第122話 廃墟神殿でビアンカ様を思う
リンダさんを引き連れて森の中をわっせわっせと歩く。
目的地は廃墟神殿だ。
「ダルシーは良くやってますか?」
「うん、諜報メイドは便利だね、強いし、気がつくし、気に入ってるよ」
「それはようございました」
リンダさんはキレない限り温厚な人だ。
気遣いもできるし、キレない限りだが。
私もそんなには嫌いでは無い。
廃教会が見えてきた。
足場が組んであって、防水布で屋根が出来ている。
「資料を当たってみたところ、ビアンカさまのお屋敷の付属神殿と解りました。二百年ほど前に建築されて、百年前、学園が出来た頃に破棄されたようですね」
「女神像があるのに破棄するだなんてねえ」
「教育関係者なんか罰当たりばかりですから」
まあ、教育と信仰は対立することが多いよね。
「あと、学園長に付属神殿の再建を申請しておきましたよ」
「学園長はなんと?」
「教会側が資金を出すなら、学園としては反対する理由はない、だ、そうです。これで教会の兵を伏せる場所ができますね」
「あんまり人数を置いちゃだめよ。学生がお祈りをしたい時にお世話する神父さんと神殿管理の女官さんが数名かな」
「聖堂騎士団から司祭の資格を持つ者を常駐させましょう」
戦う神父さんか、まあ、しょうがないかな。
女官さんも自然と諜報系になりそうだね。
防水布をまくって中に入る。
薄暗いので、『ライト』を唱え、光球を宙に漂わせる。
おーー、女神様ピカピカになったねえ。
良い出来の彫刻で神々しい。
リンダさんと一緒にひざまずいてお祈りをする。
――綺麗になりましたね、女神様、ここに付属神殿を再建しますので、学園の生徒たちに恩寵をお授けくださいましね。
リンダさんが立ち上がる。
「この彫刻は、巨匠レオニダ本人の手ですね。良く百年も盗まれなかった物です」
「大きいからねえ、腕とか折られなくて良かったなあ」
レオニダ様というのは、この世界のミケランジェロみたいな彫刻の巨匠だ。
総本山から呼んできたのかね。
教会を再建したら、学生が拝みに来て信仰心を育てるだろうね。
良い事だ。
「ステンドガラスと、壁画も良い職人を呼びましょう、なるべく往年のスタイルを踏襲する感じで」
「どれくらい時間がかかるかな」
「一年はかかりますね、マコトさまが二年生に成られる頃は、ここでミサが出来ますよ」
「しませんよ、めんどうくさい。大神殿が近いから教皇さまを呼んでくれば良いんですよ」
「あいかわらず、マコトさまは怠惰ですねえ。やれやれ」
女神像の土台に手を付けて、光魔力を流し込む。
ガコンと壁板が落ち込み、地下に向かう階段が見えた。
「これは良い、最悪の時に逃げ込む場所につかえますね」
「やっぱりそういう目的の仕掛けなのかな」
「教会には多いんですよ、待避場所みたいな所。ここは光魔法が使えないと入れないので、聖女限定のシェルターですね」
教会に聖女が立てこもる状況は、わりに絶望的だと思うのだけど、何かの時の為に作っておくと安心感が違うんだよね。
使われなくてもだよ。
階段の下は一昨日来た時のままだね、ライトで左右の照明を付けてすたすた歩く。
重厚なドアのプレートに光魔力を打ち込む。
十二畳ぐらいの広さの部屋で、子狐丸と水晶球が置いてあった祭壇と、応接セットが置いてある。
一応、流しとか、換気扇もあるので調理もできるのかな。
簡単なシェルターだね。
「ほうほう、これは素晴らしい、二百年前の様式の家具ですね」
リンダさんは凶暴なくせに意外に教養がある。
大学へ行って神学とか学んだらしい。
応接セットも朽ちてない、なにか保存の魔法とかが掛かってるのかな。
良い手触りの革だ。
水晶球に光魔力を注いでいく。
なんだか、いっぱい吸われるなあ。
ブンッと音がしてビアンカさまの映像が現れた。
『いらっしゃい、マコト、リンダ』
あれ、この前と映像が違うぞ。
『この映像は未来予知で語ってるから、返事とか無用よ』
リンダさんが床に両膝をついて、ビアンカさまを拝みはじめる。
「ビアンカさまのご尊顔を拝したてまつり、このリンダ、望外の幸福であります」
「言ってもきこえないがな」
「気持ちの問題ですよ、マコトさま」
『遠い未来では排除されている聖女にそんな丁寧な言葉は要らないのだけど、リンダの信仰心がそれをさせるのね』
「はい、ビアンカさま」
うわ、感動でリンダさん泣いておる。
信仰心がキモイ。
『リンダのたぐいまれなる信仰心のご褒美に、聖人アレクサが使っていた魔剣ダンバルガムを授けましょう』
壁の一部がガコンと外れ、一本の長剣がリンダさんの足下に転がってきた。
「聖女さま、ありがとうございます、一心不乱に信仰に邁進いたします」
『その剣で、マコトを守ってあげてくださいね』
「ははーっ!!」
げー、剣豪の域のリンダさんに魔剣渡してどうするんだ。
どっかの国を教会領として分捕るのか?
ちなみに、なんで聖剣じゃなくて、魔剣なのかというと、聖剣は勇者か聖女でないと使えないという事情があるんだよ。
だから教会史に残る剣豪神父が持つ凄い剣はみんな魔剣だ。
リンダさんは剣を抜いた。
サビも見えない白刃の輝きが冴えわたる。
「何系の魔剣ですか?」
「……切断特化ですね。何でも斬れそうな感じです」
また、剣豪にやっかいな剣を、謎ビームとか出す剣にしときなさいよー。
魔法防御している甲冑もすぱすぱ斬る奴だね。
効果はシンプルだが、リンダさんが持つと凄いことになりそうだ。
「聖人アレクサが持っていたという、古竜両断の剣ダンバルガム。これで命果てるまでマコト様をお守りしますぞ」
「ほどほどにね」
「えーっ」
リンダさんは不満そうに口をとがらせた。