第1237話 さあ学園へ帰ろう
「もう帰っちゃうのか、マスは食べないのか」
アダベルが引き留めるが、雨の中マスを食べてもなあ。
「雨降りの中だとね、やれることが少ないのよ」
「ぐぬぬ、人間の世界は不自由なんだな」
「アダちゃん、晴れたらまたこようよ」
「今日は水着を頼んだからさ」
「そうか、海に行って魚を食べるか」
「海のお魚は美味しいわよ、きっと」
カロルがアダベルに言い聞かせた。
「楽しみだな! では水着を頼むぞ、アベラール」
「ははっ、かしこまりました、守護竜さま」
当主のマクレーンさんがアダベルの言葉にうやうやしくお辞儀をして受け止めた。
アダベルは満足そうにうなずいた。
さて、領主の館から障壁回廊で蒼穹の覇者号に乗り込む。
全員の水着と予備を発注して一安心である。
「俺は結局ブーメランパンツを履かねばならないのか」
「ま、まあ、あんまり変だったら予備の水着があるからさ」
「そうだな、うん」
ブーメランパンツはカーチス兄ちゃんとオスカーの二人になった。
二人とも体を鍛えているからなんとかなるでしょ。
全員でメイン操縦室に入り、点呼する。
派閥員は居るね。
孤児達、村の三人、王子に王女、守護竜、うん全員いるね。
マーラー領に置いてけぼりはかわいそうだからな。
エルマーが機関士席で出力レバーを押し上げた。
ファンファンとプロペラの鳴る音がしてふわりと浮遊感がして、蒼穹の覇者号は離陸した。
「帰りもホルボス山……?」
「ブリス先輩を迎えに行かないといけないからね」
「了解……」
エルマーが操舵輪を回した。
蒼穹の覇者号は小雨の中、ぐんぐんと高度と速度を上げて雲の上に出た。
「雲の上はお天気で太陽が出てるんだねえ」
「きれいな場所、ここ大好き」
「お日様お日様」
孤児たちがディスプレイの雲海を見て感嘆の声をあげていた。
小さい頃から空の上を知るのは良いかもね。
天気の移り変わりとか、大気の状態とか、なんとなく解るようになるかもしれない。
「アダベル先輩、その猫はなんて名前ですかっ」
ベンチに座ったコリンヌさんがアダベルの肩の上のクロをなでながら言った。
「クロだ、こっちのカエルはトトメスだ。……なんで先輩だ?」
「だって先輩はご主人さまからパスつながってるじゃないですか、テイム仲間の先輩ですよ」
……。
「……、いや、お前の気のせいだ、私はマコトにテイムとかされていないっ、私がマコトをテイムしているんだっ」
「え、そうなんですか、なんかパス塞いでる感じですが、確実にありますよっ」
「うるさい」
あ、アダベルが怒って行ってしまった。
《なんか微妙な問題でしたか?》
いや、私に念話で言われても返事に困るな。
コリンヌさんは空気読めない所があるよな。
(まあ、微妙な問題だから触らないであげてね)
《わかりました~っ》
アダベルをテイムした記憶がないのだがなあ。
だんだん仲良くなって自然にテイム状態になったのかな。
……、アダベルトだった奴に、アダベルって愛称を与えたのが名付けになったのか?
まあ、めんどうくさいので、放っておこう。
パスを使えば、奴と念話で連絡が取れるから便利にはなるけど、アダベルとの間に上下関係作るのは気が進まないのだな。
アダベルはトール王子とティルダ王女の居るあたりに行って一緒に遊び始めた。
まあ、アダベルと私は長い付き合いになるだろうから、何年かしたら関係も落ち着くでしょう。
蒼穹の覇者号は雲を割ってホルボス山上空へ降下していった。
村の広場にふわりと降り立った。
「ちょっと時間があるわね、邸宅でお風呂に入って帰ろうか」
「良いわね」
「俺たちは村の共同湯か」
「一緒に入りましょう、ブロウライト卿」
「そうですね、トール王子、今日は男も多いし」
カーチス兄ちゃんが笑って答えた。
「いつも男子が少ないからねえ」
「邸宅の風呂も良いけど、村の共同湯も負けてないよ」
「ブリス先輩も誘って行こう……」
派閥の男衆がどやどやと舟を下りて行った。
「さて、私たちも行きましょう」
舟を下りたが小雨が降ってるね。
視界の通る位置まで障壁回廊を作っていった。
あまり道の真ん中に作ると馬車の通行の邪魔だね。
「障壁は便利だな」
「だいぶ上手くなってきたわよ」
「うむ、偉いぞマコト」
アダベルがにっかり笑ってそう言った。
皆で障壁回廊の中を邸宅に向けて歩き出す。
どんどん先を作りながら歩いて行く。
障壁は色々と便利に使えて良いな。
邸宅に着くと、ジェシーさんとハナさんが出迎えてくれた。
温泉は掛け流しなのでいつでも入れて良いね。
みんなで脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入る。
かけ湯をして黒い石の浴槽につかる。
あー、いい湯だなあ。
疲れが吹っ飛びます。
「あ」
「どうしたのカロル」
「今日は聖女の湯の日だったわ」
「あ」
メリッサさんとマリリンが含み笑いをした。
「先に入れてきましたわ」
「ぬかりはありませんのよ」
「よかった~~」
「ありがとう、二人とも」
放課後になった瞬間に集会室に行って聖女の湯の元をゲットして、さっさと入れてきたらしい。
さすがはおしゃれ組である。
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