第11話 学期の最初をのんびりとすごそう
エステル先輩と、護衛女騎士さんたちに徹底的に絞られて、夜も更けてから私とカロルは解放された。
「さあ、みなさまでお風呂に入るのですっ」
「ええっ」
ユリーシャ先輩が唐突に入浴のお誘いをしてくる。
ちなみに、王立アップルトン魔法学園は浴室完備である。
さすがに乙女ゲーなので、ガチ中世の、一生お風呂に入らず、お湯で体を拭うだけというリアルは採用されなかった模様です。
よかったよかった。
「か、カロルといっしょならー」
「ご、ごめん、マコト、私は自分の部屋のお風呂に入るよ」
「えーっ」
カロルの裏切り者ー。
「ユリーシャ、君のペントハウスにもバスは付いているだろう」
「わたくしは、マコトさまと、裸のお付き合いがしたいのですわーっ」
ユリーシャ先輩は、エステル先輩に駄目出しされて、耳を引っ張られて行ってしまった。
ふう、なんか色々な危機をさける事ができた。
ゆりゆり先輩はなんか、ガチレズっぽくて困る。
真琴の頃の女子校時代にも、ああいう先輩がいたなあ。
「じゃあ、お風呂行ってくる、お休みカロル、また明日」
「また明日、マコト、ごきげんよう」
一人で、寮の地下の大浴場へと向かう。
上級貴族さんたちが住む、高級マンション級のお部屋にはお風呂がついているのだが、ビジネスホテル級の部屋に住む哀れな下級貴族さんたちは、地下大浴場を使うのだ。
戸を開けて、中に入るともうもうとした湯気。
夜も遅いので、私の他には、一人しか入ってない。
湯船にポツンと、ロリが入っていた。
なんだか、凄い綺麗なロリだなあ。
こんな子いたかな。
かけ湯をして、体を洗い、しずしずと湯に入る。
ふあああ、お風呂は良いねえ。
この世界、温泉もあるんだよねえ。
修学旅行は、温泉のある北の国にいこうっと。
「ふう、極楽極楽」
「マコト? あんたおっさんくさいわ」
「おろ? コリンナちゃん?」
コリンナちゃんは、近眼の人特有のすがめた目でこちらを見た。
「うっそ、コリンナちゃん、メガネないと凄いカワイイよ」
「下級貴族に大事なのはねえっ、カワイイよりも、仕事ができるなのよっ」
「普通にお嫁さんに行けばいいじゃんよ」
「貧乏男爵家なんか、ろくな縁談がこないわよっ」
「それは世知辛いねえ」
「お気楽な聖女候補さまと違って、貧困貴族は大変なのよっ」
世界は、どこでも、いろいろと大変ですな。
ほかほかになったコリンナちゃんと一緒に、205号室に戻ると、メイドさんたちは、もう就寝しておられた。
やれやれ今日は疲れたと、はしごを登り、上段のベットに潜り込む。
ベッドの上でパジャマに着替えて。
おやすみなさい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
人が、がさごそする音で目を覚ました。
カーテンを引いて下をのぞき込むと、メイドさんたちが絶賛着替え中であったよ。
「ごめんね、起こしちゃって」
「メイドさんの朝は早いんだねえ」
「お嬢様を起こしに行かなきゃならないからね、あんたたちはあと、一時間ぐらいは寝れるよ」
「ありがとう、お仕事がんばってね」
「はい、行ってくるわ」
「行ってくるよ」
メイド組は出勤していった。
ふああ、眠い眠い。
うとうとしていたら、コリンナちゃんが着替えておった。
ロリの生着替え~、うひひ。
「なに変な顔で見てるのよ、朝食に遅刻するわよ」
なにいっ。
私は慌てて、洗顔して着替えた。
いかんいかん、ロリの生着替えに夢中になって、朝ご飯に遅刻するなど、淑女にあるまじき行為だ。
私が最後に出たので部屋を施錠して、廊下を足早に行く。
ふう、なんとか最後くらいに、寮の大食堂に入ることができた。
トレイに朝ご飯を取って、適当なテーブルで食べるシステムだ。
今日のメニューは、ポリッジにミニサラダか。
うーむ。
ぱくり。
ポリッジというのは、押し麦の粥なんですが、なんだろうな、この味は。
しょっぱくて、でろんでろんに伸びたコーンフレークみたいな。
塩味がきつい。
まずいなあ、まずいなあ。
ミニサラダのお野菜も、しおしおでござる。
「ふん、毒は平気なのに、まずいポリッジは駄目なのね」
「まずいものはまずいよ、コリンナちゃん」
「しっかり食べないと倒れるわよ、まずくても完食よっ」
「はーい」
コリンナちゃんは当たりが強いけど、意外に世話焼きだなあ。
しかし、まずいなあ、これは塩味の粘土かなんかだよ。
なんとか、まずいまずいポリッジを完食して、鞄を持って、校舎へ向かう。
校舎と女子寮の距離は徒歩五分ほどだ。
けぷっ、なんだか口の中が塩ポリッジ味だ。
小走りで、一年A組に飛び込む。
カロルはもう来ていて、教科書を開いて読んでいた。
「おはようカロルっ」
「おはよう、マコト」
おや? カロルの机の上にあるのは、ノート?
「植物紙のノートってあるのっ?」
「最近、王都で流行っているのよ、植物紙のノート」
「お、お高いんでしょう?」
「羊皮紙の三倍、ぐらいかなあ。量産が始まったら安くなるって言ってたわよ」
羊皮紙の三倍かあ、それはそれで結構なお値段だ。
だが、買う、お小遣いをはたいてでも買う。
教皇さまにおねだりしてでも買うっ!
植物紙があれば、BL漫画が描けるじゃあありませんかっ!
鉛筆もどこかにないかなあ。
木炭と油絵の具は発見済みなんだが。
王都中の画材屋さんを探しまくろう。
とはいえ、私の今日の筆記用具は、羊皮紙とインクとペンだ。
分厚くて重くて、書くのが大変な上に、失敗は許されない。
というか、失敗すると、ナイフで表面をがりがり削るのだ。
アンソニー先生が来て、朝のホームルームが始まる。
お昼休みに学園の外に出ることはかまわないのだけど、一時までに帰るように、とのこと。
一秒でも遅れると夕方まで閉め出しだそうだ。
きびしい。
ひよこ堂へパンを買いに行くときには気をつけないといけないな。
先生は女子寮の毒殺未遂についても言及した。
現在、警護騎士が鋭意捜査中なので、憶測で噂などを流さぬよう、なにか真実があれば発表するとのことだ。
「あと、マコト・キンボールさん」
「あ、はいっ」
「くれぐれも、行動は慎重に、つとめて自重なさいね」
「はーい」
私はちっとも悪くないのになあ、解せぬ。
そして授業が始まった。
国語、数学、歴史、魔導理論と、午前中は座学であるよ。
私はオタクなので、国語と歴史は大の得意だ。
この国の歴史はそらんじて言えるし、おすすめの歴史偉人カップリングも沢山あげられる。
おすすめは、主従を超えた、燃え上がる禁断の愛!
「ゆるせ、大義のため、お前の愛には応えられぬ、来世でまた会おうぞ!」
みたいなー。
あと、戦場での強敵への燃え上がる思い!
「おぬしは宿敵、だが、なぜか、俺の心にはお前の姿だけが焼き付くように浮かびあがるっ!」
とかなー、むふ~。
「また、マコトが変な顔をしているわ」
ほっといてくれたまえカロル。
私はこれで歴史を覚えたのだ。
カップリング暗記法と命名しよう。
数学に関しては、魔法学園で習うのは、前世での中学程度のものなので楽勝です。
これ以上の高等数学は、測量とかする専門的な官僚さんが習うっぽい。
貴族的には領地の帳簿を見ることができるぐらいのレベルがあれば十分らしいね。
魔法理論も、魔法の理屈がわかって面白い。
なぜ魔力が発生してるのかとか、どうして詠唱で魔力が現象に変化するのか、とか、細かいところは不明だそうな。
とりあえず、実験に次ぐ実験で、経験則的に理論を組み立てているそうです。
前世でも、脳の働きがふわっとしていたのと同じかな。
神経電流によって、心がどうして生まれるのかは解っていない、みたいな。
そんな感じで、座学万歳、であります。
ああ、勉強たのし~。
キンコンカンコンと耳慣れたチャイムが鳴り、午前の授業は終わりであります。
「お昼はどうする、カロル?」
「昨日言っていた、マコトの実家のパン屋さんに行こうよ」
「あ、そうだね、行こう行こう」
む、エルマーきさま、なぜついてくる。
「一緒にパン屋に……、行きたい」
「ええ、一緒に行きましょうか、エルマー様」
「おいしいパン、教えてあげるよ」
「パン屋に行ったことが無い……、楽しみ」
三人で廊下に出ると、予想通り、カーチス兄ちゃんがよってきた。
「おう、今日の昼はどうするよ」
って、あんた、一緒に食べるの確定ですかよ。
「私らはひよこ堂にいくよ、カーチスはどうする?」
「噂のパン屋かあ、メイドに買いに行かせるもんじゃねえの?」
「私、メイドさん居ないし」
「あ、そういやそうだな。マコトがふてぶてしいから、すぐ上流階級だと勘違いするぜ」
「ほっといてよ」
カーチス兄ちゃんはしゃべりやすいので、ついため口をきいてしまうのだが、辺境伯って、本当はすごく偉いんだよね、公爵の下、侯爵と同じぐらいか、ちょっと上だ。
国の端にある広大な領地を持って、国境線を防衛している貴族なのだ。
主に軍事色が濃い貴族さまだね。
で、気楽にカーチス兄ちゃんとしゃべっていると、通りすがりの令嬢から睨まれる。
凍り付くような冷たい目で見られるよ。
まあ、それも平民上がりの聖女候補業界ではご褒美でございますよ。
おほほほほ。




