第1244話 飛空艇基地へ
ダルシーの絵を収納袋に入れる前に、絵の上に障壁を張った。
こうすれば障壁に包まれた絵は時間が止まって絵の具が色あせないし、何かの時に傷つくのを予防できる。
障壁は便利な魔法だな。
収納袋に絵をしまって玄関に出る。
「それではまたね、ジェシーさん」
「はい、いつでもお待ちしておりますね」
ヒューイに跨がるといつの間にかダルシーが後ろに乗っていた。
諜報メイドは神出鬼没である。
「じゃあ、次は飛空艇基地ね」
《いこういこう》
邸宅前の路上でヒューイは羽ばたいて空中へ舞い上がる。
村の広場の上空を飛ぶと、村人達や子供達が手を振ってくれた。
飛空艇基地に向けて東に向かって飛ぶ。
森の上を抜け、ヒューム川を飛び越し、王都の北の墓地の上を飛んで王都の東側に抜けた。
少し東に飛ぶと飛空艇基地が見えてきた。
黄金の覇者号と白銀の城号が停泊しているな。
私は飛空艇基地の正門にヒューイを下ろした。
「これは聖女さま、いらっしゃいませ」
「絵ができたので、基地司令に見せに来たわ、今はお暇かしら」
「おおっ!」
「おおっ!! 今、聞いてきますぞ、少々お待ちくださいっ」
左の門番さんがダッシュで基地の方に走って行った。
「おお~、できましたか。あの、一目見せてはいただけませんか、私は二時までここで警備なので」
「良いわよ」
私は収納袋から絵を出して右の門番さんに見せてあげた。
「おお~~、これは素晴らしいっ! 前方の女性は……、後ろの方ですな」
「うちのメイドのダルシーよ」
「すばらしい、お美しい」
門番さんに褒められてダルシーの頬が赤くなった。
左の門番さんが、ダッシュで帰ってきた。
「今すぐお会いになるそうです、どうぞどうぞ。おおおおっ、それができあがりですか、素晴らしいっ!」
左の門番さんにも褒められたぞ。
彼はヒューイの手綱を取って基地まで先導してくれた。
アイザック司令官と副司令が玄関で出迎えてくれた。
あと、マルモッタン巨匠とお弟子さんも出てきた。
「こんにちは、おまたせしました」
「いらっしゃい、待っていましたよ聖女さま」
「司令官は、まだかなまだかなって毎日うるさかったんですよ」
「これ、ばらすで無いわっ」
私たちは笑い合った。
「王府から許可が出ましてな、基地内の壁面に絵を描いて貰おうとマルモッタン師をお呼びしたんです」
「よう、丁度良かったな、できたのか」
「帰りに教会に寄る所だったよ、丁度良かったね」
私はヒューイから下りて、ダルシーと一緒に基地の中に入った。
意外と大きい基地だけど、古い建物だなあ。
飛空艇が少なくなって来ているからだね。
応接室で、マルモッタン師と並んでソファーに座り、絵を取り出した。
「おおおっ!!」
「これは素晴らしい、黄金の暁号がよく書けていますなっ」
「おお、この前の女性は彼女ですな、なんとも美しい」
「黄金の暁号の聖女さま飛び込み事件の絵ですな、なんという躍動感か」
マルモッタン師は絵をしげしげと見て唸った。
気に入らなかったかな。
「にゃろー、基地の絵だから弟子に任せようと思ったが、この絵を見たら、俺が描かねえと気持ちが収まらねえな。すごく良く描けてる」
「なんとも色気のある飛空艇っすねえ、ダルシーさんも色っぽいすけどっ」
お弟子さんが褒めるのでダルシーが小さくなって赤面した。
「ああ、それは嬉しいですが、予算の方は、その決まってまして」
「問題ねえ、弟子の手間賃で俺が描いてやんよ、聖女には負けてらんねえからな」
「わあ、ありがとうございます、マルモッタン師」
おお、マルモッタン巨匠に描いて貰うだけでも幸運なのに、予算も少なくて済むのはありがたいんだろうね。
「この絵を一週間ほどお貸しくださいませぬか、休憩室で皆にも見せたいのです」
「ええ、かまいませんよ」
アイザック司令官と副司令は喜んだ。
「ああ、近くで見る機会が増えるのは俺にとっても助かる。こいつを超えないとな」
「え、それほどの絵じゃないでしょ」
「ばっか聖女おめえ、この飛空艇描写は革命だぞ。飛空艇の絵ってのは基本的に横からの絵ばっかなんだよ。それをなんだ、後ろからってのは、初めて見たぞ、だけど格好いいよなあ、このアングル」
「ダルシーさんもいいっすよね、親方、腰の張りとか、すげえっ」
お弟子さん、セクハラはやめなさいよ。
ダルシーはさらに私の後ろで縮こまった。
お茶をいただいてから私は席を立った。
「それでは、私は帰ります」
「ええ、もうですか、もう少しごゆっくりして行きませんか」
「基地内や、白銀の城号の中とかご案内しますよ」
「いえ、午後のホームルームまでに帰りたいので」
「ああ、授業を抜けていらっしゃってくださりましたか」
「いえ、光魔法を教えられる先生が居ないので午後の授業は無いんですよ。ご心配無く」
アイザック司令官と副司令は立ち上がった。
「是非またいらしてください、聖女さまでしたらいつでも歓迎いたしますよ」
「是非是非」
「そういえば基地祭はいつ頃でしたっけ」
「秋になりますね、基地祭にいらっしゃいますか?」
「ええ、孤児院の子供とか、アダベルとかつれてお邪魔しますよ」
「おお、守護竜さまも、是非いらっしゃってください」
「歓迎いたしますよ」
いやあ、大歓迎してくれたなあ。
さて、学園に戻ろう。
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