第1285話 プートリー山山頂にペガサスとムカデ馬
ヒューイは空を飛んでいるだけでご機嫌である。
《ちがう、主と飛ぶからご機嫌なのだ》
そうですか、懐いてくれてありがたいことだなあ。
王都の西門に下りてくぐる。
門番さんに冒険者カードを示すと笑顔で手を振ってくれた。
門から出た瞬間に羽ばたいて宙に舞い上がる。
今日は暖かいから風が気持ちいいね。
収納袋からゴーグルだけを出して顔に着ける。
プートリー山までは馬車で半日だが、空を行くとすぐであるな。
十分も掛からない感じ。
えっちらおっちら登った山道を眼下に見下ろしてどんどん高度を上げて行く。
というか、頂上に白いなにかが居るな。
ペガサス?
ハゲの騎獣部隊か?
「ええいっ、下賎なムカデ馬なぞ連れてきおって、今は俺達が練習しているんだ、出て行けっ! 神学校!!」
「プートリー山はお前達の物ではないぞ、騎士学校! 我々にも練習をする権利はある!」
うわあ、喧嘩だ喧嘩だ。
《よし、つっこもう》
「やめろう」
私の制止も聞かずに揉めている現場の真ん中にヒューイは躍り込んだ。
「「「「!!」」」」
「よお、喧嘩すんなー」
「げえっ!! 聖女候補!!」
「聖女さま!! マコト・キンボールさま!!」
私の姿を認識して、騎士学校の騎乗部チーム十二人は苦い顔をして睨みつけ、神学校の騎乗部らしい十三人は喜びの表情を浮かべた。
「お初にお目に掛かります、マコト・キンボール様。私はエルヴェ・オスマンと申します、アップルトン神学校の騎乗部部長です」
「初めましてよろしくね」
「おい、神学校! おまえら聖女候補が味方だと思って居るようだが、この女は魔法学園の騎乗部の選手の一人だからなっ」
「おお、聖女さまもレースに参加なされるのですか、これは幸いですっ」
「まあ、出るけどね。で、なんで揉めてたの?」
「ええ、我々は夏のレースでスレイプニルを使おうと山岳訓練に来たのですが、騎士学校騎乗部が先に俺達が練習していると難癖を付けてきまして」
神学校の生徒が乗っている馬のうち三匹が六本足のスレイプニルであった。
山岳地帯と坂道に強そうだなあ。
「汚れたムカデ馬なんざ出してくんなっ! 俺達の天馬の邪魔だっ」
「なんだと、元を言えば貴様らが全員ペガサスに乗るというルール的にグレイな事をするからだろう!」
「金があるからやっていいんだっ! なんの問題があるってんだっ」
「全員がペガサスってのはなあ、ずるいよなあ。次回ぐらいから規制入りそうだぞ」
「今は入ってねえんだよっ!! 勝てりゃ良いんだ、勝てりゃ」
「おまえー、近衛部隊になって王様の前で言えるのか-」
「うるせえっ!!」
まったく馬鹿ハゲの薫陶を受けてクソ馬鹿モラル無し野郎になってやがるな。
馬鹿は伝染するから厄介なんだよ。
「で、なんでプートリー山で練習してんの?」
「はっ!!」
「聖女さま、夏のレースの会場はここです」
おお、プートリー山でレースをやるのか。
そりゃ練習したくなるわな。
山岳戦が多いのか、それはスレイプニルが役に立つかもなあ。
《山でも坂でも任せておけっ》
まあ、ヒューイなら有利だな。
でもレースは団体戦だからなあ。
「よろしかったらコースをお教えしますよ」
「いいの、他校で敵だよ」
「何をおっしゃいますか、神学生にとっては聖女さまは憧れの対象、何を隠そう、この私も、初めて聖夜祭のご挨拶の時に見かけてから、ずっとファンでございますよ」
そ、そうでしたか。
まったく神学校といえば、私のファンの巣窟だからなあ。
学園長に紹介されそうになったのも王都神学校だったな。
「ちっ、結局お前達は俺達の天馬に手も足もでねえんだから引っ込んでろ、いいなっ!」
騎士学校騎乗部の部長っぽい奴は吐き捨てるように言うとペガサス部隊と一緒に王都の方へ飛んでいった。
「やっと行きやがった」
「あいつら粘着だからなあ」
「俺は聖女さまにコースをお教えするから、お前達は傾斜をどれくらい上れるか実験してくれ」
「わかった、だけど良いなあ」
「あはは、部長の役得という奴なんだ」
エルヴェ部長は大喜びだな。
彼の乗馬は三匹いるスレイプニルの一匹だ。
隷属の首輪が着いているね。
エルヴェ部長は「ハイ!」とスレイプニルに声を掛けて、藪に分け入り急斜面をワシワシと登り始めた。
おお、道が無い所も行けるのか。
足が六本あるしな。
まあ、悪路を行くときは虫みたいな足の動かし方でキモイけどな。
ヒューイを空に飛ばしてスレイプニルを追いかけていく。
たどり着いたのはプートリー山山頂だった。
「夏のレースはここがスタート地点となります」
「なるほど、最初は下り坂なのね」
「ハイ、一度麓まで駆け下ります。麓までが第一区間です」
なるほどね。
実際に見ると解りやすい。
エルヴェ部長はスレイプニルを駆って六区間のコースを走ってくれた。
なるほどね。
ペガサスはチートだ。
騎乗レースのコースは陸上騎獣を基本にしているので、飛行騎獣だと圧倒的に有利なんだなあ。
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