第1300話 エキシビジョンマッチが始まる
リンダさんとバッテン先生が試合台上に上がった。
うむむ、風格があるなあ。
両者共に両手木剣であるな。
審判は男性の先生だ。
「それでは、リンダ・クレイブル師とクラリス・バッテンマイヤー先生とのエキシビジョンマッチを開始します」
男性の先生が良く通る声で宣言した。
バッテン先生、名前はクラリスだったのか、意外に可愛い。
リンダさんとバッテン先生は台の中央で礼を交わした。
「それでは、始め!!」
男性の先生の宣言でエキシビジョンマッチは始まった。
おお、コレは……。
両者、力を抜いているんだけど、的確に攻撃を放ち、受け、避けていた。
滅茶苦茶上手いなあ。
エルザさんとマリエッタさん戦の時も上手く思えたのだが、当代一流の剣客同士の対決だと、もう次元が違うね。
すごく見応えがある。
バッテン先生は体を絞って、良い感じに動けるようになってるね。
リンダさんは、まあ、いつものように強いね。
二人とも洗練された水準の高い動きで近づき、離れ、切り結んでいる。
やあ、バッテン先生はヘビのバッテンマイヤーと呼ばれるだけはあって、動きに粘りがあって不思議な感じだ。
リンダさんの方がスパッスパッと動いているね。
「二人ともべらぼうに上手いわね」
「両方ともプロの剣客だからねえ」
「私は剣技は素人なんだけど、それでも解るぐらい凄いな」
コリンナちゃんが感心したように言った。
カンカンと間欠に木剣が打ち合わされ、ダンスのようにくるりくるりと二人は位置を変える。
綺麗な動きだなあ。
二人は観客に感嘆のため息をつかせて戦いあう。
やっぱり生の試合はすごいや。
まあ、もっと凄いのは真剣での斬り合いなんだけど、そういうのは滅多に見られるものじゃないからね。
バッテン先生の重心が徐々に下がって行き、どんどん速度があがっていく。
準備運動は終わった、って感じね。
リンダさんは薄く笑って、バッテン先生の速度に合わせていく。
カンカンカンカンカンと徐々にリズムが速くなり、どんどん舞台上の緊張と熱気が上がって行く。
「いやあああっ!!」
バッテン先生は裂帛の気合いを放って、大上段からの二段斬りを放った。
リンダさんはするすると斬撃の合間をすり抜けて間合いを詰める。
バッテン先生は剣を引き、下がって間合いを開けようとするが、リンダさんは歩くように気負い無く間合いを詰める。
「大技を放つのはチャンスでピンチなのよね」
リンダさんはすり抜け気味に引き切りを放つ。
バッテン先生は木剣を盾にしてすり抜けた。
リンダさんが後方の変な位置から剣を切り返す。
力学的に相当無理のある振り。
だが、振りは振りだ。
バッテン先生は焦って姿勢を下げてそれを避ける。
くるくるとツバメが切り返すように、一番遠い位置からリンダさんの木剣が戻る。
「上手い!」
バッテン先生は避ける場所が無くなり、木剣を背負うようにして台上で前転した。
リンダさんのツバメ返しをギリギリで避けた。
おや、という感じにリンダさんの眉が上がったが、彼女は姿勢を低くして木剣を切り返す。
西洋剣は両刃なので、切り返す往復で刃が立つ。
刀よりも立体的に遠くまで刃が届くんだな。
バッテン先生は前転後の立ち上がりに刃を置かれて剣の峰で跳ね返すように受ける。
ふわあ、一手一手が将棋のように追い詰め跳ね返し、重層的に運動していく。
すごく勉強になるし、見ていてヒリヒリする感じで面白い。
置いただけに見えたリンダさんの刃は、意外に力強く、バッテン先生の木剣を打った。
力を逃がす為にバッテン先生の動きが少し止まる。
「ちぃええええっ!!」
リンダさんが気合いと共に二歩踏み込み、一撃、二撃、三撃、四撃の連続技を放った。
中腰のバッテン先生は必死に受けるが、一撃一撃に力が乗っている、どんどん姿勢を崩されていく。
ストンと尻餅をついたバッテン先生の喉にリンダさんの剣が添えられた。
「ま、まいった……」
リンダさんは剣を引いた。
「もうちょっと絞れ、来年またやろう」
「まだ届かなかったか」
「前に試合をした私なら届いていただろうけど、私も動いているからな」
「また来年やろう」
バッテン先生は立ち上がった。
リンダさんが手をだして、二人は堅く握手をした。
いいねえいいねえ。
すごい剣客の試合を見たよ。
「エキシビジョンマッチ、勝者、リンダ師」
どっと、会場が沸いた。
「一流の剣術の試合は凄いわね」
「見ただけで、経験値が溜まりそうだよ」
「やっぱり試合は良いなあ、決着が綺麗に付くから」
まあ、剣客の試合の本筋は真剣で殺し合いなんだけど、それは滅多に見れないからね。
バッテン先生、リンダさん、良い試合をありがとうございました。
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