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第120話 ひよこ堂にいくのだ、なぜか王子どもとも一緒に

 派閥のみんなでひよこ堂に繰り出した。


「どうして王子たちも来ているんだ、ジェラルドまで」

「いいではないか、キンボール」

「王家の者は一度はひよこ堂に行くのが慣例なんだよ、キンボールさん」

「お父様が美味しいって言ってたからさ、マコトっち」


 お兄ちゃんが王家の威光に土下座をかましそうだなあ。

 うむむ。


 なんだか大人数でひよこ堂へ押しかけた。

 なんだか知らないけど、ゆりゆり先輩もいつの間にかいて、王子どもと挨拶を交わしているぞ。


「列に並ぶの? 僕は王族なのに?」

「王様が学生時代に決めた決まりですから、守ろうね」

「お父様がひよこ堂に来ていたのは本当の事だったのか」

「店内に学生に向けた認可状が飾ってありますよ」


 今日はちょっと出遅れた感じなので、少々列が長い。

 列に並んだ生徒が、二人そろった王子を見てぎょっとした顔をする。


「おお、マコト……」


 クリフ兄ちゃんが私を見つけて挨拶しようとしたが、王子二人を見て固まった。


「マ、マコト……」

「兄ちゃん、我慢だ。ひよこ堂には王子が来るものだ」

「や、やっぱり王子様……」


 兄ちゃんはかしこまりながら列をさばいていく。


 意外とさくさく列は進み、私たちは店内に入った。


「ここが庶民のパン屋か、良い匂いがするよ」

「どれが美味しいのだ、教えろキンボール」

「ああ、確かに父の書状が飾ってあるな」


 王族は国の中に自分より偉い奴がいないから、普通の場所に来ると傍若無人になるな。

 ジェラルドはナチュラルにヤナ奴だが。


「焼きたての聖女パンを買って、あとは気になる物を頼めばいいよ。ソーダも買っておくといい」

「お茶は出ないのかい?」

「誰が出すんですか、ケビン王子」


 ケビン王子はきょろきょろと回りを見回した、近くには侍女はいないぞ、あんたのゴツい護衛と、ロイドちゃんの護衛のリックさんだけだ。


「なるほど、野営の一種と考えればいいか」


 野営じゃねえよ。

 王子様は浮世離れしてんなあ。


「ダルシー」

「はい、ご用ですか、マコト様」


 ダルシーの手に大銀貨を一枚握らせた。


「ダルシーも好きなパンを買いなさい、お昼まだでしょう?」

「は、はい、ありがとうございます」


 ダルシーは満面の笑みで銀貨を握りこんだ。

 そういえば、カロルが何時も、多めにパンを買ってたのはアンヌさんに渡すためだったのね。

 ずっと、大食いなのかと思ってたよ。


 ダルシーは嬉しそうに、聖女パンとクリームコロネを買っていた。



 みんなで王立自然公園に行き、芝生に座ってパンを食べる。

 ミーシャさんがお茶ワゴンを引っ張ってきて、みなにお茶を配る。


「お茶は出るではないか、キンボールくん」

「ユリーシャ先輩のご厚意じゃないですか、居なかったら何を飲むんですか」

「そ、それはそうか、うん……、ソーダ、おいしいな」

「良い炭酸水を郊外から運んで作ってるんですよ」


 近所にあるソーダ屋さんの品物である。

 卸してもらって、店内で冷やして売ってるんだね。


 ロイドちゃんのソーダの王冠を、リックさんが親指で押して外してあげていた。

 どんだけ力があるんだよ。


「うわ、甘くて美味しいっ、さすがマコトっちの実家だけはあるねっ」

「ふむ、甘さの濃度を皮と中で変えて、食感自身も変えているのか、これにより複雑な味わいが口の中に広がり、楽しめる。良く出来た商品だ」


 だまって食べろ、ジェラルド。


「美味しいね、ああ、みんなで座って一緒にご飯を食べるのはいいね」


 ケビン王子が爽やかに笑って言った。

 まあ、それは同感だ。


 王子様たちにも、ひよこ堂のパンは好評のようだ。

 お父ちゃんよかったなあ。


 ゴウと風が吹いて来て、見上げるとゴウンゴウンと巨大な飛空艇が上空を通過していく所だった。

 わあ、でっかいなあ。

 きれいだなあ、金を中心にさまざまな意匠の飾りが付いていて、夢の中の船みたいだよ。


「素敵ね、あれに乗って遠くへ行きたいね」

「うん、その時はカロルも一緒だ」

「うん、マコトと一緒に迷宮にいこうね」


 私とカロルは自然に手を握り合う。

 うんうん、どこまでも一緒だよ、カロル。


 ふと、目を上げると、ゆりゆり先輩が邪悪なねっとり視線をこちらに向けていた。

 カロルはそれに気がつくと、手を振り払った。

 ぐぬぬ。


 へんな気配がしたので、森の方に振りかえった。

 げ、髑髏マンが出てきおった。

 あいつ、しょうこりもなくっ。


「我々は髑髏団っ! 正義を……」


 あ、つまった、どうした?

 髑髏マンは振り返り、後ろの奴と相談しておる。


「なんだろう、あれは?」

「マイケル卿か、あれが噂の髑髏マンとやらか、なんと幼稚な……」

「仕事を選びたまえよ、マイケル卿……」


 ああ、王子どもが居るから、マイクーは困ってるのか。


「馬鹿兄めっ!! たたっ切るっ!!」


 カトレアさんが立ち上がると、髑髏団は頭をぺこぺこ下げながら森の中へ逃げていった。


「しかし、前回よりも人数が少ない、なんでそれで掛かってくるのか」

「きっと、上からやいやい言われたんでしょ、カーチス」

「上が駄目だと、なにも上手く行かない典型的な話だな」


 デボラさんにギャーギャー言われたのかね。

 前にあんなに、コイシちゃんに指を落とされたというのになあ。

 グレイブを退場させたが、今度はこういう安い馬鹿な手を沢山使ってきそうだ。

 教科書とか破られたら、地味にウザいなあ。

 やれやれ。



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― 新着の感想 ―
[一言] あー王子がこれなら確かに戦争時はマコトが立つしかないな…。 平時なら良いだろうけど戦時には確実に判断が遅れる&ミスをする奴だw
[良い点] 「なるほど、野営の一種と考えればいいか」 笑ってしまいました! さすが王子! しかも野営の経験ちゃんとあるんですね!
[良い点] 学園長のおじいちゃん… インテリで敵への敬意も持ってて、過去の男への情からたとえ沈みゆくとわかっていてもその子孫へと尽くそうとする…めちゃくちゃ好みです。 「十分に発展した同性の友情は、愛…
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