第1337話 地獄谷を視察する
ヒューイがふわりと馬車溜まりに着陸すると、事務所からヘイスさんが小走りでやってきた。
「聖女さま~~、お帰りなさいませ」
「やあやあ、期末試験が終わったから視察に来たよ。どうよ調子は」
「ありがとうございます、硫黄運び人足はみな幸せに暮らしておりますよ」
「そうかそうか、それは何より、住宅の建築の方は?」
「今は集会所を作ってますね。前の小屋を取り壊している間に泊まる場所として使うそうです」
そうか、住居は集会所の後なのね。
集会所は、住民の食堂とロイクが経営する売店のある施設になる。
地域の行事や役場機能も持たせるために結構大きい。
コリンナちゃんとジェラルドが設計しておったな。
《温泉いってくる》
「いってらっしゃい」
ヒューイはふわりと飛んで、なんだか凄く熱そうな温泉に向けて飛びこんだ。
ぐああ、なんという硫黄の匂い。
「昨日はあそこに飛びこんだから臭かったんだな」
「なんだか、急に湧いた硫黄分が濃い源泉で、普通の生物が入ると溶けますね。浸かれるのはヒューイ号ぐらいでしょう」
まあ、奴は竜の仲間だからな。
火も吐くし、熱には強いっぽい。
《うむ、良い湯だ》
ザブザブ泳いでおる。
「後で真水の池に入りなよ」
《解った》
あまり硫黄臭いと、またダルシーと洗わないとね。
地獄谷の集落はそんなに変わってないね。
あちこちで水道の配管が走っているけど、建築の時は埋めるのかな。
旧食堂に入ると、チャップマンさんが食事をしていた。
マダムエドワルダがメイド服を着て給仕をしてるね。
ロイクの奴は売店にいて、本かなんかを読んでやがる。
「あら、御領主さま、お帰りなさいませ」
「お、聖女さん、おかえり」
「聖女さん、こんちわー」
チャップマンさんの向かいに座る。
何かのシチューかな、なかなか美味しそうだ。
「おいしい?」
「おいしいだよ、エドワルダさんは料理が上手いねえ」
「そんな、褒めても何も出ませんよ」
うんうん、なかなか良い感じだね。
ロイクが売店から出て来てテーブルに座った。
「おう、聖女さん、相談があるんだが」
「なによ、あ、ありがとう」
マダムエドワルダがお茶を入れてくれた。
美味しいね。
「スラムでよお貴族の嬢ちゃん、いや元貴族の嬢ちゃんだな、が、乱暴されそうになっててよ、助けたんだわ。で、地獄谷に置いちゃくれねえか?」
「廃嫡された貴族令嬢……」
私はマダムエドワルダを見た。
彼女は小さくうなずいた。
「アントニア嬢だわねえ」
「そうだ、娘が麻薬の売人をしてたから取り潰された家だな」
うーん、あの女は性根が腐ってるからなあ。
「彼女はエドワルダさんが生きてるって知ったらどうすると思う?」
「え、エドワルダさんの知り合いか?」
「麻薬販売網の一部でよく知っているはずよ」
「そうね、面識がありますよ、で、人柄は、あまり良く無いというか、チンピラ女ですよ」
というか、家が取り潰されて、スラムに落ちてたんだなあ。
これが良い領主なら地元に引っ込んで平民をやるという手があるんだけど、それは無理だったか。
「なんで、最悪恐喝されますね。この件を黙っていて欲しかったらパターソン子爵家を復興させろとか言われるかも」
「あーあー、そういう子かあ……」
意外にロイクは人が良いというか、悪い奴に甘いな。
「人を嬉々として麻薬漬けにする奴だし……」
ああ、オスカーの災難にも関わっていったっけか。
面倒臭いな、なんで死刑にならなかったかな。
まあ、麻薬だけだったからだろうなあ。
「という訳だから地獄谷には入れられないわね」
「すぐに喧嘩になって、硫黄の源泉に突き落とされてしまいそうですよ」
「そうか、マダムエドワルダも、ダガンの旦那もヤバイなこりゃ、いらねえ慈悲の心を出すべきじゃあねえか」
「とりあえず、スラムの教会にでも連れていきなさいよ、そこで尼さんになればヨシ、嫌だったら流れて行くわ」
「そうだな、解った、ごめんな」
「まあ、良い奴になろうという努力は認めるわ。相手が屑なのはなかなか解らないからね」
「私も、ダガンさまも、ロイクさんは信頼してますよ」
「いや、そう言われると照れるな」
なかなかロイクのおっちゃんも地獄谷に馴染んできたな。
聖騎士の人が食堂に入ってきた。
「おや、聖女さま、おつかれさまです」
「お疲れ様、地獄谷はどう?」
「平和なもんですよ、そろそろ街道に繋がる石畳の道が開通しますんで、大分便利になりますな」
ホルボス村へのはちまき道路が開通して、街道に下りる道も良くなると、大分交通事情は改善されるね。
これから街の住宅建築に入るから、大型馬車が入れるようにならないと不便だからね。
さて、ひとっ風呂浴びて街道の方に下りて帰るかな。
掘っ立て小屋はまだ立っていた、というか、簡単な構造なので、ばらけても簡単に再設置できるのな。
服を脱いで露天風呂に入る。
おー、きついきつい。
強い湯だなあ。
マメちゃんも影から出て来てお湯の中を泳いでいるね。
《我も入る》
ドッポーン!!
ヒューイが空から飛びこんできた。
「ギャー、外壁が!!」
いつかの王家主従のように三百六十度解放露天となった。
「めっ!」
《すまん、主よ》
ダルシーが慌てて壁を建て直してくれた。
重拳は便利だな。
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