第125話 ケビン王子にデボラへの抗議をねじこむ
メイドさんたちがごそごそする音で目を覚ました。
昨日はダルシーを207号室へ送ったあと、205号室に戻って寝てしまった。
んー、よく寝た。
ベットの上で伸びをする。
今日も良く晴れて光が差し込んでいるな。
朝の準備をすませて、コリンナちゃんと食堂へ。
今日のポリッジは甘々を選んで、朝食。
何時も美味しいなあ。
完食して、205号室へ戻って鞄をとって、登校する。
コリンナちゃんと登校であるよ。
今日は良く晴れて暑いぐらいの日差しだね。
出入り口に人が群れておる。
壁新聞が更新されたのかな。
どれどれ。
『王都郊外で武力衝突。ポッティンジャー公爵家派閥と国王派が衝突か?』
一昨日の事件が、もう壁新聞になってるな。
魔法学園新報の方しか更新されていない。
新貴族速報は前の記事のままだな。
「ふむ、どこからか情報が流出したな。第三騎兵団か」
「王宮の情報制御があまいぞ、ジェラルド」
「第三騎兵騎士団まではなあ。というか、呼び捨てにするな、キンボール」
「まあ、いいじゃないか」
「まったく、変な女め」
ジェラルドをからかっていても生産性が無いので教室に向かおう。
B組前でコリンナちゃんと分かれてA組へ。
「おはよう、カロル」
「おはよう、マコト」
「おはよう……」
「エルマーもおはようっ」
机の上に鞄を置いて、ケビン王子の前まで歩く。
「ケビン王子、おはよう」
「ふむ、キンボールさん、おはよう、何かな」
「ビビアン嬢に、デボラさんを信用するのはやめるように言ってください」
ケビン王子の眉間にしわが寄った。
「はて、異な事を言う、敵対派閥の軍師級の令嬢の信用をなぜ君が気にするのかね」
「放っておくと、人死にがでるからですよ」
「……人死に、これまでポッティンジャー公爵家派閥では死亡者は出てないはずだが」
「出てませんね」
お、ジェラルドがやってきて、王子の隣に立った。
「グレイブを捕まえたから、もう問題は無いのではないか、キンボール」
「昨日、リンダさんと廃教会の掃除状況を見に行ったのよ」
「ふむ、聞いている」
「そこに髑髏団が来たわ」
「「!」」
「マイケル卿の命は無事か?」
「さすがに逃がしたわ。即死もあり得たから」
「そうか、ああ、そういう事か」
「どういう事だ、ジェラルド」
「グレイブがつかまり、ポッティンジャー公爵家の諜報系はデボラ嬢一人になってしまった。そして彼女の情報収集能力は低い」
「低い上に敵の脅威判定がダメダメよ」
ケビン王子が、理解できないという顔をした。
「諜報系が脅威判定をできないと、強敵の前に弱兵を送ったりします。リンダ・クレイブルの前に髑髏団を送ってしまったりしますね」
「あ、なるほど、そういう事か。僕にはジェラルドがいるからピンとこなかったよ」
そりゃ、あんたの隣の陰険メガネは、この国有数のインテリですからな。
ジェラルドは政治系だが、諜報系の能力も高そうだしね。
「情報収集能力と状況判断が弱いから、兵を出すタイミングが適当すぎなのですよ」
「ふむ、それは問題だね」
「デボラ嬢をなんとかしないと人死がでるわよ」
「これまでは、負傷者もあまり出ていないようだが?」
「わーたーしーがー、治してるのっ! 指がぼろんぼろん落ちた戦いもあったんだからね」
「え?」
「そうなのか?」
「人死が出たら嫌だしね」
「そうか、聖女候補だから治癒魔法が使えるのだな」
「そうだよ」
ジェラルドは首をふった。
「それでだな、情報系は基本、本陣を出ない。負傷者の数値だけしか見ていないのだろう」
「あー、戦場見てないから、解らないのか」
そうか、デボラ嬢は後ろに引っ込んで、負傷者の数しか見てないので、訳のわからない指揮をするんだな。
「とにかく、デボラ嬢の指揮は敵から見ても危ういのだな」
「兵隊が二三人死ねば、デボラさんも思い知るかもしれないけど、こっちが死人は出したくないんだよ」
「そうか、うーん、僕はビビアンの婚約者だが、別の派閥の上位でもあるからね」
「私が直接、デボラさんに抗議しても良いけど、面子の問題があるでしょ」
「むう、敵の命も心配しないといけないとは、難儀な事だ」
「学生の派閥闘争に、毒とか、剣とか持ち出すポッティンジャー公爵家派閥が悪いよ」
「それはそうだな。ビビアンに、剣、毒、矢を禁止出来ないか提案してこようか」
「そうですな、国王派も、来年までは武力を使う予定はありませんし」
来年には使う予定があるのかよ。
というか、ポッティンジャー公爵家の暗闘本隊との戦いか。
十傑衆も来そうだしね。
「馬鹿な戦いが無くなると、こちらとしても助かるよ」
「国王派としては、学園で人死は困る。聖女派閥が治療能力を持っていて助かっているよ」
「デボラ嬢は排除できないの?」
「きびしいだろう、デボラ嬢はビビアン様の親友だからな」
「親友かあ。やっかいだなあ」
親友が馬鹿な事をしてたらビビアン様が止めなさいよ、という感じよね。
カロルが馬鹿な事をしてたら、私はひっぱたいてでも止めるよ。
で、私が馬鹿な事をしてたら、カロルも止めてくれるだろうね。
まあ、カロルが馬鹿な事をするわけはありませんけどね。
あたりまえですよ、私の親友ですよ。
うんうん。