第1203話 午後は絵を描いて静かに過ごす
集会室でパンを食べおわり、みんなでお茶を飲みながらガドラガの土産話をした。
語ってみると色々あったなあ。
予鈴が鳴るとみな午後の授業に出るために集会室を出ていく。
私だけがポツンと残されて、やっぱり寂しくはあるね。
まあ、ダルシーの絵にニスを塗って完成させよう。
ペタペタ。
うん、なかなか躍動感があって良い出来だな。
素敵である。
ホルボス山の邸宅のダイニングに飾る絵第一号としようではないか。
さて、次の絵の準備に掛かろうか。
アダベルと子供達の絵は大きめのキャンバスに描くから巨匠に頼まなくてはなあ。
明日にでも大神殿に行ってみるか。
マメちゃんが影から出て来て私の足にじゃれつく。
ほれほれとなでなでしてあげるとご満悦であるな。
久々の静かな時間だなあ。
ガドラガではひっきりなしに何か起こっていたからなあ。
こういうのも大事な時間だ。
マメちゃんを構いながら木炭でスケッチを重ねて絵の構想を練っていく。
やっぱ釣りのシーンよね。
うんうん。
根をつめて描いているといつの間にか六時限目の終業の鐘がなった。
さて、クラスに戻ってホームルームに出るかな。
立ち上がるとマメちゃんがピョンと影の中に入った。
一緒に行きましょうね、マメちゃん。
集会室を施錠して外に出ると雨降りなので肌寒いね。
はやく梅雨が終わらないかな。
A組に戻ると、個別属性の魔法教室に行っていた生徒がだんだんと帰ってきた。
やっぱ魔法の授業は良いなあ。
うらやましいぜ。
カロルが帰って来て後ろに座るとアンソニー先生がやってきて、起立礼着席である。
ホームルームは二三の注意ごとと、遠足についてだった。
運動靴でお弁当を持ち、軽食のおやつを持っていく事、雨天中止だそうだ。
プートリー山は王都郊外にある里山で千クレイドほどで道もしっかりしているらしい。
ハイキングだね。
朝に出かけて頂上でお昼を取り、三時には学園に戻ってくるとの事。
危険な魔物も居ない山らしい。
まあまあ楽しみかな。
お話が終わり、起立礼、着席、で放課後である。
「では、キンボール、頼んだぞ」
「交換要員のお役人はどこで乗せるの?」
「王城に着けてくれるか、帰りの人員も王城で下ろしてくれたまえ」
「僕とジェラルドも同乗させてもらうよ」
「それは構わないわよ」
エルマーが寄ってきた。
「今日のパイロットは僕だ……」
「そ、そうか、頑張ってくれ」
「飛空艇の操縦が出来るのは良いなあ」
僕も習いたいなという顔をしているが、ケビン王子は駄目だ。
王族が操縦ミスしたら怖いしな。
「んじゃ、王城で待ってなさいよ」
「わかった、人員を集めておく」
王家主従と別れて私たちは二階の渡り廊下から図書館へと移動する。
武術場ルートよりも、こっちの方が雨に濡れないのだな。
「パイロット組で行くのは久しぶりね」
「腕が鈍った、かもしれない……」
「そう簡単に忘れるもんでもないよ」
操縦がおぼつかない所はエイダさんが教えてくれるしね。
図書館に入り、貸し出しカウンターの向こうのルカッちに手を振って一階に下りて、地下書庫の扉を開けて地下に入る。
そのまま地下道に入って格納庫まで歩く。
蒼穹の覇者号に近づくとエイダさんが自動的にハッチを開けてくれた。
《どこかへいくの?》
(ガドラガに行ってとんぼ帰りよ、ヒューイも来る?)
《いこう》
《私も私も》
コリンヌさんが念話に割り込んできた。
(コリンヌさんは実家に報告に行くんでしょ)
《えー、飛空艇に乗りたいです~》
(駄目です、実家優先)
《は~い》
しかし、念話に割り込みされるとイラッとするな。
実家に行って家族を安心させてあげなさいだ。
「エルマー、途中でヒューイが乗ってくるから注意してね」
「解った……」
メイン操縦室に入り、艇長席によじ登った。
エルマーは背が高いから普通に機関士席に座れて良いなあ。
「エイダさん、機関士席に操縦権を委譲します」
【了解です、機関士席にコントロールを移します】
シャンシャンシャンと前方の四枚のゲートが開いていく。
エルマーは出力レバーを押し上げて微速で前進を始めた。
船が最後のゲートをくぐった時、甲板にヒューイが飛び乗って来た。
マメちゃんが影から出て来て袖机の上で仁王立ちになり、モニターを見つめた。
背中をわしゃわしゃ撫でてあげる。
蒼穹の覇者号は垂直上昇し、王城に向けて回頭して動きはじめる。
というか、王城は隣なので、すぐなんだけどね。
「こちらは蒼穹の覇者号、コールサイン547498、王城管制室、王城への着陸許可をおねがいします」
【王城管制室、コールサイン335685。了解しました、南側からの進入経路で着陸を許可します】
南ルートの矢印がペコリンとマップに現れた。
エルマーは上手に線に沿って飛んで行く。
王城の二階、飛空艇発着場に人影が見えた。
さすがはジェラルド、段取りが良いね。
エルマーは飛空艇発着場にゆっくりと蒼穹の覇者号を着陸させた。
「エイダさん、ハッチを開いてあげて」
【了解です、マスターマコト】
メイン操縦室を出て、出迎えに行くと、ケビン王子とジェラルドが文官さんたちを連れて上がってきている所だった。
「今日は頼むぞ、キンボール」
「やっぱり、蒼穹の覇者号の内装は素敵だね」
「いらっしゃい、ダルシー、ラウンジにご案内して」
「かしこまりました」
ダルシーが現れて、王家主従とお役人さまたちをラウンジの方へ案内していった。
よし、あとはガドラガに行ってとんぼ帰りだな。




