補稿 アダベル教授視点:その後のベロナ隊について
Side: アダベル教授
「えー、今年で、聖女マコトの死から二百七十八年となりますね、そろそろ王都で彼女の事を実際に知っているのが、私か、寮母さんのコリンヌさんぐらいとなりました。彼女は長命種の生まれでは無いのですが、なんだかんだあって年をとりません」
魔法学園の生徒は今も昔も変わらないね、真面目に授業を聞いてくれる。
魔導文明も進んでしまって、学園の窓の外の景色が、あの頃から激変してしまったよ。
「聖女マコトの伝記としては、養父であるクラーク・キンボール教授の『聖女マコト伝』と、大文豪であるメリッサ・アンドレア先生の『聖女マコト交遊録』の二点が上げられるが、このガドラガ教会総破門事件については詳しく書いてあり、発端となったレアキメラ騒動についても詳しく書かれていた」
「先生、ベロナ隊はレアキメラと戦うんだけど、惜しくも負けてしまうんですよね」
「良く読んでいるね、ベロナ隊は聖女マコトの助力を得るも、結局勝てなかったようだ、その後の彼らの消息は歴史の本にはあまり書かれていない」
なにしろ、あの頃はマコトにはひっきりなしに事件が襲ってきたからなあ。
色々な大事件が起こってたんだよな。
「ベロナ隊は卒業後、ガドラガに常駐し冒険者として自活しながら腕を上げていた。寮母のコリンヌさんも、実は凄腕冒険者なんだよ」
やさしそうな人なのに、あんな華奢なのに、とか、生徒が声を上げるが、コリンヌはバラのキメラだからなあ、人の君たちよりずっと図太い生物だぞ。
「彼らはめきめきと腕を上げ、ガドラガでも有数の冒険者と成り、ミスリル級冒険者の資格も得た、脂ののりきった時期に彼らは深部アタックを行い、レアキメラに挑戦する事となった」
生徒達がぐっと身を乗り出してきた。
復讐とか戦闘とか、みんな大好きなんだよな。
私も好きだからこうやって歴史の先生をやってるんだけどさ。
「新しい仲間が居て、素晴らしい魔剣や魔法装備を得ていて、秘薬や魔法薬を惜しみなく使っても、深部での活動は辛く険しかった。そして、やっと見つけたレアキメラとの戦闘は三日三晩にわたる凄まじい物だったそうだ。あの暢気なコリンヌが『あの時はひどい目にあいました~』というぐらいだったそうだ」
今日の授業の為に話を聞いたら、彼女の目が死んでたからな。
ペットの三匹もげんなりしていた。
「どんな激闘でも終わりはくる、最後に立っていたのはベロナ隊のあの頃のコアメンバーの四人だったそうだ。レアキメラは力を失い、ベロナ氏の足下に伏していた。次はとどめだ、これで長年の確執が終わる、コリンヌはそう思っていたそうだ」
私は言葉を切った。
こういう間があると盛り上がり、生徒の気持ちをぐっと掴む事ができるんだ。
学校の先生を二百年近くやってると色々覚えるもんさ。
「ベロナ氏は『俺達の勝ちだ、ボルヘ』とキメラの中の親友に向けて声を掛けたそうだ。レアキメラは一瞬身じろぎをして、それから大きく息を吐いた、そして『強くなったなあ』と喋ったそうだ」
生徒達は静まりかえり声を聞き漏らすまいと集中している。
この緊張感が大好きなんだよ。
「ベロナ氏はその瞬間泣いたそうだ。ボロボロと涙をこぼしたそうだ。彼らの青春、彼らの半生がようやく実を結び、決着の時が来たと感極まったんだろうな。そしてベロナ氏は懐からハイポーションの瓶を取りだし、レアキメラに掛けた」
「た、助けたんですか? 魔物を」
「……、どうしてなのかは先生にも解らない、ベロナ氏でないと解らないだろう、コリンヌも『なんでや~』と思ったと言ってた」
「『俺達はあの時、おまえに見逃されて生かされた、だから、今回は俺達が見逃して生かす』、ベロナ氏は押し殺すように言った。レアキメラは力を取り戻し、立ち上がり、ベロナ氏に背を向けてよろよろと迷宮の奥へ歩き始めたという」
まるで一幅の絵みたいでした~とコリンヌは言っていたな。
「『ボルヘ、また』ベロナ氏が声を掛けるとレアキメラはふり返り『次は俺が勝つ』と言って消えて行ったそうだ」
生徒が一斉に息を吐いた。
「さ、再戦の結果は?」
「再戦は無かった。その後戦争が起こり、ベロナ氏たちも参戦し、パーティはバラバラになって、アップルトンに戻った頃には、みんな老いぼれていて、迷宮に潜れる状態じゃなかったらしい。戦後はみんなでガドラガに住んで余生を暮らしたそうだ」
みんながお爺ちゃんお婆ちゃんになっていって辛いんですよ、とコリンヌは口をとがらしていたな。
長命種は寿命が短い人間と付き合うと辛いんだよ。
それでもコリンヌはみんなを見取ってから王都に帰って来た。
ガドラガは思い出が多すぎて辛かったらしい。
「じゃあ、ガドラガにはまだレアキメラが居るんでしょうか」
「迷宮の魔物は不死だから、まだ居るだろう。私もたまにガドラガでマコトの従魔たちに会いに行くぞ」
この子たちは、来月からガドラガ実習が始まるからな。
先にこの授業をすると真面目に迷宮実習をするので、他の先生に評判がいいのだ。
そうだ、私も何年かぶりに実習の引率をして、従魔たちに会いに行くか。
もうずいぶん会ってないからなあ。
ガドラガまでは弾丸列車で二時間という所か。
文明の発展というのはありがたい物だよな。
よろしかったら、ブックマークとか、感想とか、レビューとかをいただけたら嬉しいです。
また、下の[☆☆☆☆☆]で評価していただくと励みになります。




