第118話 飛空艇に遠い巨大迷宮を夢見るのだ
「ふおおおっ」
「おおおおっ」
空からゴウンゴウンと音を立てて、巨大な飛空艇が降りてきた。
これから第二運動場へ着陸する模様だ。
こんにちわマコトです。
ロイヤルアットホーム晩餐会の夜から一夜明けて、コリンナちゃんと登校中です。
朝ご飯は塩ポリッジを食べました。
副食はハムでした。
「魔法学園自慢の飛空艇、黄金の暁号だな」
「すごいなあ、あんなものが空を飛ぶんだなあ」
「黄金の暁号は、マリアさまが迷宮から掘り出して王国に寄贈した物なんだぜ、二年生をガトラガ大迷宮に運ぶんだな」
「大迷宮に行けば、飛空艇を掘り出す可能性がワンチャンあるのかっ」
「可能性はある。まあ、世界に十機も無いけどな、飛空艇は」
「そんなに貴重なのか」
「見つかったら各国の政府が取り合うように買い取るんだ。発見者は大金持ち確定!」
「確定!」
夢が広がるなあ。
普通、飛空艇は国の上層部が外遊するために使われる。
アップルトン王国が、なぜ学園に一機使わせているかというと、もう一機、外遊用の飛空艇、白銀の城号があるからだね。
なにげに大国なのだ、アップルトン王国は。
飛空艇は現在の技術では建造できない。
高出力の魔導エンジンが再現できないんだね。
エンジンだけでも掘り出せれば、外装はどうとでもなるので飛空艇が出来る。
大魔導時代と呼ばれる、魔術黄金時代の遺産であるよ。
黄金の暁号は船底から足を出し、ガッションと音を立てて着陸した。
いいなあいいなあ、二年生はこれからガトラガ大迷宮に行って実習であるよ。
ガトラガ大迷宮の迷宮外苑街には魔法学園の出張校舎があって、午前は迷宮関係の座学、午後はおのおのパーティに別れ迷宮アタックであるよ。
「しかし、なぜに貴族を迷宮にたたき込むのだろうか」
「ん? あれだ、根性試しかな?」
「ちがう、何を言ってるのだ」
む、横を見たら陰険メガネの人が居た。
「そんな認識では、とうてい行政府には入れないぞ、コリンナ嬢」
「お、おはようございます、マクナイトさま」
「おはよ、ジェラルド、じゃあ、なんで貴族を迷宮にぶっこむのだ?」
ジェラルドは口を開くとイヤミを言う生物だから、気にする事はないよ、コリンナちゃん。
「迷宮はどこに出来るかわからん。貴族の領地に発生する可能性もある。なので、迷宮で事故が起こらないよう、そして、迷宮を使って領地を発展させるために、貴族は迷宮を学ぶ必要があるのだ」
「ああ、そういう事か」
「迷宮からは資源が出る、魔物の、皮、肉、各種体液、そして、六属性に分かれた魔石だ。迷宮ができれば、領土の経済効果は計り知れない。そのための迷宮学習だ」
あれよね、迷宮って近所の油田みたいな物なのだよな。
前世では遠くにしか無かった油田が、各地にある感じ。
迷宮から出る魔石で、この世界の魔導文明は支えられているのだ。
迷宮というものは、いきなり出来て、いきなり枯れる。
なぜ出来るのか、どうして枯れてしまうのか、学者が研究しているが、よくわかってないのだな。
大迷宮がいきなり枯れて、大国が困窮し滅びる、なんて事も、歴史上良くある事なのだ。
まったく迷惑な事だよな。
しっかし、飛空艇で大迷宮かあ、行きたいなあ。
早く二年生になりたいぜ。
何時までも飛空艇を見ていても仕方が無いので校舎に入る。
今日は壁新聞の更新は無いようだ。
基本的に月曜日更新らしい。
さて、今日も授業をがんばるぞい。
A組に入って、カロルとエルマーにおはようの挨拶をする。
やあ、今日もカロルは可愛いねえ。
「見た、飛空艇?」
「見たわ、凄いわね」
「カロルは乗ったことある?」
「無いわよ、よほどの貴族じゃないと乗れないわよ」
伯爵令嬢でも乗った事がないのかー。
レア乗り物だなあ。
水曜日の授業は、地理、音楽、社会、武術の四コマだ。
社会科系の多い曜日だなあ。
音楽の授業は音楽室に行って、初歩的な楽器の鳴らし方を習う。
ボロンボロン。
音楽も上流貴族の大事な教養だから、上手い人も多いね。
ジェラルドがなにげに上手いのがムカつく。
陰険メガネのくせに。
勝ち誇ったどや顔に殺意さえ覚えるぞ。
社会の授業は、この国の政治の仕組みを習う。
前世で言う中世と近代の中間ぐらいの世界なので、だんだんと行政システムも複雑化してる所なんだよね。
税金とって適当に領地経営をしていればオッケーだった頃とは違い、ちゃんと領民、市民にサービスを提供しないと不満が出るようになって来ているっぽい。
あんまり非道な事をすると反乱が起こってしまうので、利口に支配しましょう、というのが社会の授業の内容だ。
まあ、貴族の学校だしね。
四時間目は武術の授業。
もう、カトレアさんも絡んでこないので良い感じだね。
「おや、キンボールさん、それは小太刀の木刀だよ」
バッテン先生が、小太刀の木刀を手にとった私に声をかけてきた。
「はい、小太刀が手に入ったので、双剣な感じにしようかと」
「ふむ、小太刀と短剣かあ、ちょっと見てみよう、持ってきてるかね?」
「はい、ちょっとま……」
ダルシーが現れて、こちらに小太刀と短剣を差し出していた。
君、午前中はカリーナさんに家事の特訓を受けているのでは?
たまたま空いた時間だったのだろうか。
諜報メイドは謎だ。
まあいいや。
「ありがとうダルシー」
「いいえ、マコトさま」
ダルシーは姿を消した。
「これはっ、すごいねっ」
バッテン先生が小太刀を手に取って感嘆の声を上げた。
コイシちゃんが小走りで寄って来た。
「わ、わああっ、何だみょん、これっ」
「子狐丸だよ、ビアンカさまに貰ったの」
「はあ? ビアンカ様にかい?」
「ええ、ちょっとご縁がありまして」
「抜いていいみょん、いいみょん」
コイシちゃん凄い食いつきだなあ。
「いいよ」
コイシちゃんはバッテン先生から小太刀を受け取った。
鯉口を切って子狐丸をすらりと抜く。
刀身がキラキラと光り輝いた。
「すっごいみょん、これ、蓬莱本島の国宝みょん」
「げ、蓬莱から返せとか言われるかな」
「どうみても三百年以上前の物みょん、返せとか無粋なことは言われないと思うみょん」
コイシちゃんの頬が赤くなって、息があらくなっておる。
刀剣好きなんだなあ。
刀剣女子だ。
「子狐丸がどう見てもメインウエポンになるね、ユニコーン剣は改造してマンゴーシュのように使うか」
「盾剣として使うかんじですか」
「そうだね」
バッテン先生は盾剣の木剣を渡してくれた。
ふむ、ユニコーン剣は改造するのか。
双剣は難しそうだなあ。