第1217話 みんなで邸宅温泉(男子を除く)
蒼穹の覇者号は王都を離れ、一路ホルボス山に向けて雨の中を飛んだ。
そしてすぐ着いた。
「お、思ったよりずっと近いですっ!」
「空を行くと一直線だからね、馬車だと半日かかるわよ」
「すごい、飛空艇すごいです~~」
「峡谷に入る……」
コリンヌさんは後ろのベンチに座って身を乗り出してモニターを見ている。
マメちゃんはヘビ三郎の頭の上にちょこんと乗ってご満悦だ。
エルマーはすいすいと危なげなくホルボス山基地へ飛空艇を着けた。
微速前進で格納庫へと動かし、停止位置に着陸させた。
【蒼穹の覇者号、タッチダウン、お疲れ様でした】
「やっぱり、船の操縦は楽しい……」
みんなで船を下りた。
「わわっ、ちょっと寒いっ」
「山の上だから……」
「さっきまで王都だったのにっ」
コリンヌさんの新鮮な反応が面白いね。
歩いてトンネルに入り地下礼拝堂に着く。
ヒューイにイメージでパスを繋ぐと奴はまだ地獄谷で温泉に浸かっていた。
(ヒューイ、そろそろ帰るよ)
《おお、もうそんな時間か、心地よいので時を忘れた》
その間、あんたのご主人は下町で偉い奴と戦っていたけどね。
階段をカマ吉と上る。
あんたもこの邸宅は初めてだったかな。
「ぢっぢっ」
「そうかそうか」
「あ、御領主さま、お帰りなさい。みなさまも、いらっしゃい。お、カマ吉も居ますね」
リーディア団長が親しげにカマ吉の背を撫でた。
やっぱり甲蟲騎士だから虫系の魔物とも親和性が高いのかもね。
階段を上がりきると、ダイニングで子供達がぎゃっぎゃとはしゃいでいる声が聞こえた。
ドアをバーンと開くと、子供達がこっちを見て、歓声を上げた。
「おお、マコト、あ、カマ吉もいるぞ」
「カマちゃん、カマちゃん、お久しぶり、ゴブ蔵さんは居ないの」
「ゴブ蔵はいないよ、ティルダ王女」
「こんど、オガ太郎っていうやつも来たよ」
「わ、会いたい会いたい」
「また、大神殿に泊まりに来なよ」
「行きたいね~、お兄ちゃん」
「そうだね、またクヌートおじさんにも会いたいや」
あいつはガドラガだ。
「こんにちは~、わあ、子供がいっぱいっ」
「「「「「ぎゃ~~!! ライオン~~!!」」」」」
子供達が悲鳴を上げた。
「にしし、ライイチローは大人しいですよ~~」
コリンヌさんはライ一郎を前に出した。
子供がこわごわと近寄るとべろりと舐めた。
「ほわっ」
「かかかか、かっけ~~、ライオンかっけ~~」
「すげえすげえ」
「ほわ、はわわっ」
村の三馬鹿が恐る恐る近寄ってタテガミにタッチして逃げた。
「魔導ヤギと、アシッドバイパーもいますよ~~」
「おおお!! ヤギ、でかいヘビ!!」
従魔たちが大人しいと解った子供達に、三匹はもみくちゃにされた。
「ほわー、素敵な邸宅ですねえ、あ、ダルシーの絵が飾ってある」
「本当ですわ、ここに将来私の絵も飾られるのかしら」
「カロリーヌ様の絵を描かれてましたよね、領袖」
「あの絵はなんか王都アカデミーのコンテストに出すって巨匠が持って行ったよ、コンテストが終わったら飾るんだ」
「なんかくすぐったいわね」
カロルは幸せそうに笑った。
「邸宅でひとっ風呂浴びて帰るわよ、お風呂に入りたい人!」
全員の手が上がったが、男子は駄目だ。
「男子は駄目なのか、差別だ」
「エルマー兄ちゃん、村営温泉に行くかい?」
「雨の温泉か……、それもオツかもしれない……」
「雨具もってるか、兄ちゃん」
私は男子全員の頭の上に障壁傘を作ってあげた。
「おお、って、温泉入ってる時はどうすんのさ」
「そのまま頭の上にのっけておきなさいよ」
「なかなか面白い……、いこうみんな……」
「うん、行こう、クレイトンさん」
トール王子と村の三馬鹿、そしてエルマーは障壁傘を頭に乗せて外に出て行った。
「ライオンさんはお風呂入る?」
ライ一郎は首を横に振った。
ネコ科らしくお風呂は嫌いなようだ。
従魔のお世話をジェシーさんに頼んで、私たちは邸宅のお風呂に行った。
脱衣所でぱっぱと脱いで裸になり、浴室に入る。
おお、硫黄の良い匂いだな。
かけ湯をして黒大理石の円形湯船に浸かる。
あああああ、効くなあ。
子供達もかけ湯をしてドボンドボンと入ってくる。
アダベルがまた泳いでいるな。
メリッサさんとマリリン、ヒルダさんも入って来た。
「おじゃましまーすっ」
コリンヌさんも湯船に入ってきた。
「わあああ、強いお湯ですねえっ」
「良いお湯でしょ」
私は湯の花が浮いた白濁した湯を手に取った。
「これは効きそうですねえっ」
ああ、邸宅温泉は良いなあ。
天窓にヒューイの影が映り、帰って来たのが解った。
パスを繋ぐと、奴は直接ホルボス基地に入るようだ。
《ヒューイくん、どこに行ってたんですか》
《山の向こうに地獄谷という場所があって、良いお湯が沸いているのだ》
《へええ、本当ですかっ》
「今度連れて行ってあげるよ、泉質は似てるんだけど、もっと強いよ」
「地獄谷ですか、あっちのお湯は油断すると湯あたりしますね」
「野趣あふれておりますわよ」
「わあ、良い領地を貰って良かったですねえ」
「あんまり欲しくは無かったけど、今では気に入っているわね」
「とても良い領地ですよ、領袖」
うん、温泉も湧いているしね。
とても良い場所であるな。
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