第1260話 厩舎に行きマヌエルに事件を知らせる
お風呂でさっぱりして205号室に戻って来たら、コリンナちゃんはベッドのカーテンを閉めてお休み中であった。
さて、晩餐の六時までには、ちょっと時間があるな。
厩舎に行ってマヌエルに今日の事件を知らせておこうか。
家を出たとはいえ親族の事だし、なにか希望とか有るかもだしね。
コリンナちゃんを起こさないように、私は静かに205号室のドアを閉めた。
階段を下りて寮の玄関から外に出た。
わ、そらが真っ赤だなあ。
夕暮れだ。
なんだか独特の寂しいような懐かしいような雰囲気があって夕暮れは好きだよ。
寮の食堂から美味しそうな匂いがしてくる。
今日の晩餐は何かな。
ご飯が美味しいと毎日幸せに暮らせるね。
ビリケムさまの祠に手を合わせて拝む。
いつ頃からある祠なのかな。
ビアンカ様がお祀りするとは思えないけど。
図書館の横を通って厩舎棟へと歩く。
「がおんがおん」
「めーめー」
「シューシュー」
「あら、ご主人様」
厩舎の前でコリンヌカルテットに出迎えられた。
「おー、ライ一郎、ヤギ次郎、ヘビ三郎、元気か~」
「元気ですよ~、私も元気です、ご主人様」
「さっきお風呂でコリンヌさんの元気は確認しました」
「それもそうですね」
コリンヌさんは、ライ一郎をブラッシングしたり、ヤギ次郎の足回りの世話を焼いたり、ヘビ三郎の背中を磨いたりして、お世話をしていた。
「毎日やってるの?」
「そりゃ、私の半身ですからね、身ぎれいにしとかないと気持ち悪いんですよっ」
そっか、このカルテットはバラのキメラなんだよな。
不思議な感じだ。
「おお、聖女、良く来たな」
「パスカル部長、マヌエルは」
「奧に居るぞ、おーいマヌエル」
「おー、なんだよ」
マヌエルはヒューイの世話をしてくれたようだ。
馬房から出て来て、前に繋いでいた驢馬のロペスに乗った。
こいつ、いっつも驢馬に乗ってるよな。
「今日、遠足でプートリー山に行った」
「おお、暢気な行事だな。楽しかったか?」
「まあね、それは良いんだけど、頂上でイエローワイバーンが五匹出た」
「「何!!」」
「操っていたのはウエストン家の連中だった」
「「何ぃ!!」」
「とりあえず撃退して、犯人を捕まえたら、マヌエルの弟っぽい奴が居た。今、連行されて王城」
「あんの馬鹿は……」
マヌエルは額に手を置いて空を仰いだ。
「なにやってんだ、ニールは……」
「どうするんだマヌエル、実家の一大事だろ」
「うーん、正直言って、もう実家を継いで隷属の首輪事業で家を大きくする事に興味が無くなってんだよな」
「ヒューイで攻めて来て、アダベルを隷属させようとしたのに」
「ああ、なんだかなあ、俺はこの見た目だから、なんとか手柄を立てて嫡子として認めて貰いたい、当主とは言わないが、ウエストン家の一角を担う家として立ちたい。ブルードラゴンをテイムできればそれも叶うって思ってたんだが……。たぶん隷属の首輪で操ってもあの食いしん坊ドラゴンは持て余してただろうし、俺には支配しかねていただろうよ」
「あはは、なんか解る。たぶん調整した隷属の首輪でも、しばらくしたらぶっ壊しそう」
「隷属の首輪の魔法は強力だけど、竜とか悪魔を支配出来るもんじゃあ無いんだろうなって、なんか思ったよ」
「多分、人間より高等な魔物になったら支配出来ない、逆に支配されそうだよね」
「クヌート師匠に古式テイムを教わってさ、ロペスとか、騎獣とかと心が通じ合うようになって、初めて、ああ、テイムってのはこうなんだって解った感じがして、それでな、なんだかウエストン家とかどうでも良くなってんだ」
マヌエルはにっこりと笑った。
ああ、なんだか良い笑顔をするようになったじゃないか。
「しかし、どうすんだ、下手をすれば実家が吹っ飛ぶし、アライド王家も黙って無いだろう」
「ウエストン家は儲けすぎて屋台骨が腐ったんだよ。隷属の首輪で誰でも簡単に従魔を従わせられるってのは、庶民の夢だし、軍隊としても手軽に戦力を増強出来る手だ、だから流行ったんだけどさ……。もう転換する時期だったんだろうな。たぶん、実家は衰退するな」
「それでいいの?」
「実家は追放された身だしなあ、出来る事は無いな。連座してアップルトンを追放されるかもだけど」
「それは無いように私が口添えするよ」
「ありがとう、聖女さん」
「お前、変わったなあ、マヌエル」
「聖女さんと部長のお陰だ。栄達ばっかりが人生じゃ無いんだなあって思い知らされたよ」
「ちがいねえ」
私たちは三人で笑い合った。
うん、もうマヌエルは大丈夫だろうな。
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