第1252話 ジェラコリの顛末をニマニマ見届ける
よれよれになって棒にすがりつくようにしてコリンナちゃんがやってきて、ばたりと敷布の上に倒れた。
マメちゃんが寄ってきてコリンナちゃんの背中にぴょんと乗った。
「ごくろう」
「死ぬ……」
『ヒール』
コリンナちゃんの首筋に指をちょんと付けて『ヒール』を掛けた。
「ぶはあああっ、なんだこの山は死ぬぞ」
「ハイキンググレードの山だ、コリンナちゃんの鈍った肉体が悪いのだ」
「くそうくそう」
「コリンナ、スタミナポーションを持っていきなさいよ」
「ありがとうカロル、ありがたく」
コリンナちゃんはカロルからスタミナポーションを三本貰ってリュックの中に入れた。
「連続使用はしないでね、あと、一日三本までが使用限界だから」
「えー、三本」
コリンナちゃんが絶望の表情を浮かべた。
彼女の頭の上にマメちゃんがチンと座っていた。
薬剤は使用許容量があるからね。
「『ヒール』は多分、無制限」
「馬鹿め、班が違うのでバテた時にはマコトは居ない」
「それもそうだな、天辺まで頑張れ」
「もう帰りたい」
コリンナちゃんは敷布に座って、水筒からお茶をガブガブ飲んでいた。
なんというか、こんなにひ弱でガドラガ大玄洞は大丈夫なのだろうか。
心配である。
コリンナちゃんは人心地付いたのか、ぶはあと息を吐き、顔を上げた。
視線の先にはジェラルドが居るな。
「い、行ってくる」
「がんばれ」
「あら?」
カロルが状況を察してにっこり笑った。
「コリンナがんばって」
「おう」
コリンナちゃんは短く答えてジェラルドの方へ歩いていく。
「ジェラルドさま……」
「コリンナくん……」
短い沈黙が二人の間に流れる。
ドン。
ドレスの令嬢がコリンナちゃんを突き飛ばした。
「ジェラルドさまぁ、わたくしお菓子横町でお菓子を買ってまいりましたの、いかがですかぁっ」
「そ、そうかね……」
「……」
「みすぼらしい女子寮食堂のお菓子なんか食べることありませんわよ、ジェラルドさまは侯爵家の跡取りさまなのですからねえ、おほほほほっ」
ちっ、どこのクソ令嬢だあいつは。
コリンナちゃんが可哀想だろっ。
カロルも無表情になって見ていた。
「そ、それは……」
はっきりしろよ、ジェラルド、身分差がそんなに大事かよっ。
ケビン王子がロイヤルお菓子を食べながら、ずずいっと出て来た。
「ミシェル・レナル伯爵令嬢、こちらに来て、お菓子を食べないかい」
「ま、まあ、ケビン王子様、ありがとうございますわ、ジェラルド様もご一緒に、さあさあ」
「いや、私はコリンナくんと話があるから先に行ってくれたまえ」
「そうですの……」
お邪魔令嬢はケビン王子に連れられて行かれた。
王子さま、ナイス。
「すまなかったね、コリンナくん」
「い、いえ、その、つまらない物なんですけど、ジェラルドさまにお贈りするには恥ずかしい物なんですけど……」
コリンナちゃんは女子寮食堂お菓子セットを差し出した。
「女子寮のおかしセットです、昨日食べて美味しかったので、二つ買ったのです。よ、よろしかったらお食べください」
ジェラルドは優しい表情を浮かべてお菓子セットの袋を受け取った。
「ありがとう、コリンナくん、喜んで頂くよ」
コリンナちゃんは頭を下げて、そしてこちらに戻って来た。
下品な事を言ってた伯爵令嬢はケビン王子の所でお茶を飲んで盛りあがっていた。
ジェラルドはちょっと離れた所で袋を開けてお菓子を食べ始める。
コリンナちゃんは聖女派閥の敷布まで来て肩をすくめた。
「渡せたから良いよ」
「マメちゃんに噛み殺させよう」
「ワンワンっ!」
「ぷっ、マメちゃんには無理だよ」
コリンナちゃんは笑ってマメちゃんを抱き上げてなでなでと撫でた。
上流貴族令嬢は、上流貴族令息に下級貴族の令嬢が仲良くしているのを見るとああいう事をよくしてくる。
まったく、身分差って度しがたいね。
「聖女派閥を舐めおって、撃ち殺す!」
「冷凍して殺すみょんっ」
「あんたらは野蛮すぎる」
「だってさあ」
「可哀想みょんよ~」
「ああ、良いから良いから、二人ともありがとう、嬉しいよ」
コリンナちゃんがふんわりと笑って言うと、剣術組も黙った。
エルザさんがリジンの柄を握り、黙って間合いを計っていた。
一足飛びに斬りつけるつもりか。
やっぱりエルザさんも蛮族だなあ。
A組の休憩時間が終わった。
「そいでは、コリンナちゃん、頂上で会おう、死ぬな」
「わかった、スタミナポーションでなんとか頑張る」
恋の行方よりも、コリンナちゃんの生存の方が心配だな。
ジェラルドの方も脈はありそうなんだけど、侯爵家と男爵家では身分差がなあ。
どう考えても側室以上のゴール地点が見えないぞ。
恋は平等なんだけど、身分は不平等だからな。
人生は色々と大変なのだ。
卒業までになんとかしてあげたいけどなあ。
でも社会の常識を変えるのは一代や二代、十年や五十年では難しそうであるな。
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