第1226話 剣豪女子シルビア・ハウエル
シルビアさんは長剣を抜いた。
小雨に濡れたその構えは堂にいっていて風格さえ感じる。
「……、抜けよ」
「なんでよ」
「ふふふ、あんたは私と同じ匂いがする、二年になるまでガドラガに行くのが我慢出来なくて、大玄洞で大暴れしたって言うじゃないか。武道大会の準備運動と行こうじゃないか」
「誤解だわ」
「誤解だ、私そんなに剣術好きじゃ無いぞ」
「えっ……?」
なんだよ、そのさも意外みたいな顔は。
「えええ、大神殿から聖剣を三本持ち出してるって聞いたぞ」
「持ち出してるけど、使ってるのは派閥の剣術部の子たちだが」
聖剣は四本目も拾ったが、まあ黙っていよう。
「ば、馬鹿な、聖女に生まれたと言うのに剣術に興味が無いだなんて、そんな、ありえないっ」
「歴史的には剣客聖女の方が少ないぞ」
シルビアさんはショックを受けたらしく、よろよろと街灯にもたれかかった。
「というわけで、武道大会には不参加だよ」
「そ、そんな、私は何を楽しみに武道大会に出れば良いのだ」
「まだ見ぬライバルを求めて参加してくださいよ」
口をへの字に曲げてシルビアさんは長剣を納剣した。
「領袖がこれでは聖女派閥の剣士たちも期待は出来ないか」
「いや、私より強い子は出るよ、エルザさんとか」
「ブロウライト卿の婚約者のエルザ・グリニー嬢か、そんなに出来るのか」
「ナーダン師がお弟子さんにとスカウトしてたよ」
「な、なんだとっ!! ジーンの剣聖にスカウトされたのか、それは本物だなっ! もちろん快諾したのであろうなっ」
「いや、カーチスと一緒に居たいから断っていたよ」
「な、なんだとっ!! そんな馬鹿なっ!!」
この人はアレだな、剣術馬鹿だ。
脳味噌がピッカリンだ。
「そうか、そんな手練れが居るのか、ふふふ、楽しみだな。聖女さんは大会には出ないのか」
「大会だと聖剣使えないしね、木剣だと弱いよ」
「それはいかん、聖女たるもの剣を鍛えないでどうする」
いいんだよ、聖女は回復役で障壁係で、本気戦闘なら聖女ビームを撃つ係なんだから。
「シルビアさまは剣術部に入っておられないのですか?」
「学園の剣術部は指導がぬるいので好かん、主に警備騎士団の道場で稽古をしている」
ああ、前世だと、警察の道場に入り浸る系の剣士なんだな。
「騒がせたな、武道大会での聖女派閥の剣士たちと戦うのを楽しみにしている、ではっ」
シルビアさんは一礼をして去っていった。
小雨が降っているのに傘も差さないで、風邪引くぞ。
カロルと顔を見あわせた。
「変わった人だなあ」
「剣客の先輩だったね」
まあいいや、ウインドウショッピングを再開だ。
梅雨が明けたら夏だから、どこも水着を前面に出しているね。
カマラさんのお店も覗いて見たいところだが、あそこは下着店だからなあ、水着は置いていないだろう。
ふーん、今年の流行は可愛い感じのワンピ水着のようだ。
布地は何だろうなあ。
こっちの世界は化繊が無いからなあ、代わりに魔術系の生地はあるけどね。
衣料街のメインストリートを左右切り替えて往復した。
「いろいろあるわね」
「綺麗な水着が多いね」
中央通りに戻ってケンリントン百貨店を目指して歩く。
上空を青いドラゴンが飛び去っていった。
「アダベルだわ」
「籠は上手くいってるかな」
アダベルは上空をターンしてホルボス山方向へ飛んで行った。
「飛び上がったが方向を間違えたな」
「そんな感じね」
小雨の中の中央通りをケンリントン百貨店に向けて歩く。
道の馬車が水たまりの水を跳ね散らかすが、咄嗟に障壁を張って難を逃れた。
王都の馬車は運転が荒いな。
ケンリントン百貨店に入ると支配人さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、聖女さま、オルブライトさま、今日はどのような御用でしょうか」
「ちょっと水着を見て、それからお昼を取ろうと思います」
「さようでございますか、衣料フロアは二階となります、こちらへどうぞ」
支配人さんは私たちを先導してエレベーターを呼んで、二階に案内してくれた。
「お昼の方はレストランでございましょうか、席をお取りしておきますか」
「おねがいするわ」
「かしこまりました」
さすがは一流百貨店、おもてなしが上質だね。
カロルと二人になったので、衣料フロアをそぞろ歩いてディスプレイを見る。
おっと、マーラー領のお店も出てるね。
マーラー外套が誇らしげに飾ってある。
マコトブランドのドレスとかも飾ってあってくすぐったいね。
「アライド王国のお店だと、パレオ付きビキニが流行っているわね」
「本当だ、アップルトンはワンピなのにね」
偽イタリアのビタリなんかの衣料も見たい所だけど、さすがに山岳越えなきゃなので、衣料はあまり来てないんだよね。
子供たちはワンピ系で、学生は、パレオビキニか、ワンピかな。
男子? 男子は海パンはいてろよですよ。
「マーラー領にも行かないとね」
「明日の午後でも行こうか」
「そうだね、ヒルダさんと相談して行こう」
マーラー領は山を一つ跳び越えれば良いだけだから近いね。
最近は航続距離がジーンとかガドラガとかが普通になって伸びている感じがするなあ。
その分、光魔力を消費するのだけれど、暇な時にせっせと溜めとかないと、何かあったときに困るな。
そろそろ増槽の魔力も減ってるから、溜めよう。
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