週間の後半は私の領地と、ブロウライトさまの領地に泊まりがけで父兄さまをお送りしましたのよ」
「父兄送迎かあ、いいなあ」
「シルビアも聖女派閥に移れよ」
「いやー、それはなあ、私は王国派で良いよ」
「お前の忠を尽くすべき王子はここに居るぞ」
「いやあ、将来はよろしくね、シルビア先輩」
「やっぱ警備騎士団はロイド王子が長になるんですか?」
「ああ、内々に決まっているよ」
「そうかー、将来はよろしくおねがいしますよ、ロイド王子」
「ロイド王子派を作ればいいんだ」
「やめろ、カーチス、それは、いろいろとヤバイ発言だぞ」
ロイドちゃんは妾腹の王子だから、色々気を使うんだよなあ。
警備騎士団は前世の警察機構だから、すごい権力だ、という感じもするが、武力としてはそうでもない。
近衛騎士団の方が規模が大きいし、国軍に比べると武力は結構劣るんだよね。
「まあ、学生時代を一緒に過ごした仲間ってのは一生物らしいからね。ロイド王子も一生続く派閥仲間だ」
「そうだそうだ……」
「そ、それは嬉しいな、カーチス、エルマー」
男衆が仲良くしているのは色々と嬉しいね。
ジュリエットさんもロイド王子の隣でニコニコしてるね。
蒼穹の覇者号はカタパルトで宙にバシューンと撃ち出されて王都を目指すのだ。
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