第1233話 午後は錬金授業
月曜日は錬金の授業があるので、カロルとコリンナちゃんと一緒に土属性実習室へと向かう。
依然としてエルマーも付いて来ているが、いいのか?
「水属性実習は……、月曜日以外出ているから……」
午後に授業がある日は貴重なのでうれしい。
教室に入り、カロルの隣、コリンナちゃんの向かいに座ってサーヴィス先生を待つ。
「先週は何をやったの?」
「マジックポーション制作実習だった」
魔力草は王都付近には生えていないから支給されたらしい。
良いなあ。
「というか、カロルの日常だね」
「みんなと実習するから楽しいのよ」
それもそうか。
サーヴィス先生がやってきた。
「やあ、こんにちは諸君、今日も楽しく錬金の実習をやっていこうではないか」
いつもながらサーヴィス先生は目の下のくまが凄いな。
へろへろな感じである。
激務なんだろうなあ。
「今日は香油の蒸留実験だ。蒸留装置の使い方、注意点を学習する。バラの花をこちらで用意したから蒸留して香油にしてくれたまえ」
お、なかなか気の利いた実習だな。
授業の後に香油が貰えそうだ。
香水とかに使えるね。
学校の用務さんが各テーブルにバラの花束をドサリドサリと配って回った。
おお……、まあ、あんまり良い色のバラじゃないけど、香油にするからだろうね。
「まずは、バラの花を崩してガラス容器に移し替えてくれたまえ」
みんなで手分けしてバラの花を崩して花びらだけをガラス容器にいれた。
「あいたっ」
『ヒール』
コリンナちゃんがトゲを刺したのですぐさま『ヒール』をかける。
「ありがとう、マコト」
「気を付けてね」
カロルなんかは慣れたもので、すいすいとバラバラにしている。
同じテーブルの東部令嬢さんたちは手つきがおぼつかない。
トゲをさして涙目になっていたので、『ヒール』を掛けてあげる。
「ありがとうございますわ」
「聖女さまと一緒の班で助かります」
「オルブライトさまは手際がよろしいし」
すっかり東部令嬢さんたちも我々のシンパになったなあ。
「弟さんのジェリー君は元気になった?」
赤ドレスのタビサさんに聞いてみた。
「ええ、光ヒールポーションがよく効いて全快いたしまして、やんちゃで困ってしまうぐらいですわ」
「それは良かった」
そうかそうか、ジェリー君は元気になったか。
流しでばらしたバラの花弁をざっと洗って銅製の蒸留器に入れる。
「水と花弁を入れて、蒸留器で蒸留する。蒸留は薬液を作る際に使われる技術だから覚えておくと作れる薬剤の幅が増えるよ」
カロルの部屋にも大きいのがあるよね。
魔石加熱部の上に鍋を掛け、鶴の頭部のようなくねった導管でフラスコに蒸留液を貯めるという仕掛けである。
花弁を入れた水が沸騰すると、バラの良い匂いが漂ってきた。
導管を通って、ぽつりぽつりとローズオイルとローズウォーターが落ちてくる。
「おお、良い匂いだ」
「バラの香りですわ」
香油の蒸留は結構簡単だな。
下の鍋を薄い酒にしておくと、蒸留して濃い酒が造れる。
蒸留酒だね。
錬金術とは言うが、錬金の下ごしらえの材料を作る工程だね。
あまり魔法力は使っていない。
でも、バラの良い匂いに包まれて気分がふんわりと浮上するね。
めったにやらない作業なので、なかなか楽しい。
コポコポとかわいい音を立てているな。
マメちゃんが影から顔を出してクンクンと匂いを嗅いで、鼻をしかめて引っ込んだ。
君はバラの匂い嫌いか?
「マメちゃんには匂いがきついのかもね」
「かもしれないね」
良い匂いなのに、犬にとっては悪臭かもしれない。
二時間掛けて抽出は終わった。
用務さんが持ってきた小瓶にローズウォーターを詰める。
ローズオイルは少ししかできなかったなあ。
「ローズオイルはスポイト付きのミニ瓶に入れて分けてくれ、ちょっとした匂い付けやお風呂に入れると良い匂いだよ」
カロルがミニ瓶にちょっとずつローズオイルを入れて班のみんなに分けてくれた。
「ちょっとしかできませんのねえ」
「ローズオイルはこうしてできるんですのね、初めて知りましたわ」
「でも良い匂いですわ」
「ローズオイルは、匂いを嗅ぐと精神を落ち着かせる作用があり、肌に塗ると美肌効果がある」
「「「まあっ」」」
東部三令嬢が喜んだ。
「ローズウォーターは香り付き化粧水として使える。保湿成分がたかい」
コリンナちゃんはローズオイルのミニ瓶とローズウォーターの瓶を光に透かしてニマニマしていた。
「やっぱり錬金授業はおまけが貰えるからいいね」
「コリンナちゃんらしい意見だね」
「ふふふ、そうね」
カロルがふんわりと笑った。
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