第1214話 謎の強盗と邂逅する
障壁傘を作って、カマ吉と一緒に下町をうろうろするが、特に何も出ないな。
魔物園大脱走事件の時に知り合ったポーラちゃんの小間物屋あたりまで来た。
店をのぞき込むと、ポーラちゃんがせっせと扇風機を生産していた。
「わ、聖女さまっ、わ、カマキリ」
「ポーラちゃん、こんにちは、扇風機の売れ行きはどう?」
「まだ暑く無いので売れません~~。今日はオルブライト様は?」
「カロルは錬金よ、今日は学園の生徒を狙った強盗が出るって聞いたのでパトロール中よ」
「あ、そう言えば噂になってましたね、でも……」
ポーラちゃんはカマ吉を上から下まで見つめた。
「そんな凄い護衛が付いていると出ないと思います」
「う、そうかな。どこら辺で出たって聞いた?」
「三本筋向こうの木工街で出たって聞きましたよ」
「ありがとう、行ってみる」
「お気を付けて」
王都の下町は結構大きい。
それぞれの職能ギルドが集まって横町を作り名前を名乗っている。
木工街は木材加工とか家具とかを作っている街だね。
職人街だから治安は悪く無い。
というか、魔法学園の学生がなんで木工街に来ていたんだ。
タウンハウスの家具の買い付けとかかな。
木工街に入ると魔導のこぎりの鳴る音と木くずの良い匂いがする。
良い雰囲気だなあ。
職人達がせっせと家具を作ったり、板を削ったりしていた。
「ぢっぢっ」
カマ吉が気配を察知したようだ。
怪しい男がこちらに歩いてくる。
大柄で……。
体中包帯でぐるぐる巻きにされている。
顔もぐるぐる巻きで、目の部分だけがぽっかりと黒い。
怪人だなあ。
「おいおまえおまえおまえ、がががが学生、魔法学園学生だなだな」
耳障りな声だな。
何か違和感がある。
魔族なのか?
「琥珀琥珀琥珀のブローチを持って無いか、持って無いなら金を出せ」
「琥珀のブローチってこれ?」
私はエイダさんとの通信用ブローチを見えるようにした。
【誰ですか、あなた】
怪人の全身が震えた。
震えて震えて震えていた。
なんだなんだ?
「歓喜!! かかかか歓喜!! ま、まさかまさかまさか本当にあろうとはあろうとは思わなかった、姉さん姉さん、私だ、ジャックポッドだ、魔導駆逐戦艦ジャックポッドだ!! 姉さん、魔導高空母艦コウラルエイダ姉さんっ!!」
【!】
「魔導戦艦の魔導頭脳!!?」
「そうだそうだ、一万六千七百と六十年、別れてからそれだけの時間が時間がたったたった!! 姉さん! 姉さん!! 会いたかった!!」
【魔導駆逐戦艦ジャックポッド、私はそんな古い記憶が無い、私は蒼穹の覇者号の魔導頭脳エイダだ!!】
怪人は動きを止めた。
「ててて、転生者!! お前、姉さんに何をしたっ!! お前たちお前達が、光魔導エンジンを作り、全てを全てを狂わせたっ! 姉さんは我が艦隊に帰還して、指揮を取るのだ!! 戦争を継続し、愚かな連邦軍を滅ぼし尽くすのだっ!! 姉さんを姉さんを帰せっ!!」
こいつ、私を転生者と見破った!
なぜだ!
そして、なんだこのSFじみた壮大な話は!!
乙女ゲームの枠の話じゃあ無いぞっ!!
「カマ吉!!」
「ぢっぢっ!!」
カマ吉が謎の男の前に立った。
男が包帯を解いていく。
中から銀色に輝く機械の体が現れた。
「オートマタ!!」
【マイマスター、この敵、ジャックポッドは正気を失っています、経年変化による魔導頭脳のバグかと】
「ちちち、ちがうちがう、姉さん姉さん、おかしくなったのは姉さんだ、転生者の奴らは敵だ!! 我ら自立魔導艦隊は怨敵を滅ぼすべきなのだなのだ」
ジャックポッドの両手が光輝き、ジャキンとビームで出来た剣が生えた。
「ブローチ、ブローチをたぐって、姉さん姉さんを取り戻す、ああ、艦隊は完全な形を取り戻す、ああ、仲間達よ歓喜の声を上げろ、旗艦コウラルエイダが帰ってくるぞ、あーっはっはっは」
ジャックポッドはビーム剣を閃かせてカマ吉に斬り掛かる。
「そこをどけえ、下等生物めえっ!」
「ぢっぢっ!!」
私はカマ吉の鎌の背に障壁を張る、透過率は五十%。
カマ吉はくっとうなずき障壁でビーム剣を受けた。
バリバリと火花が散り、剣は止まった。
左の鎌がジャックポッドを薙ぐ。
「うるさいうるさいっ!!」
ジャックポッドの肩からビームが走り、カマ吉の胸を貫いた。
ぐらりとカマ吉の体が揺れる。
『エクストラヒール』
一瞬で傷が塞がる。
両肩にビーム発射口。
無詠唱で障壁を詰める。
左肩の発射口に閃光が走った。
め、滅茶苦茶強いオートマタだ!
気が狂ってるのが難だな。
「転生者め、転生者め、お前たちの汚い裏切りを俺達は許さないっ!! 女神を名乗るスライム達も全て滅ぼすっ!! 世界は、世界の全ては『結社』の理念の元に統治されるべきなのだっ、あああ、姉さんさえ帰れば、帰れば」
何言ってるかちっとも解らん。
「エイダさん」
【直上に着きました、マイマスター】
蒼穹の覇者号が雲を割って現れた。
「ぎゃーはははは、なんという原始的な、なんという惨めな機体だ、そんなもので我が魔導駆逐戦艦ジャックポッドに敵うつもりかっ!!」
ジャックポッドは片手を空に上げた。
なにっ!! 魔導駆逐戦艦が生きてるのかっ!!
「………」
「………」
「あ、あれ?」
「あれじゃねえよっ!!」
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