第1222話 ガドラガにまた飛ぶ
小間物屋を出て、まだ下町探検をするというお洒落組と剣術組と別れ、残りの面子は学園へと戻る。
「武術大会には出るのだよね、ブロウライト卿」
「ええ、優勝を狙いますよ」
「それは頼もしい、僕も出てみたいのだが王家の者が出ると選手が遠慮するからやめて欲しいと学園長に言われてね」
そりゃまあ、ケビン王子を遠慮なく叩ける豪傑はあんまりいないだろうな。
「派閥の男子で出るのは誰と誰よ?」
「ん、俺と、オスカーと、エルマーか」
「クレイトン卿もかい」
「棒で……、出ますよ……」
「それは楽しみだ」
ぶらぶらおしゃべりをしながら街を歩くのは楽しいね。
「女子は誰だ?」
「カトレアさんと、コイシちゃん、エルザさんかな、カロルは?」
「私は出ないわよ、マコトは?」
「私も応援だね、怪我したら治してあげるよ、カーチス」
「そりゃ安心だな」
大神殿前まで来た。
「エイダさん、練兵場まで来て」
【了解です、マスターマコト】
「好きな場所に呼べるのは便利だな」
ジェラルドがうらやましそうに言ってきた。
「まあね、便利よ」
飛空艇は呼べば来るし、騎獣も呼べば来る。
なんだか最近便利過ぎよね。
パイロット組の、私とカロルとエルマーはみんなから別れて大階段を上った。
「やあ、お帰りなさい、マコト様。いらっしゃいませ、オルブライト様、クレイトン様」
回廊に上がると、リンダさんが満面の笑顔で出迎えてくれた。
「交代要員は揃ってる?」
「はい、練兵場の所に集めてありますよ」
リンダさんに先導されて練兵場の方に下りる。
旅支度の神官さんたちと女官さんたちが三十人ほどいるな。
彼らは私を見ると一斉に合掌して頭を下げた。
「物資は彼らに持たせてあります」
「わかったわ」
学園の方向から蒼穹の覇者号が飛んで来て練兵場に着陸した。
「それでは皆さん、搭乗してください、ダルシー、十人をラウンジへ、あと五人ぐらいずつお部屋に案内して」
「かしこまりました」
ダルシーが現れて交換要員さんたちを案内して船に乗り込む。
「おおい、聖女の嬢ちゃん」
振り返ると、巨匠と大きな荷物を持った助手さんが居た。
「どうしたの?」
「キャンバス持って来たぜ、ほら」
「おーー」
というか、布で包んであると大きく見えるなあ。
「ありがとう、助かるよ」
収納袋に……、は無理か。
「私が入れておくわ」
カロルが収納袋に仕舞ってくれた。
「ありがとう助かるよ」
「いいのよ」
「大型の製作は初めてだろ、何かあったら相談しにこいよ。あと絵の具もすぐなくなるからな、無くなったら取りにきな」
「ありがとう、マルモッタン師」
「描き上がったら見せてくださいね」
お弟子さんが笑って言った。
「うん、見せにくるよ」
私は巨匠たちに手を振って蒼穹の覇者号に乗り込んだ。
メイン操縦室に入り艇長席によじ登る。
「今日は私が操縦するわ」
「わ、ありがとうカロル」
副艇長席に操縦権を委譲した。
マメちゃんが影から出て来て袖机で仁王立ちをする。
背中をなでなで。
うん、交代要員の神官さんと女官さんも各部屋に落ち着いたようね。
地位の高い神官さんと尼さんがラウンジに、平の人達が三等船室に収まったようだ。
「蒼穹の覇者号、発進します」
【蒼穹の覇者号、離陸シーケンスを開始します】
カロルが出力レバーを押し上げるとプロペラの回転が上がり、船はふわりと浮上した。
そのまま高度を上げ、ガドラガの方へ回頭、そして前進していく。
蒼穹の覇者号はぐんぐん速度と高度を上げて、すぽんと雲の上に出た。
神官さんと女官さんが窓から外を見て歓声を上げているね。
「ガドラガは……、どんなかんじ……?」
「迷宮以外はあまり大した事無いわね、全体的に物価が高いし」
「来年が……、たのしみ……」
一年先にガドラガ大玄洞を体験出来て良かったな。
あと、早めにベルモントを追放できて良かった。
準備が整っていたら結構大変だったであろう。
ゲームの方にはベルモントの言及は無かったから、どうしたんだろう。
ガドラガ教会の絵も違っていたからリンダさんが攻めて行って二年になる前に皆殺しにして更地にしたのかもね。
本当にゲームで見えていた景色は、この世界のごく一部だったんだなあ。
蒼穹の覇者号は自動操縦に移り、ダルシーがお茶を持って来てくれた。
「ありがとう」
「いえいえ」
ああ、だんだんダルシーの入れるお茶も美味しくなってきたね。
進歩の跡が見えるのは嬉しい。
「神官さんたちに挨拶に行ってくるわ」
「はい、いってらっしゃい」
「みんな喜びますよ」
ダルシーがマメちゃんに煮こごりをあげながら笑った。
廊下を歩いて、三等船室へ、五人ずつおりますね。
「こんにちは、問題はありませんか」
「これはこれは聖女様、素晴らしい飛空艇に乗せて頂いて、感謝の極みでございます」
「良いんですよ、教会の御座船ですからね」
こっちは男部屋なので、神官さんばかりだね。
「ガドラガは山の上で寒いので風邪など引かぬようにがんばってくださいね」
「ははっ、ありがとうございますっ」
向かいの尼さん部屋でも同じようにご挨拶である。
大層喜んでいるね。
螺旋階段を上がり、ラウンジに。
こちらに居るのは、司祭さまと、助祭さんたちだね。
ソファーに座って空の旅を満喫しているようだ。
「これはこれは聖女さまっ」
「こんにちは、問題はありませんか」
「ありませんともっ、このような豪華な飛空艇に乗せて頂いて感謝感激でありますっ」
ギャブリエル司祭はそう言った。
彼がガドラガ教会を取り仕切る訳である。
にこやかだが、交渉が上手いやり手の司祭さまであるよ。
「来年は王子様たちもガドラガ入りしますので、治安維持をよろしくおねがいしますよ」
「お任せください、聖女さま」
ギャブリエル司祭は胸を叩いた。
うんうん、彼と説法の上手いマシュー助祭がいれば安心だな。
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