第1331話 午後は勉強会をさぼって遠乗りに行く
「じゃあ、ヒューイに乗って遠乗りしてくるよ」
《いこういこう》
「ちえっ、ずるいぞマコト」
「いやあ、素晴らしい解放感だなあ。どっか行って呑んでくるかな」
「おまえ、酒は飲まないだろうに」
「試験明けは特別なのだ」
いや、呑みませんけどね。
ちなみに私は毒無効だけど、お酒を飲むと酔っ払う。
毒の範囲はどれくらいなのだろうね。
まあ、あまり酔いが酷くなったら『ヒール』で酔いを飛ばしちゃうけど。
ヒューイの背に跨がると、依然としてヘビ三郎が巻き付いていた。
「ヘビサブローだけでも連れていってください」
コリンヌさんがそう言った。
ライ太郎、ヤギ次郎もお願いしている。
「まあ、ちゃんと巻き付いてなさいよ」
解った解ったという気持ちの念話が伝わってきた。
コリンヌカルテットは三匹と一人で一つの存在だから、どれか一つでも一緒なら満足っぽいな。
変な存在である。
ヘビ三郎は【溶解液】を吐く凶暴なヘビだが、大きさはそんなでもない、キメラカルテットの尻尾担当だったからね。
前世の青大将ぐらいだろうか。
にょろにょろしている。
溶解液相場はミリヤムさんがドバドバ生産しているせいで、結構値下がりしている、が、まあ、ヘビ三郎の出す量でも売るとカルテットの食費ぐらいにはなっていて、助かっているらしいね。
ライ一郎とかよく食べそうだからな。
「そいじゃ行ってくる」
「というか、どこへ行くのマコト」
「ヒルムガルドまで行って夕方帰ってくるよ」
「結構遠いけど、大丈夫か?」
「空を行くからね、直線距離だから結構早いよ」
「気を付けてくださいね」
「わかった、行ってくる」
私は自然公園の芝生からヒューイをひらりと飛び立たせた。
いえーい、爽快だね。
ヘビ三郎が首元の飾りみたいだね。
彼は結構飛ぶのが好きらしい。
自然公園の奥をめざし、裏山の森の上を飛ぶ。
廃教会もだんだんできあがりつつあるね。
冬には完成するかな。
王都の西門で一度下りて冒険者カードを見せて通過する。
門番のおっちゃんが、行ってらっしゃいと笑ってくれた。
ヒューイの手綱を取ってヒューム川をなぞるように飛ぶ。
まあ、念話が使えるので手綱とか要らないのだけど、雰囲気的にね。
今日もヒューム川は川舟が沢山通っていて、船の上のおっちゃん達が笑って手を振ってくれる。
川舟は下る時は楽なんだけど、上流に引いていく時が大変だよなあ。
川歌を歌いながら、エイホーエイホーとマッチョなオッちゃん達が空舟を引いて上流に上げていく。
川沿いには村が所々にあって、川港のようになっているね。
いつもは蒼穹の覇者号で吹っ飛ばすので、ヒューイでゆるゆる飛んで行くのはなかなか楽しいね。
ヘビ三郎も楽しんでいるようだ。
というか、カルテットとどれくらいの距離で念話が届くのかね。
《まだまだ大丈夫ですよー》
コリンヌさんの暢気な念話が入って来た。
意外と届くね。
ペペロンとはジーンの帝都ぐらい離れても念話が届くしなあ。
まあ竜は別格みたいだが。
上流に行くほどに風が強くなってきたのでゴーグルを掛ける。
ヒューイは、わっせわっせと楽しく羽ばたいている。
「飛ぶのは好き?」
《好きだな、愛している》
そうかそうか、それは何よりだな。
地平線の遠くにヒルムガルドが見えて来た。
近い近いと思っていたが、やっぱり少々距離があるな。
ホルボス山より遠い。
しばらく飛んで、ヒルムガルドが近づいてきた。
というか、通関はどうするんだろう。
前は無許可で広場に飛空艇を下ろしたが、ううむ。
しょうが無いので街の南門近くに舞い降りた。
こっちの口は出る人の方が多いね。
白い竜馬で降りて来たので、周りの商人さんたちがびっくりしていた。
「あー、身分証を拝見……。あー、通行料が千五百ドランクです」
門番さんに通行料を請求された。
……あ、ダルシー連れてくるの忘れた。
私は収納袋からお財布を出して通行料を払い、ヒルムガルドに入った。
やあ、やっぱり貿易の中継都市だから流行ってるね。
人通りが多いや。
そして、衛兵を伴って命令父ことホルスト伯爵が走ってきた。
「何用だーっ!! 聖女候補めっ!!」
「……観光」
ヒューイが主に無礼があったら只ではすまさんぞという感じに、ブルルと鳴いた。
ヘビ三郎も首を持ち上げた。
「か、観光か、そうかっ、では交易都市ヒルムガルドを楽しんで、さっさと帰ってくれっ」
「失敬だね、あんたぁ」
「お前は嫌いなのだ、しかたがない。ケリーを虐めるしな。あ、だが、ロデムの件では世話になったようだが、あの災難自体がお前の責任でもあるから、礼は少ししか言わぬ」
「ああ、良いよ。ロデムが生きかえって良かったよ」
「ケリーはロデムがそれはそれは気に入ってなあ、街に帰ってきてもロデムばかり可愛がって家族とあまり話してくれないのだ」
「本式のテイムになったからね。一生の相棒になるよ」
「そうかそうか、それは良かった、四百万ドランクを出して買った甲斐があったという物だ」
「伯爵閣下、聖女さまとお話をなされるなら、舘に招かれては如何かと」
「いかんいかん、聖女は仇敵であるからな、和やかに雑談などしていてはケリーに良く思われない、それは良く無いのだ。だから、とっとと観光をして帰れ。ヒルムガルドの見所は大水門と商業会議所だ、あと、展望公園があって景色がいいぞ、お茶をするなら、水車亭が今人気である。ではな」
意外に親切だな、命令父さん。
家令さんがヤレヤレという感じに肩をすくめて小さく頭を下げて去って行った。
そうか、お茶は水車亭だな。
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