第1246話 お菓子横町という場所
王立劇場を通り越して、次の次の曲がり角を右にいくと、お菓子横町である。
相変わらず甘ったるい匂いが立ちこめているな。
ここは、お菓子材料とか、調理器具、そして有名お菓子店が立ち並ぶ、いわばお菓子の秋葉原みたいな場所だ。
「あんまり遠足のお菓子とか買う雰囲気じゃないな」
「生菓子が多いわね」
「わあ、ゴドラン堂の新作だ、チョコレートですよ、高っい~~~」
「うは、ちょっとなのに一万ドランク越えかあ」
「チョコレートは高級品ですからあ」
お、氷魔石を使ったアイスクリームメーカーが売ってるなあ。
そろそろ暑くなるからね。
夏になったらアダベルにアイスブレスでアイスを作ってもらおうかな。
いかん、アダベルがアイスをバケツで平らげるイメージしか浮かばないぞ。
「ミリヤンのクッキーでも見ましょうか」
「それはどこ」
カロルが菓子店ミリヤンの場所を指示してくれた。
ヒューイから下りて、店の前の馬繋ぎ柵に手綱を引っかけた。
「「「わあ」」」
小綺麗な店内には色とりどりの焼き菓子が並んでいた。
うっはー、美味しそう。
そして、木箱が高級で高そうである。
伯爵グレードの菓子店だな。
お菓子屋さんも身分制度の影響を受けて、王家ご用達から、男爵家グレードまで段階がある。
位が上がるほど、パッケージは高級になり、値段も跳ね上がっていくね。
カロルの部屋でいただいた焼き菓子を見つけた。
ここは彼女の御用達のお店なんだな。
「高い、私はひよこ堂でいい」
コリンナちゃんが値札を見て目を丸くしていた。
「あら、美味しいのよ」
そりゃ、値段が十倍ぐらい違うからなあ。
さぞ美味しかろうよ。
「カロリーヌさまはミリヤン派でしたか、ベロナさまはターチュー派ですよ」
「ターチューも美味しいわよね」
伯爵位グレード店は二大派閥に分かれているのか。
まあ、私はマルコアス修道院のクッキーが一番好きだが。
あそこのクッキーは別格である。
暇で凝り性の尼さん達を嘗めてはいけない。
アンヌさんが現れて、焼き菓子の箱を幾つか買っていた。
さすがは高級店、いきなり現れたアンヌさんにも動じて無い。
店から出ると、私とコリンナちゃんは、ぶはーと息を吐いた。
カロルがケラケラ笑った。
「大げさね、王家御用達は、もっと凄いわよ」
「王家御用達は守護竜牧場以外は無理だよ」
「下町菓子店に行きたい。食べたら一緒だ」
「下町は遠いし、まとまってないからねえ」
男爵位グレードのお店でも、キンボール家はあまりお金が無かったから、お義母さまの手作りお菓子だったぞ。
あまり甘くないけど美味しいんだ。
お菓子横町をぶらぶらと歩き、店の前のバーゲン品とかを買ったりした。
しかし、色々な焼き菓子があるね。
生菓子もあるけど、さすがに持って行くのは辛い。
シュークリームとかだったら良いのだがなあ。
ケーキは潰れて大惨事になりそうだ。
やっぱり、女子寮食堂遠足おやつセットを明日の朝に買うかな。
「あ、ここがターチューですよ」
「あ」
「あら、聖女候補さん、遠足のおやつのお買い物かしら」
ロデムを連れたケリーさんと、ターチューの前でばったり出会った。
「ケリーさんはターチューで買うんだ」
「ええ、そうですわ、女子寮食堂遠足おやつセットも明日の朝買いますけれどね」
そうか、もう食い尽くしおったか。
さもありなん。
「ホルストさまは、二年生だから遠足行かないじゃないですかあっ」
「う、うるさいわね、お菓子は別腹ですのよっ」
コリンヌさんの突っ込みにケリーさんはツンと顔を振って、ロデムと一緒に店内に入っていった。
ケリーさん、太りますよ。
「もっとグレードの低いお店は無いのか、庶民向けの」
「お菓子横町に出店する時点で庶民なんか相手にしてないですよっ」
それもそうだった。
ちなみに、女子寮食堂遠足おやつセットと同じぐらいの品揃えで、同じぐらいの量を揃えると、一万ドランクを軽く超える。
そして、チョコボンボンは手に入らない。
考えたら、あのセットはとんでもなくお得だよなあ。
明日は争奪戦になるやもしれぬ。
男爵家グレードのお菓子屋さんに入ったが、うん、高い。
ひよこ堂価格に慣れた、王都下町コンビの私とコリンナちゃんのお財布の紐は緩む事は無かった。
「ひよこ堂遠足セットと、食堂遠足セットを買って行く」
「そうね、それが経済的だわ」
「意外に買うとなるとお金が掛かるね」
「お菓子はお砂糖使ってるし、嗜好品ですからねっ」
まったく世知辛い事よ。
アイスクリームメーカーと材料を持って、エルマーの氷魔法でアイス食い放題してやろうか。
うん、きっと頭がキーンとするな。
やめておこう。
ヒューイに跨がってカロルを引っ張り上げる。
「今日買った物、明日に持って行くの」
「ええ、休憩の時に、マコトとコリンナに上げるわ」
「「カロル愛してる!」」
おっと、コリンナちゃんと声を揃えてしまった。
「いいなあっ」
コリンヌさんがつぶやいたのである。
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