第129話 ジュリエット嬢、確保ーっ!!
ジェラルドがぱちぱちと手を叩いた。
「さすがさすが、聖女候補なだけはあるな、キンボール」
「ジェラルド、あんた、わざとビビアン様を私にぶつけたね」
「お互い殴り合いとかして欲しかったのだけどね。うまくさばいたな」
ちっ、いやな奴だなあ。
「良くやったわ、スカッとしたわよ」
「えらいえらい」
席に付くと、カロルとコリンナちゃんに撫でくりまわされた。
うひひ。
さて、お茶を飲んでから、ジュリエット嬢を確保しようか。
ずずず。
ジュリエット嬢は相変わらずロイドちゃんにひっついて色々しゃべりかけている。
ロイドちゃんは困り顔で対応している。
「ダルシー」
「はい、マコトさま」
「手伝って」
「わかりました」
立ち上がり、ジュリエット様の元に歩く。
「ジュリエット様」
「な、なによ、なにか用なのっ」
「私、マコト・キンボールは、聖心教の司祭としてあなたさまを異端審問に召喚いたします」
「は、はあっ? 何を言ってるの何をいってるの? わたくしは侯爵令嬢ですのよっ、異端審問とか、ありえませんわ」
「これは国法で決められた聖心教の権利なのです、アップルトン王国に住む全ての国民は異端審問を掛けられた場合、協力して疑いを晴らさないといけません」
ロイドちゃんが目をむいて、私を凝視している。
「マ、マコトっち……、じょ、冗談だよね」
「いえ、冗談で聖心教司祭の立場を振りかざさないですよ」
「ジュリエットは、ぼ、僕の婚約者だよ?」
「ええ、そうですね、たとえ王族でも、聖心教司祭は異端審問を発動可能ですよ」
「だ、だけどさ」
私はロイドちゃんから目を離し、ジュリエット嬢を見つめた。
「ジュリエット様だけではなく、死霊術師のエイブラハム・キャンベル教授にもお話が聞きたいわ。キャンベル家のタウンハウスに参ります、ご同行ください、ジュリエット様」
「嫌よう、嫌よう、拷問されるのね、そんなの嫌~」
「拷問とかしませんから。とりあえずの予備審問のようなものです」
「わ、わかった、僕も同行しよう」
「うえええん、ロイドさま~~」
ジュリエット嬢が泣きながらロイドちゃんに抱きついた。
ロイドちゃんはよしよしとジュリエット嬢の頭を撫でる。
「エルマー、そういうことで、午後の授業はサボるわ」
「ふむ……、魔術的にも……面白そうだ……、……父と同行しても良いかい……?」
「ジョンおじさんに、お願いしようと思ってたわ、お話をしてきてくれるかな?」
「解った……、馬車溜まりで……待っていてくれ」
エルマーが立ち上がってレストランを出ていった。
ジュリエット嬢にダルシーを付けて連行していく。
ロイドちゃんがしっかりと手をつないで歩いている。
意外と良いところがあるね、ロイドちゃん。
「それじゃ、行ってくるよ」
「わかったわ気をつけて」
「お前、忙しいよなあ」
「まあ、しゃーない」
カロルとコリンナちゃんに手をふって、私はジュリエット嬢について行く。
階段を降りきって、校舎の裏口にむかう。
馬車溜まりにリンダさんを筆頭に聖堂騎士団が整列をしていて、とても威圧的であるよ。
大神殿のマークが付いた馬車も何台か揃えられている。
聖堂騎士団は二台ある大型馬車に分乗して来たようだ。
六頭立てで、大型バスみたいだなあ。
「リンダさん、この人が異端審問をかける、ジュリエット・キャンベル侯爵令嬢です。彼女と、父親のエイブラハム・キャンベル教授を尋問します」
「わかりました、罪状は?」
「無許可での違法な死霊術の行使です。たとえ有罪でもそれほどの罪ではないので、あまり威圧はしないように」
「了解いたしました。久々の異端尋問に心が躍ります」
いや、心躍らせるなよ。
めそめそ泣いているジュリエット嬢を高級馬車にいざなって、ロイドちゃんを押し込み、私も乗る。
「マコトっち、罪状は何なのかね、さすがに微罪で侯爵家を貶めると、聖女候補といえど只ではすむまいよ」
「ジュリエット様、アリスを出してください」
「ううっ、やだっ、あんたコワイ」
「ジュリエット嬢が持つ、生き人形に生け贄が使われている疑惑があります。生者を犠牲にして死霊術を行使する事は国法で禁じられております」
「アリスちゃんはそんな悪い子じゃないもんっ」
「アリスとは、あの気持ちの悪い人形か」
「ロイドさままでっ、わーーーっ」
「あ、ごめんごめん、ジュリエット、ごめんねー」
マジ泣きしたジュリエット嬢をロイドちゃんが必死の顔でなだめる。
しかし、彼女は、アリスに依存してんなあ。
正体は何だろうか、魔物のようにも、死霊のようにも思える。
お父様のキャンベル教授から渡されたという事は死霊系の物なんだろうけどなあ。
エルマーがジョンおじさんを連れてやってきた。
「すいません、ジョンおじさん」
「いやいや、キャンベル教授に異端審問するとなれば大事だ。魔法省としても無視はできないね」
「クレイトンのおじさまっ、このわからずやを叱ってくださいっ、わたくしとお父様に難癖をつけますのっ」
「いやいや、だいじょうぶだよ、ジュリエット君、私が付いているから悪いようにはしない。なに異端審問と言っても、そうたいした事ではないよ」
「……だいじょうぶだ、ジュリエット嬢……」
「クレイトンのおじさまとエルマーさまがおっしゃるなら……。わたくし我慢しますわ」
うんうん、それがいい。
黙って審問されてなさい。
我々を乗せた馬車の群れは一路、キャンベル家のタウンハウスに向けて王都中央道路を走っていくのだった。




