第130話 生き人形アリスの正体とは①
馬車は王都のメインストリートを進んでおります。
ゴトゴト。
最高級馬車ではないのでちょっと揺れるね。
「しかし、その歳で司祭の資格を持つとは、さすがは聖女候補だね」
「去年試験を受けたんですよ。小教区ぐらいの教会の責任者になれますよ」
ジョンおじさんが話しかけて来たので答える。
「さすが……、マコトだ……」
まあ、そのおかげで、教区の運営とか、教会の経営とか、いらない知識も増えましたけどね。
試験は主に神学とかでしたぞ。
私は記憶力は良いので試験は楽勝でしたな。
馬車が止まった。
キャンベル侯爵邸に着いたようだ。
ドアを開けて、馬車の外にでる。
「うわぁ、侯爵家、おばけやしき~」
「な、なによっ、失礼ねっ、趣があるのよっ」
いやあ、趣のある建築というよりも、お化け屋敷が近いぞ。
のしかかってくるような陰鬱なゴシックぽい建築でツタが這い回っておる。
近所の子供とか怖がってるんじゃないだろうか。
死霊術の大家にふさわしいお屋敷と言えよう。
教会の紋章を付けた馬車がぞくぞくと止まり中から甲冑を着込んだ聖騎士たちが現れ、路上に整列する。
門番の兵士が何事と、こちらへ寄ってくる。
「聖心教教会です、エイブラハム・キャンベル教授に異端審問しにきました」
「は、はあ、そ、そうですか……、異端審問?!」
「キャンベル教授はご在宅でしょうか」
「い、いらっしゃいますが、その、し、しばらくお待ちいただいても」
「教授に取り次ぎをおねがいします」
「か、かしこまりました」
若い兵士は門の脇の詰め所のドアに槍を立てかけて、慌てた様子で屋敷に飛び込んでいった。
しばし門の前で待つ。
慌てた感じの初老の家令さんが屋敷から飛び出してきた。
「い、異端審問とはまことですかっ?」
「はい、聖心教教会司祭、聖女候補のマコト・キンボールの名において、異端審問を開催いたします」
「と、とりあえず、お入り下さい」
門番さんたちが、大門を開いた。
馬車たちをとりあえず中に入れる。
前庭に聖騎士団は置いておいて、リンダさんだけ連れて屋敷の中に入る。
私の後を、ロイドちゃんとジュリエット嬢、ジョンおじさんとエルマーと続いていく。
豪華なエントランスホールに入ると、正面の階段からイケ中年のおじさまが降りてきた。
「おやおや、これはこれは、不思議な取り合わせのご一行ですね。キャンベル家へようこそ」
ぴしりとしたスーツを着て、片メガネ、微笑みを浮かべた美中年、それが、死霊術師、エイブラハム・キャンベル教授であった。
「エイブラハム・キャンベル教授、私は聖心教教会の司祭、聖女候補のマコト・キンボールですっ。今日はあなたを異端審問しに来ました」
「はて?」
キャンベル教授は小首をかしげた。
「お父様っ、こいつっ、わたくしのアリスに難癖をつけるのっ!! 叱って懲らしめてっ!!」
「アリス? ああ、あの人形ですか、あれが何か?」
「ジュリエットさま、アリスを出していただけますか」
ジュリエット嬢はふくれっ面をしながらも、ポシェットからアリスを出して胸に抱えた。
「これ、人の魂が宿ってますね」
「……あ、そうですね。宿っております」
「生者の魂を生け贄にしたのでは無いですか?」
キャンベル教授は可笑しそうに笑った。
「死者ですよ、聖女候補さま。魂を捧げる代わりに縁者に金銭を寄贈する契約を結びました」
死者だったのか。
それならギリギリグレーゾーンだな。
「アリスというジュリエットの一歳年下のメイドでして、姉妹のように仲良く育っていたのですが、運悪く疫病に倒れましてね。本人のジュリエットと一緒に居たいという願いもありましたので、死霊術にて人形に宿らせました」
「ふむ、それならば、研究の範囲内ですな」
「ありがとうございます、クレイトン大臣」
「ご不審はそれだけですかな?」
キャンベル教授はにこやかに笑った。
本人からの了承得て、金銭を支払っている。
ここまでは問題は無いみたいね。
「アリスを媒体に、ジュリエット嬢が呪いを人に付与していましたが」
「なにっ!」
キャンベル教授がジュリエット嬢を見た。
「ちちち、ちがうのお父様、その気にくわない奴に、ちょっとだけ、ちょっとアリスから出ている力をくっつけただけよ、そ、そんな凄い事にはなってないのよっ、足をくじくぐらいで」
キャンベル教授はつかつかとジュリエット嬢に近づくとアリスを取り上げた。
「なぜ、呪いが、そんな馬鹿な、呪いが発生するわけがない」
「現実に発生しています」
アリスの体からまがまがしい瘴気が出て、床にこぼれ落ちている。
「人に付けられるほどの瘴気を発生させて、ジュリエット嬢も長期的には影響を受けるかと思いますが」
「アリスの思いは果たしているのだ、呪いが発生するわけがないのだ。おい、アリスお前は何を望んでいるっ」
『いっしょニ、いたい~、ジュリといっしょに、いたいいたい』
「あなたは生前の記憶はあるの?」
『あまりなイ~、はんぶんグらい~、でもでも、ジュリといっしょ、いっしょ、いっしょに~』
「自我が残ってるだと、馬鹿なっ、生き人形だぞっ」
「想定した魔法と違うのですか?」
「うむ、しゃべりかければ決まった返事をする、たまに動く、ぐらいの、ペットとしての生き人形のつもりで作成したのだが、なんだ、この執着は、異常だぞ」
「お、おとうさま、どうなされたの? アリスはおかしいのですか?」
キャンベル教授はアリスの服をまくり上げて魔法陣のチェックをしている。
まあ、その、なんだか、はたから見ていると変態チックだなあ。
人形フェチのイケ中年みたいであるよ。