第1205話 大神殿に着いたものの
また雲海の上を蒼穹の覇者号は飛ぶ。
といっても雲の上にあがれば自動操縦なので楽な物である。
マメちゃんのなでなでが捗るね。
「やっぱり……、空の上は良い……」
「私も飛ぶのは好きよ」
「もっと色々な所に行きたいわね、希少素材薬草があるような場所」
錬金術師のカロルにとってはビアンカさまの残したマップが宝の山みたいなもんだよねえ。
「遠足は来週だっけ、週末にお菓子の買い物に行こうかな」
「聖女派閥は迷宮探検もしているから、運動靴とかは大丈夫かな」
「メリッサさんとマリリンに確認しておこう、他の人は大丈夫でしょう」
お洒落組はホルボス迷宮も未体験だったしね。
【前方西南西の方向、ワイバーンの群れです、五匹】
遠くの雲海に五匹のワイバーンが雲を突き抜けて上昇してくるのが見えた。
「危険?」
【いえ、方向的に追いつかれる事はありません】
私たちは、ほっと息をついた。
ワイバーンは亜竜だけど、戦うとわりに強敵だからな。
五匹ともなると結構大変かも。
魔導機関銃で落とせるとは思うけどね。
ワイバーンたちはこちらをチラリと見てから興味なさそうに明後日の方角に飛んで行った。
色は黄色だな。
イエローワイバーンだ。
「あっち方向に都市とか街は?」
【ありません、ダースカン山に住む群れでしょう】
高山にはワイバーンが住む場所が結構あるんだよね。
街道で人を襲ったり、集落を襲ったりすると冒険者ギルドに依頼が入って冒険者たちが征伐に行ったりするぞ。
ワイバーン自体にも素材の価値があるので、依頼が入って無くても倒しに行く冒険者パーティも居る。
思わぬ珍事が起こったが後は特に問題なく、蒼穹の覇者号は王都上空にさしかかった。
「エルマー、まずは大神殿に着陸して」
「わかった……」
私は伝声管の蓋を開いた。
「お知らせします、こちらは艇長のマコト・キンボールです。当機はもうすぐ大神殿の練兵場に着陸いたします、神殿関係者は荷物をまとめて下りる準備をしてください」
モニターの向こうのリンダさんやハナさんがラウンジで下りる準備をはじめたのが見えた。
蒼穹の覇者号は雨雲に飛びこみ王都の南側から都内へと侵入した。
そのまま北進し大神殿練兵場へふわりと下りた。
昨日張った障壁回廊がまだ残っているね。
硬質ガラスぐらいの硬度だから、わざと壊さない限り結構持つものだ。
メイン操縦室を出て、リンダさんたちが下りるのを見送る。
大神殿から子供達がダダダと下りてきた。
アダベルも一緒だな。
「あ、リンダが帰ってきた」
「ただいま帰りましたよ、守護竜さま」
「行く時に教会の交代要員を連れていかなかったな、教皇様が困っていたぞ」
「あっ」
しまった忘れていたよ。
しょうがない、教皇様に謝ってこよう。
「役立たずの王府の役人を連れていくので忘れましたか」
「まあね、週末にまた飛ぶよ」
「わかりました、その旨、教皇様に伝えておきますよ」
「直接謝るよ」
ミスはミスだしさ。
「それではお付き合いしましょう」
リンダさんと一緒に大神殿の中に入る。
アダベルたちも、なんだか一緒に来た。
「付き添ってやるよ、なにしろ私は守護竜だからな」
「ありがとうね、アダベル」
「マコねえちゃんが失敗だ」
「ときどきある、姉ちゃんうっかりしてるから」
やめろ、人をドジっ子聖女みたいに言うな、ちびっ子どもめ。
たまに失敗するだけだ。
教皇様の執務室におじゃました。
「教皇様、うっかり教会の交代要員を乗せないでガドラガに行ってしまいました。申し訳ありません」
「ああ、そうでしたか、それでは陸路で向かわせますか」
「いえ、週末に送って行きますよ」
「それは助かります。今の責任者はどうなってますか? リンダ」
教皇様はリンダさんに聞いた。
「今の所は問題はありません、週末に補充で間に合うでしょう。監督はマシューに任せて来ました」
「そうですか、マシュー師が行ってましたね」
マシュー師というのは、抜け道から出てきた時に説教していた坊さんだね。
意外にやり手なのだ。
「では、週末におねがいしますね、聖女マコト」
「はい、大丈夫です」
「今日はホルボス山行けないのか」
私は執務室の鳩時計を見た。
ちょっと遅いなあ。
行ってもすぐ帰る感じになるよ。
「明日にしよう、午後に送っていくよ」
「そうか、午後からならたっぷり遊べるな」
「夕方迎えに行くから」
「そうしよう」
私とアダベルのやりとりを教皇様が優しい目で見ていた。
「それでは失礼します」
「はい、お疲れ様でした」
私とアダベルとリンダさんは執務室を後にした。
「週末までに交代要員を厳選しておきますね」
「よろしくねリンダさん」
「わすれちゃ駄目だぞ」
「わすれないわよ」
アダベルに言われると、ちょっとムカつく。
障壁回廊の端で、リンダさんと、アダベルと別れた。
蒼穹の覇者号に戻り、艇長席に着く。
「どうしたの?」
「教会の交代要員を乗せていくのを忘れたよ」
「おーう……」
「週末に送る事で勘弁してもらったよ」
「まあ、教会の御座船だからね」
所属は教会になってるから、しょうがないね。
王家主従も待っている事だろう。
「エルマー次は王城ね」
「わかった……」
ヒューイはラウンジで座り込んでケビン王子にリンゴとか貰って食べているな。
蒼穹の覇者号は大神殿の練兵場を離陸し、すぐ王城の飛空艇発着場に着陸した。
「お知らせします、こちらは艇長のマコト・キンボールです。当機は王城飛空艇発着所に到着しました、みなさま忘れ物の無きようお降りください」
三等船室から、縄で繋がれた役人さんが引き出されて兵隊さんに連行されていった。
「ありがとうキンボール助かった」
「あの人達は地下牢?」
「そうだ、不正の責任を取らせて厳罰に処す感じだな」
「げえ、処刑かい?」
「まあ、処刑まではね、領地半減とか、賠償とかそっちだよ。王府から出向してポッティンジャー派の利益を謀ったのは罪が深いが、経済事件だしね」
あんまり厳罰を科すと王府の求心力が下がるんだろうな。
ほどほどで温情をかける感じか。
「本来なら白銀の城号を出さねばならない所を蒼穹の覇者号を出してくれて感謝する」
「白銀の城は燃費がねえ」
「来年の実習は王家は白銀の城号で行くんじゃないの?」
「いやあ」
「いやあ」
王家も黄金の暁号か、やっぱり相当に魔石を喰うんだろうなあ。
飛空艇とは馬鹿げた代物だなあ。
蒼穹の覇者号は光魔法チャージ式で助かってるなあ。
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