第1228話 集会室に行ったがヒルダさんは居ない
ケンリントン百貨店を出て学園に戻る事にした。
相変わらずの小雨の空模様で細かい雨が降ったり止んだりしていた。
障壁傘を頭上に掲げてカロルと並んで道を歩く。
雨の日は寒いけれど、独特の雰囲気があって嫌いではないな。
王立劇場前から乗合馬車に乗って、二人で並んで座った。
ちなみに王立劇場では「コウリン山の宝石」というアクション系の舞台がかかっていた。
なかなか面白そうだなあ、今度カロルと行ってみよう。
ガラガラと乗合馬車は王都中央通りを南下していく。
ああ、やっぱり日曜日はこういう感じじゃ無いとね。
のんびりして落ち着く。
乗合馬車は大神殿前を通過して、ひよこ堂の前も通り越し、学園前に着いた。
カロルと二人で後ろから降りた。
「早く雨は上がらないかしら」
「火曜日まで雨らしいね」
「晴れるのが楽しみだわ」
そうだね、雨が去ったら夏だしね。
今年もまた暑いのかな。
注意深く水たまりを避けて校門をくぐる。
マメちゃんが影の中から顔を出してくんくんと外の匂いを嗅いでいた。
「あれ、マメちゃん居たのね、静かだから居ないかと思ってた」
「わんわんっ」
カロルはかがみ込んでマメちゃんを胸に抱き上げた。
「朝ご飯食べてから、ずっと影の中で寝てたわよ」
「お寝坊さんですねえ」
「わんわんっ」
マメちゃんの額にチュッとキスをすると、奴は舌をだしてカロルの頬をなめた。
うむうむ、よきかなよきかな。
そのまま障壁回廊をくぐって校舎に入り、裏口から渡り廊下を伝って集会棟へと歩いた。
集会室のドアを開けると、おしゃれ組とエルマーが居た。
「エルマー、珍しいね」
「今日は魔術部は休み……」
そうなのか、というか、魔術部とは日頃何をしている部活なのだろうか。
魔術の研究かな。
「ヒルダさんは居ないの?」
「タウンハウスに用事があるって行ってしまわれましたわ」
「夕方にはお帰りになりますわよ」
なんだ、ヒルダさん居ないのか。
カロルは集会室の隅に収納袋からどでかいキャンバスを出してくれた。
「わ、大きいキャンバスですわ」
「何をお描きになられますの?」
「アダベルとトール王子、ティルダ王女、あと村の子供が釣りをしている所を描くのよ」
「「まあ素敵ですわあ」」
おしゃれ組は声をそろえた。
「良いね、楽しみ……」
エルマーもにっこりと笑った。
「それじゃ、私は晩餐まで錬金しているわ」
我が嫁はいつでも働き者だなあ。
「じゃ、また後で」
「うん、今日は楽しかったわ、また後で」
カロルはマメちゃんをマリリンに手渡して集会室を出て行った。
「ヒルダさまに何のご用でしたの」
「明日、マーラー領に行って水着の注文をしようと思って」
「「まあっ!」」
お、おしゃれ組が食いついた。
「マコトさまがデザインなさいますの?」
「うん、一応」
「マコトさまのデザインは素敵ですからよいですわねえ」
そうだ、先にデザインとか決めようか。
「一応、パレオ付きビキニと、ワンピースを考えているけど、メリッサさんとマリリン、どっちにする」
「わああ、ビキニは大人っぽいですわねえ、私はワンピースかしら」
「そうね、こんなのはどうかな」
私は植物紙ノートをだしてさらさらと水着のデザインを描いた。
メリッサさんだと、かわいい感じのフリルが付いたワンピースかな。
「「まあああっ!!」」
「素敵ですわ素敵ですわ、まるで天上の天使様のようにかわいらしいデザインですわ、こんなのを着たらビーチで殿方の視線を釘付けですわよっ」
「マリリンはスタイルが良いから、パレオ付きビキニかな」
サラサラサラっとな。
「「まああああっ!!」」
「セクシーな感じで恥ずかしいですわ、でも大胆なカットながら品のあるデザインでさすがはマコト様ですわ」
マリリンは筋肉質だから大胆なカットでもあまり嫌らしくなくて、健康的なセクシーさが出るのよね。
なかなかの仕上がりだ。
私はあまり女子の水着を描く経験は無いのだが、意外に描けるものだなあ。
やはり漫画者は即興の絵に強い。
「僕には……」
「え、エルマーも?」
海パンやろうがい、さらさらさら。
「うん、良いね……」
ブーメラン型のセクシーな海パンも考えたが、まあ、ちょっと時代を先取りしすぎというか、エルマーは美少年だからなあ、やめといたほうが無難だな。
「素敵な海パンですわあ」
「デザインがパリッとしてますわあ」
おしゃれ組に水着のデザイン見せると凝った語彙で褒めてくれるからうれしいね。
調子に乗って、ヒルダさんとか、エルザさんとか、コリンナちゃんのとか描きちらした。
アダベルとか、孤児たちはワンピだな、フリフリがついたやつ。
男児は海パンだ。
うんうん。
「いいですわねえ」
「夢が広がりますわあ」
カロル用にもパレオ付きビキニをデザインしてみた。
うーん、大胆だけど、よく似合うと思うんだよ。
うっしっし。
あとはこの世界の生地でどれくらい快適な水着が作れるかだなあ。
前世の化繊みたいな生地はあるんだろうか。
こればっかりはヒルダさんに聞いてみないとね。
「明日の放課後、マーラー領ですわねっ」
「是非ご一緒いたしますわっ」
「注文しにいくだけだよ」
「マーラー領はおしゃれ女子にとって夢の国ですわ」
「必ずご一緒したいですわ」
おしゃれ組が燃えているなあ。
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