第126話 ああジュリエットどうしてあなたはそんなに中二病なの
アンソニー先生が来たので、ケビン王子との会談を終了させて自分の席につく。
まったく派閥闘争はやっかいだぜ。
そして、今日の授業が始まる。
木曜日の座学は、国語、社会、魔物学、美術、であるよ。
魔物学は、この世界に存在する魔物についての学問だ。
いまは、王都付近に生息する魔物について教わっている。
王都の森には、各種スライム、角ウサギ、腐れ猫が出るそうな。
ゴブリン、コボルト、オークなどは、しばらく北に行かないと出ないそうだ。
美術は、今は美術史を習っている。
魔導学園には、歴史的に有名な絵も所蔵されているので、凄い絵の実物を見ることが出来て楽しい。
世の中には頭がおかしいぐらい凄い絵があるのだぜ。
というわけで、お昼休みである。
そして、ロイドちゃんである。
「今日こそは黄道亭に行こうよっ、マコトっち」
「お昼に高級レストランになんか行かないって」
「芙蓉料理でも良いよっ」
もー、しつこいなあ。
「今日はどうするの? マコト」
「どうしようかなあ、ひよこ堂は昨日行ったしね」
「毎日……マヨコーンでも……、僕はかまわない」
「エルマーはかまわないかもしれないけどねえ」
私は毎日パンはなんだか嫌よね。
世界には、というかー、前世でも日本がおかしいだけで、世界の人たちは同じ物をずーっと食べる物なんだよね。
だが、私は毎日同じ物を食べるのは嫌なんじゃい。
カーチス兄ちゃんの一行がどやどやとやってきた。
「よお、マコト、今日はどうする?」
「ひよこ堂以外かな」
「うう……、マヨコーン……」
メイドさんに買ってきて貰って食べれやー。
しかし、上級レストランだと、コリンナちゃんとか困るよなあ。
この人数だと、カーチス兄ちゃんにたかるのも悪いし、どうしようかな。
「解った、僕が全員のお昼代を持とう、だから、黄道亭へいこうよ」
「ロイド王子、それ、税金でしょ?」
「ぼ、僕のお小遣いから出すよっ! つけにはしないからーっ」
「派閥員多いですよ」
「僕はもう、聖女派閥だから良いんだよっ」
「でも、外に行くと、午後の授業に遅れるから、上級レストランで」
「良いじゃん、午後の授業なんか」
「良くないですよ。みんな学生なんですから」
「そうだぞ、ロイド」
「むう、ケビン兄ちゃんまで」
むう、またケビン王子とジェラルドが付いてくるのか?
とりあえず、廊下に出てみた。
しかし、人数が多いなあ。
しれっとケビン王子と、ジェラルドが居るなあ。
まあ、お金を出すのはロイドちゃんだから良いけどな。
「ロイドさまっ、ロイドさまぁぁっ!!」
超甲高い声がした。
振り返ると、なんだか黒い、もの凄い者がいた。
黒いゴスロリであった。
真っ黒でフリフリフリルで、黒い手袋、黒いストッキング。
片目を眼帯で隠しておる。
あ、いや、ゲームでも見たから、覚悟は出来ていたのだが、3Dで見るともの凄いなあ。
中二令嬢だ。
「ジュ、ジュリエット!!」
「どうして、わたくしを置いて、また他の人とランチに行ってしまわれるのですかっ、わたくしはわたくしは悲しゅうございますっ!」
「そ、それは、誤解だっ」
誤解じゃないだろ、ロイドちゃん。
ジュリエット嬢は私を睨みつけて近寄ってきた。
「あなたが、次のロイドさまの浮気相手ですかーっ、なんですかー、そんな貧相な体でーっ、わたくしに勝てると思っているのですかーっ」
貧相な体はほっといてくれ。
「浮気相手じゃあないわよ、私はロイド王子に興味はないわよ」
「ひゃーっ、酷いよマコトっち!」
「な、なんてやつ、第二王子をぶったぎったぞ」
「それで……こそ、マコトだ」
ロイド王子に興味が無いと言うと、ジュリエット嬢はフルリと震えた。
フリルも揺れる。
「嘘嘘嘘だわ嘘嘘。ロイド王子はこんなに格好いいし、可愛いし、良い匂いがするのに、好きにならない女の子が居るなんて信じられない、あなたは嘘つき嘘つき嘘つき」
つうか、格好もいかれてるけど、しゃべり方もいかれてんなあ、ジュリエット嬢。
あと、女の子に匂いかがせてんな、ロイドちゃん。
「嘘じゃ無いわよ、ロイド王子、頼りないし、趣味じゃ無いわ」
「はうううえはふっ」
ロイド王子が胸を押さえてかがみ込んだ。
ケビン王子が気の毒そうに、それを見ている。
「わたくしが大好きなロイド王子になんていう暴言をぬかすの、この平べったい女は」
うるせえやいっ。
ジュリエット嬢は私に近づいて来て肩をぺしぺしと叩いた。
――!!
叩かれた肩に黒い影のような、瘴気のような物がついた。
なにこれ?
手に光魔法を集めてぶつけると、黒い瘴気は消滅した。
――呪い?!
「あ、あれ?」
ジュリエット嬢はまたぺしぺしと叩く。
それを私は光魔法で浄化していく。
「どどど、どうしてなのどうしてなの、どうしてあなたはわたくしの力を消滅させるの?」
ジュリエット嬢にがばりと抱きついて、瘴気の流れをさぐる。
腰についたポシェットの中からだな。
彼女のポシェットに手を突っ込んで、呪いの元を引っ張り出す。
それは、なんか、まがまがしい顔をした、キモイ人形であった。
「アリスちゃんっ!! やめてアリスちゃんに酷いことをしないで、わたくしのお友達なのっ、だめだめっ!!」
私の手のなかのアリスちゃんは、不気味な表情を浮かべて、ぐねぐね動いている。
これ、呪いの人形というか、魔法生物だなあ。
「浄化してやろうか」
『ヒャア、やめなさいよう、しんじゃうよう』
「喋りやがる。キモイ」
『はなせエエ』
「アリスちゃんを返して返してっ、お父様にいただいた大事なわたくしのお友達なのっ、かえしてええええっ」
むう、ガチ泣きしてるなあ。
さすがに呪い人形でも、人のお友達を勝手に浄化するのは気がひけるなあ。
「返すけど、他の誰かにこの瘴気が付いてたら、有無を言わさず浄化するからね」
「ああ、アリスちゃん、アリスちゃん、怖かったねえ、酷いよねえ、この乱暴者は」
ジュリエット嬢、聞いてねえし。
私はパンパンと体をはたいて、アリス人形の瘴気を消滅させた。
思ってたよりも百倍ぐらい酷いなあ、ジュリエット嬢は。




